・今日の話は、【前半】は日本で進む少子高齢化の統計上のお話、【後半】は北海道の風景のお話です。

 

前半:少子高齢化の話

東京オリンピックが終わってしばらくしてから、私は「飲食店の営業時間が短くなった」「前より待たされるようになった」と感じる気がしていた。

しかし本当にそうなのか自信が無かったので黙っていたが、最近、似たような内容のまとめがtogetterにアップロードされていた。

 

「働き手不足はこれから加速度的に進行して生活インフラの維持さえ難しくなるよ」という、かなり確定的で暗澹たる未来予測の話

 

これによれば、日本では少子高齢化によってインフラの劣化や労働力不足が急速に進んでいく……という。

 

私も、これは不可避だと思っている。

なぜなら、未来を予測する指標のなかで人口動態は最も身も蓋もないもののひとつで、覆しにくいものだからだ。団塊ジュニア世代が第三次ベビーブームを起こせなかった時点でそうした未来は約束され、人口縮小による国力の低下も確定していた。

 

あらかじめ断っておくと、移民はあてにしないほうがいい。これから世界人口が減少に転じるにつれ、移民は、東アジアのわけのわからない言語を用いる国には来なくなる。高い技能を持った移民や都市生活への親和性を持った移民は奪い合いになり、日本がその争奪戦に勝てる見込みは乏しい。

 

こうした話を、都市経済学の立場からより詳しくされている先生がいらっしゃる。京都大学の森知也先生だ。

 

都市を通して考える日本の未来 / 森知也 第4話 100年後の都市と地域のすがた (前編)

都市を通して考える日本の未来 / 森知也 第4話 100年後の都市と地域のすがた (後編) 

 

森先生は、都市人口の移り変わりを統計的モデルを用いて分析している(仔細は上掲リンク先の(前編)後半パート等に記されているので、興味があったらご覧いただきたい)。この分析結果がとても興味深かったのでちょっと紹介したい。

 

興味深いことその1.

日本の人口は一律に減少するわけではない。いくつかの都市に人口が寄り集まりながら減少し、小さな地方都市はついに消滅していくという。

森先生のブログから拝借した図Aをご覧いただきたい。一番近未来の2020~70年代の予測において、人口シェアが高まっていくのは札幌都市圏・仙台都市圏・東京都市圏・名古屋都市圏・福岡都市圏あたりだ。細かく見るなら、広島都市圏や岡山都市圏といった西日本の大都市も頑張っている。

 

しかし、高齢化率や(新幹線などによって東京に紐付けられた)ストロー現象が起こっていくため、東日本や静岡県の諸都市、大阪都市圏などでは人口シェア率が低下していく。

 

この図を読む際に留意していただきたいのは、「人口シェアの成長率が高いからといって、人口が増えているわけではない」ということだ。

 

たとえば図のなかで紫色に塗られている東京は、人口シェア成長率が10%超と予測されているが、3400万人という数字は今日を下回っている。人口シェア成長率がマイナスの大阪都市圏の人口減少の度合いは推して知るべしである。少子高齢化による人口減少は、おおむね中小都市圏→大都市圏への人口移動というかたちをとるが、その現象は一律ではない。

なにより、大局的にみれば人は減っていくのだ! 図Bは森先生による2170~2120年の変化だが、人口シェア率の高い福岡都市圏でも、人口そのものは200万人まで減少している。それ以外の地方都市の人口減少ははるかに著しく、たとえば札幌都市圏は88万人、仙台都市圏は55万人と、ごっそり人が減る。冒頭で語られていた人手不足は、東京を含め、どこでも深刻になっているだろう。この時期には世界人口そのものが減り始めているから、移民が期待できないどころか、人材の国外流出さえ懸念される。

 

もうひとつ、興味深いことがある。

それは、こうした「幾つかの都市への人口集中(と人口減少)と並行して、都市の人口密度が下がっていく、というお話だ。「人が都市に集中するなら、人口密度が高まっていくはず」と思うかもしれないが、案外、そうではないらしい。ここでも森先生の図Cをご覧いただきたい。

1970年と2020年を比較すると、東京都市圏の最大人口密度に関してはもうピークアウトしている。そして2070年→2120年と時代を経るごとに人口密度は平準化していく。森先生のブログでは、こうした人口密度の平準化が他の都市圏でも起こるさまも示され、東京が例外ではないことがうかがわれる。

 

そうなった未来の東京はどうなるだろう? 人手不足が加速し、人口密度の平準化が進み、各種インフラの維持さえ困難になった老人の街、東京。そうした街において、たとえばタワーマンションはどのような存在となっているだろうか。

今日の東京のタワーマンションには需要があり、資本主義的な「神の見えざる手」に基づいて高値で取引されている。それはそうなのだが、人口動態予測は、未来の東京ではタワーマンションが要らなくなることを示している。

 

人間ひとりひとりの寿命は短く、人間が家やマンションを買うか買わないかを決断できる時期はもっと短い。ために、東京の人口密度が下がる未来を待っていられない人も多い。そうした事情を見透かしたうえで、不動産業者や宅建業者はタワーマンションを商っているのだろう。そうした現象は、「神の見えざる手」のロジックによって正当化されるようにも思える。

だが、住宅ローン減税などが象徴しているように、不動産や宅建まわりには制度的側面、ひいては政治的側面がついてまわることを忘れるわけにはいかない。

 

そうした資本主義的・制度的・政治的側面まで考えた時、日本国と日本国民が人口減少局面にどう向き合っていけるのか、よくわからない。民主主義国家において、為政者の判断は国民の判断を反映するものである。誰もが半世紀先の日本のことなんて考えていられないとしたら、それにふさわしい為政者、つまり半世紀先の日本のことなんて考えない為政者が日本を統治し続けるだろう。だからこのままでは、なるようにしかならない。

 

後半:北海道の風景の話

人口減少と、それによって起こる都市の消滅や密度低下が進行したら、どんな風景が待っているだろう?

