長崎県の壱岐市(壱岐島)は「消滅可能性自治体」の一つだ。

その地に「子宮系スピリチュアル」という風変わりなカルトを始めた「教祖」、あるいは「開祖」と呼ばれる女性が移住している。

 

若い頃に「子宮委員長はる」と名乗っていたその女性は、離婚と再婚を繰り返すたびに活動名を変え、現在は男嶽神社の宮司と再婚して「吉野さやか」と名乗っている。

 

彼女はもう、かつてのように「女は子宮の声(欲望の声)を聞いてご自愛(自分の機嫌をとる)しているだけで、お金にも男にも愛される」などとは声高に主張していない。

公開不倫もやめ、「嫌なこと(仕事・家事・子育て)はしなくていい」「子供は産んだら捨てていい」「男は女に尽くしていれば成功する」というかつての教義もひっくり返した。

 

現在は、家庭の大切さや、主婦が夫や家族に献身することの重要性についてご高説を垂れるという、日本会議もかくやと思うほどゴリゴリの保守に転身している。

だからといって、べつに心を入れ替えたわけではない。長いスパンで彼女を観察していると分かるが、もともと彼女に確たる宗教観はないのである。

 

その時々で、結婚していた男が「宇宙の法則」を説いて自己啓発セミナーをしていればそれに乗っかり、その夫と別れれば聖母マリアや天使を引っ張り出す。再婚相手が龍神を研究していれば龍を推し、別れたら龍などいなかったことにして、さらに神社の宮司と再再婚したとたんに日本古来の神を崇め始める。

 

要するに、彼女は「自分自神(自分こそが自分の神)」だと強がりつつ、実のところ「その時々で付き合ってる男こそが彼女の神」なのだ。

恋愛依存の女性は付き合う相手の好みに合わせて無節操に自分を変えるものだが、彼女もまるで服や髪型を変えるように、くるくると主義主張を変えていく。

 

かつて「一人の生活を愛するひきこもり」を自称していた彼女は、実のところ底なしの承認欲求を抱えている。

一時期の勢いは無くしたものの、それなりに信者を抱え、多額の金品を貢いで家族(再婚相手と連れ子)を買い、青森から両親と妹夫婦を呼び寄せて身の回りを固めても、それだけでは足りなかったらしい。

 

「愛されたい。認められたい。必要とされたい」

と叫び続ける彼女の内なるモンスターの目は今、壱岐島の島民に向けられている。

 

かつては全国に散らばる自分のファンに向けて、情報発信や情報商材の販売をすることだけを生業にしていたが、自分がプロデュースした化粧品やグッズを販売する雑貨店を始めたのを皮切りに、レンタルスペース、農園、飲食店、賃貸マンション、美容サロンの経営にも手を出した。

せっかく高額な情報商材でボロ儲けていたのに、島民から「変な宗教の教祖」「虚業家」と胡散臭い目で見られるのを気にしてか、何がなんでも実業家という肩書きと評価を得ようと必死なのだ。

 

ならば、地に足をつけて一つの事業に取り組めばいいものを、事業の実績よりも地域での評判を重視するせいで、まっとうな利益を出している事業は一つもない。

その証拠に、彼女は「壱岐島プロジェクト」と看板にかかげ、ひたすら事業の拡大につきすすみながら、常にファンにむかって寄付(金くれ)と個人融資(金かせ)を呼びかけている。

 

まっとうな起業家は、最初にあるていどの自己資金を準備して事業をはじめ、ひとつめの事業で利益を出す。そして、その実績をもとに金融機関から借り入れをするなどして新たな事業に投資をし、その利益をさらに別事業へ振り向けて事業を拡大していくものだ。

 

しかし、吉野さやかの事業はそのように回転していない。

彼女の場合は、新しい事業を始めようと思いついても、まず開業に至るまでの資金が足りない。

いくら情報商材やインチキグッズの販売で儲けても、浪費家で手元にキャッシュが残らない。社会的信用もゼロに等しく、金融機関から借り入れもできない。

 

そこで、新事業に手を出すたびにクラファンだといって、ファンから寄付と融資を募ることをくり返す。手がけている事業では利益が出ていないため、自己資金では新たな投資ができないためだ。

 

新たな投資ができないどころか、すでにスタートしている事業の運転資金が足りているのかどうかも怪しい。

雑貨店は休業状態であり、カフェや美容サロンは営業していてもお客や予約が入っている様子が見られず、損益分岐点を大きく下回っていると思われる。

 

だからこそ、彼女の大言壮語はひどくなっていくのだろう。

お金を貸してくれているファンたちの目を軌道に乗らない事業から逸らし、更なる資金を出させるためには、より大きな夢を語る必要があるからだ。

 

しかし、JA壱岐から島の駅壱番館を継承したのは、さすがに下手を打った。

自分の存在を受け入れてもらうために、島民に必要とされる事業を是が非でもやりたかったのだろうが、不幸な結果に終わることは目に見えている。

 

