ある会議に出席していた。ある商品プロモーションの企画会議だった。
そして、その日はある若手が、商品プロモーションの企画案を発表する手はずであり、10数名の参加が見込まれていた。今回の商品は社長の肝いりのものであり、皆が注目する企画会議であった。
会議開始から5分ほどして、若手の企画案のプレゼンテーションが始まった。
プレゼンテーションの技術は稚拙なものの、骨格は概ねよく練られた案だった。ただし、それなりのお金がかかる案であり、社長がイエスというかどうかは、微妙な状態だ。
プレゼンテーションが終わり、質疑応答に入る。その若手が「何か質問はありませんか」というと、何名かが手を挙げる。
一人の営業マンが指名を受け、質問を行った。
「かなりのお金がかかる案だと思いますが、費用対効果はどのようにお考えなのですか?」
確かに、若手は費用対効果について説明を行っていないわけではなかったが、その部分については多少説明不足を感じる部分ではあった。
若手は答えた。
「費用対効果は高いと思います。ただ、この予想が正しいかどうかは、最初のマイルストーンでデータを検証したいと思っています。」
「そういうものは、事前の検証が必要ではないでしょうか?現状だと、あまりにデータが足りない。どうするつもりなのですか?」
「……そうですね、いくつか方法を考えます。」
さらに別の一人が質問をする。
「この、「広告作成」について、このラフスケッチだけだと、広告のイメージがわかないのですが?」
「広告のイメージは、まだ業者選定の段階にあります。幾つかのコンペを経て、選択するつもりです」と若手が言う。
「これだけだと、判断できないよ、きちんとある程度固めてから、ここで発表してくれないと」
「……はい。」
若手は、明らかに当惑していた。
そこへ別の部署の課長が、スッと割り込んできた。
「いいねえ、この企画。」
開口一番、彼は言った。
「先ほどの費用対効果のところだけど、先日ウチの部署でやった施策のデータが使えるかもしれない。それで一つ、検討してみてもらえないかな。確かに検証するための材料が少ないけど、行けそうな気もする。」
「はい。わかりました。」
「あと、広告のイメージは◯◯という代理店に一度相談してみてはどうかな。たしか彼らが今までに使った業者が似たようなことをやっていた可能性がある」
「ありがとうございます、助かります」
そして、会議は終了した。
会議が終わり、その課長は若手のところへ行き、何か情報を渡して帰っていった。先ほどの質問をした営業マンはすぐに出て行ってしまった。
その課長は私のところへ来て、「あの企画、どうでしたか?」と私に聞く。
「良い企画だとと思います」
「まあ、そうなんですがあの営業たちにも困ってるんですよ。」
「どういうことでしょう?」
「いやね、会議には2種類の人達がいるわけです。他者を攻撃することで、有能さを示そうとする人と、助けることで、有能さを示そうとする人です。」
「……?」
「さっきの営業たちは、あの若手の案を攻撃することで、全体にアピールしていたのですよ。「我々は優秀だぞ」ってね。でも、案は何も出さない。若手の言いたいことを深く理解しようともしない。
でも、それじゃダメなわけですよ。会社なんだから、みんなで協力したほうが良いに決まっているし、「もっと良くすることができる」アドバイスをしたほうが全体として遥かに有益じゃないですか。それをわかってくれると良いんですけどねぇ。
まあ、追求するほうが手助けをするよりは遥かに簡単ですからね。」
そんなものなのだろうか。私は過去に参加した会議を思い返した。
たしかに、そうかもしれない。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
・筆者Facebookアカウント https://www.facebook.com/yuya.adachi.58 (フォローしていただければ、最新の記事をタイムラインにお届けします))
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(Photo:Clyde Robinson)