 

人口がスカスカになった街というと、私は北海道の地方都市を思い出す。北海道の地方都市はもともと人口密度が小さく、最も早くから過疎化が進行し、旭川や釧路でさえ人口減少の兆しが見え始めている。

ということは、北海道の風景は、日本の未来を先取りする風景としてある程度まで参考にできるのではないだろうか?

北海道の玄関口といえば、なんといっても札幌市だ。時計台の周辺は都会らしい街並みで、狸小路商店街やすすきのといった賑やかなエリアもある。文化的・教育的な施設もそこらの県庁所在地より充実している。

札幌駅の列車の本数にしてもそうで、ローカル列車、特急列車、エアポート快速がたくさん行き来している様子はさすが北海道の中心地、といったところだろうか。

 

しかし、その札幌の街でもちょっと気になることはあった。

 

それは道路のコンディションだ。

札幌の道路は碁盤の目のように整理され、しかも広い。それはうらやましいのだが、路面のあちこちでアスファルトがひび割れ、ところどころ穴が開いていた。路面の白線もけっこう剥げている。札幌以外ではこの傾向がもっと顕著になる。

 

こうした道路のコンディションは、東京のそれよりも金沢や富山のそれに似ている。冬季にスタッドレスタイヤ等の使用が避けられず、路面がどんどん痛んでいく地域の路面だ。

あるいは、道路というインフラが傷んでいく速度と修理していく速度がギリギリのところで拮抗している自治体の道路だ。

 

そして札幌を離れると、たちまち過疎の気配が漂ってくる。

上掲写真は網走駅だが、これは昭和52年に改築されたものだという。wikipediaによれば、1970年代には60万人台だった年間利用者は減少の一途をたどり、2020年代には10万人を割り込んだという。網走以外もそうだが、建物と建物の隙間が広く、街全体がスースーした感じになっている。

 

そうした傾向は、幹線道路沿いの風景にも反映されている。

ドラッグストアがあり、スーパーマーケットがあり、カーディーラーがある。そこまでは本州の幹線道路沿いと同じだが、本州のそれよりずっと密度が薄い。バーミヤンか、ロイヤルホストか、丸亀製麺か、サイゼリヤか、といった具合にチェーン店を選り好みするなど不可能だ。ただし、ガソリンスタンドはたくさんある。鉄道が弱体化した北海道ではガソリンがなければ生きていけない。灯油もそうだろう。

 

そして人口が疎だからか、あちこちの街に動物が出る。

写真はエゾジカだが、北海道の市街地ではあまりに頻繁に見かけるので、しまいにカメラを向ける気がしなくなってしまった。2024年の10月9日、京都府福知山市でシカに刺されて男性が死亡する事件があったが、エゾジカも繁殖期には危ないだろう。

 

そのうえ北海道にはキタキツネもいる。薄汚れた犬のような姿のキタキツネたちは、致死率の高いエキノコックス症をもたらす動物として恐れられているが、人を怖れる風でもなく街をうろついていた。なにより北海道にはヒグマもいる。

 

こうした諸々を考えると、北海道は過酷な土地だな、と思う。生活できないことはないが、インフラの整備がギリギリで、自家用車やガソリンの備えが必要で、街には害獣たちが侵入してくる。

 

これは、いつか本州でも起こることではないだろうか? ヒグマやキタキツネは防げるとしても、本州土着の害獣たちが今以上に猛威をふるうようになり、高温多湿な地域にはマラリアが上陸してくるかもしれない。インフラの整備がギリギリになれば、太平洋側の諸都市でも道路はボロボロになっていくだろう。

 

悲観し過ぎてもいけない

ちなみに、北海道が悪いことづくめだとは思わない。

森先生もおっしゃっていたが、北海道は大規模な農林水産業の地でもある。人口密度が下がった未来の本州でも、大規模な第一次産業が開花する未来があるかもしれない。今までのインフラをそのまま全部維持するのは難しくても、上手に街や地域を折り畳むことができればインフラの水準を保てるかもしれない。

もちろん、そのためには政治的合意が必要になるわけだが、少子高齢化が洒落にならなくなり、過疎地域で暮らすことの命の危険性が跳ね上がれば、政治的合意を導く機運が立ち上がってくるかもしれない。

 

だから、この問題をとにかく悲観的に捉えるのも違うように私は思う。日々の危険が高まったとしても、人は暮らしていかなければならないし、暮らしていくものだ。

人口が半分になり、インフラの質や生活の質が低下したとしても、つべこべ言いながら未来の人は暮らしているに違いない。ただ、そうして運命を受け入れるためにも、発展の記念碑ぐらいはあって良いように思う。

北海道には写真のような駅跡地がぽつりぽつりと残されていて、昔の面影をしのぶことができる。モータリゼーションが行き渡るまで、鉄道は北の大地の貴重なインフラ、それこそ命綱だったに違いない。その命綱に対する思いは、道路網ができあがった後の私たちには正直言ってわからない。

しかし将来どんどん人口が減少し、多くの人が住み慣れた土地を離れなければならなくなった時には、郷土を思い出せる記念碑、かつての自分たちを回想する何かが必要になるだろう。

 

北海道発展の痕跡をいくつか訪問し、私はそんな未来を想像した。

 

 

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【プロフィール】

著者:熊代亨

精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。

通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)『認められたい』(ヴィレッジブックス)『「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?』『健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて』(イースト・プレス)など。

twitter:@twit_shirokuma

ブログ:『シロクマの屑籠』

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Photo:Cecelia Chang