「さすがにJAが悪名高いカルト教祖に事業を継承させるのは問題ではないか」

ということで、さっそく週刊誌の記者が壱岐島に飛んだ。

スピリチュアル集団「子宮系女子」に乗っ取られた壱岐島の現在「島の駅まで彼女たちの手に落ちた」(デイリー新調)

玄界灘に浮かぶ長崎県の離島、壱岐島(いきのしま)は古来より朝鮮半島と九州を結ぶ海上交通の要衝だった。それゆえ鎌倉時代には、2度の元寇で壊滅的な被害を受けた歴史もある。その島で今、かの女子アナも傾倒した、スピリチュアルな集団が勢力を伸長させている。

「いくら何でもこれはマズイだろう」「JAは何を考えているんだ」と、ウォッチャーの間でもこの事実が話題になったが、なぜこのような事態に陥ったかと言えば、原因は3つある。

 

  1. 赤字店舗を持て余した上、食品を卸していた生産者および買い物に来る消費者(どちらも高齢者)の相手に疲れたJAが、高齢者ごと不採算事業を第3者に押し付けようとした
  2. 島の駅壱番館の利用者が、自分たちの暮らしの問題にも関わらず、困り事はすべて周囲の人がなんとかしてくれるべきだと考えている
  3. 住民の高齢化と人口減。小売業の縮小が同時進行する中で発生する買い物難民の問題に、行政が関与しようとしない

 

本来であれば、まずJAが島の駅壱番館の利用者から逃げず、不都合なことさえつまびらかに情報開示して、「この場所ではこれ以上の事業継続はできない」ことを分かってもらえるよう丁寧に説明すべきだった。

 

そして店の利用者側も、自分たちが住む地域では、もはやこれまでと同じ環境とサービスが維持されないことを受け入れなければならない。

そのうえで、行政を巻き込み、どうやったらこの先も生活に大きな不便を感じることなく、高齢の住民が住み慣れた地域での暮らしを続けられるのか。それぞれがどこまでの負担なら受け入れられるのか。痛み分けできる妥協点をさぐらなければならなかったのだ。

 

壱岐島に限らず、近頃の過疎地では小売業の廃業や撤退が相次いでいる。

食料品へのアクセスが困難になった地域では、自治体が食品の移動販売事業に補助金を出したり、スーパーまで無料送迎バスを走らせる対策を取るところが少なくない。

しかし、それすら利用者が少なかったり、人手不足で運転手の確保が難しくなったりで、事業が打ち切りになることも珍しくない。

 

地域住民を相手にする商売は、事業を継続していくために最低限必要な消費者数というものがある。商売していけないほど住民が減った地域では、誰が事業を継承しようと対面販売の小売業は成り立たない。

壱岐島のJAも直売所の利用者もそれを分かっていながら、問題を先送りにして、不採算事業をよそ者であるカルト教祖に押し付けたのだ。

 

べつに騙したわけではないだろう。たとえ相手が評判の悪い人物であれ、きちんと事情も状況も説明したのだろうし、吉野さやかも全てを納得ずくで引き受けたはずである。

しかし、大事なことなのでもう一度言うが、地域住民を相手にする商売は、事業を継続していくために最低限必要な消費者数というものがあるのだ。

 

島の駅壱番館の周辺は、すでに事業が成り立たなくなるほど消費者が減っており、これからさらに減っていく未来が確定している。

島の駅の経営が上手くいっていた頃とは経営環境が変化しているにも関わらず、吉野さやかは引き継いだJAの直売所を、従来の規模とノウハウを変えないまま経営しようとしていることに不安を覚えずにはいられない。

 

経営者の来歴がどうあれ、島の駅壱番館の経営が黒字化し、これからも地域住民に愛される店として事業が続いていくなら、それが一番だ。

しかし、その未来はあり得ない。

吉野さやかがどれほど「続けてくれてありがとう」という利用者からの感謝の声をはげみに奮闘しても、地域の高齢化と人口減はどうにもならないのだから。

 

ならば島の駅の赤字を他の事業からの利益で補填しなければならないが、残念ながら黒字を出している事業はない。

吉野さやかは事業への投資資金と運転資金をこれまでもファンからの借金に頼っており、その累計額はすでに4億円に膨らんでいる。現時点ですでに返せる額ではないが、どの事業も黒字化の目処が立たない以上、これからもファンを頼り、借金をし続けて事業を継続していくことになるだろう。

 

けれど、いつかどこかでファンたちの財布も限界を迎え、無い袖は振れなくなる。

そうなると、吉野さやかが泣こうが脅そうが資金が集まらなくなり、運転資金の無くなった事業は破綻していかざるをえない。

 

最終的に借金は返済不能に陥るが、もともと借用書のない借金だ。しかも借入先は熱心なファンなのだから、「ファンからの融資」はいつしか「信者からの献金」と形を変えることになり、吉野さやかの借金は棒引きになるのではないだろうか。

 

地域そのものが衰退している現状では、誰に事業を任せようと島の駅の経営難は解決しない。いずれ買い物難民が発生する事態も避けられない。

関係者は今から備えておくべきだろう。

 

 

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【著者プロフィール】

マダムユキ

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