失敗の本質という本がある。
旧日本軍の行動原理を京都大学の学者が分析し、日本が戦争に負けた原因を探っていくという本で、よく日本型経営の弱点を知るための教材として様々な雑誌で名著と紹介される事の多い本である。
失敗の本質: 日本軍の組織論的研究 (中公文庫 と 18-1)
- 良一, 戸部,寺本 義也,鎌田 伸一,杉之尾 孝生,村井 友秀,野中 郁次郎
- 中央公論新社
- 価格¥406(2025/06/07 21:03時点)
- 発売日1991/08/01
- 商品ランキング5,126位
僕も以前この本を読んだ事があるのだけど、どうにもこうにも内容が頭に入ってこなくて困っていた。
日本史にあまり詳しくないからなのかもしれないけども、これを読んでも「そもそも”失敗”って何だろう?ミスと何が違うのか、さっぱりわからん」と疑念が拭えなかったのだ。
それが最近、”人生を壊しかけた人達”についての記事を書く機会に恵まれ、ようやく失敗というものがどういうものなのかについてキチンと理解する事ができるようになった。
これは非常に有益な知見だと思うので、今回は”人生の失敗”が果たしてどういう事なのかについてを書いていこうかと思う。
「失敗学」における失敗はピンとこない。
僕は以前にガチ恋おじさんや医学部・司法試験の多浪生についての記事を書いた。はじめに断っておくが、個人的に彼らについて良いとか悪いといった感情はない。
人の生き方は自由だ。彼らは彼らなりの意思があってああいう人生を選択したのだろうし、アイドルに真剣に恋しようが、人生の大半の時間を受験勉強に費やそうが、それがその人が選んだ生き方ならば、それがその人の人生である。
その人生のあり方が良いか悪いかを決めるのは自分だし、他人が批判なんてしても仕方がないだろう。
ただ自分の子供がああいった人生に行き着いて欲しいかというと、できれば避けて欲しいという事例ではあるなとは思っているのもまた事実ではある。
良い悪いは置いといて、仮にその人生を自分や身内がやるなら「キッツー」だろうな、と思ってしまうという事については認めざるをえない。
さて話を元に戻そう。一時期、失敗学という名のジャンルのものが流行った事がある。
失敗に学べと歴史上の数々の事例をとりあげ、それを教訓にして安全で安心な未来が構築されました、というような内容のものが多かったと記憶している。
この失敗学の本。確かに読むと勉強になるようなものが多いのは事実なのだけど、じゃあ実際問題自分の人生に置き換えてみて、人生の失敗って何に相当するのだろうかという事を考えた時、イマイチ具体的なものが思い浮かばず腹落ちしないものが多かったのである。
例えばとある失敗学の本では、初期の不安定な飛行機を具体例にあげて
◯はじめの頃、飛行機は初めはお世辞にも安全なものではなく何度も何度も墜落するような欠陥品であった。
◯だが、だからといって飛行機自体が駄目なものだとは決めつけず、その都度瓦礫を掘り返して”なぜ墜落したのか”を分析し、対抗策を何度も練っていった。
◯一度の失敗で全てを駄目と決めつけず、手痛い失敗を乗り越えながら試行錯誤をしていったからこそ、今の安全な飛行機が生まれたのだ
といった種類のエピソードが書かれていた。
けど僕個人としては、いまいちそこから何が学べるのかがわからなかった。
この話を読んでも正直なところ
「はあ。そりゃ確かにそうでしょうなぁ」
以外の感情がわいてこなかったのである。
僕の頭が悪いからなのかもしれないけれど、歴史上の失敗から学べとか言われても実際問題その事例を自分の人生にどういう風に応用できるかがサッパリわからなかったのだ。
例えば自分が食中毒で死んだ後に、行政の人が死因を分析して「人が死なない仕組み作り」をしたとして、そりゃ人類的には意味があるかもしれないけど、少なくとも自分はその時点で死んでしまっているわけであり、そんなのその後の”自分の人生”には全く役に立たないではないか、と思ったのである。
実は「負けを認められないこと」が、失敗である
さて前置きが長くなったので、具体的な人生の失敗についてをはじめに定義しておこう。
端的に言うと、人生の失敗というのは
“負けを認められずに負けた場所で勝負をし続ける事によってうまれるものだ。負けという痛い感情を全面的に認めて、次の勝負に繰り出せればよいのに、それができない人間が人生に失敗するのである”
これではどういう事かわからない人もいるだろうから、具体例を用いて話をしよう。
例えばあなたが、とある人と結婚したとしよう。結婚するまでは凄くいい人だと思っていたし、お互い愛し合っていたし、おまけにキチンと素晴らしい職業についており、周囲からは「あんなにいい人と結婚できるだなんて、君は本当に果報者だな」と言われるような素晴らしい伴侶であったとしよう。
この時点では、この人は10人中10人が素晴らしい選択をした、と思うだろう。
けど実際に結婚してみたら、相手はひどく浮気性でおまけに多額の借金があり、さらにはDVをしてくるような相手だったと判明したとしよう。
この時点で、ようやくこの選択は残念ながらあまりよいものでなかったと判明するに至ってしたった。こればかりはもう、運が悪かったとしかいいようがない。
人生、どうしても幸・不幸があるのは事実であり、不運はどんなに石橋を叩いてもある一定量は遭遇しえてしまうものである。
この時点では、この人は単なる不幸でしかない。少なくとも人生の失敗ではない。
けど不幸な選択をしてしまったと判明した後に
「ひょっとしたら相手がいつか変わってくれるかもしれない」
と相手に期待して、負けが決まった時点で勝負に負けた事を認められずに一度負けた場所で逆転を狙って勝負をし続ければ、十中八九の確率で”人生に失敗する”
その後、”負けが決まった場所”で、負けを認めずに勝負しつづける期間が長ければ長いほど、人生が壊滅的に壊れる。
これが”人生の失敗”である。
繰り返すが、幸運とか不幸だとかをコントロールすることは普通の人には不可能である。絶対に負けない勝負だけを続ける事は100%不可能である。これはもう、仕方がない事実だ。
けど早期に損切りをして撤退さえすれば、また新しいチャンスをつかむ事はできる。
つまり失敗とは、勝負に勝つとか負けるというような単純な話ではなく、賭けに負けた時に「まだきっと勝てるに違いない」と非常に低い確率に夢をみてしまう事によって生じてしまう現象なのだ。
はっきり言って、自分が勝負に負けたという事を認めるのは非常に自分の心に痛い事だ。
アイドルに恋するのも、医学部や司法試験に多浪してしまうのも、不幸な伴侶に当たってしまってもそこから逃げ出せないのも、”自分が負けたという現実を直視する事があまりにも痛すぎるリアルであるからこそ認められないのである”
はたから見れば、なんでそんな勝ち目のない戦を続けるのかという風に見えるかもしれないけども、当事者は本当に必死なのである。だからこそ今回の勝負は全面的に負けたという非常に痛い感情を認める事ができないのだ。
負けという痛い感情を全面的に認めて、次の勝負に繰り出せればよいのに、それができない人間が”人生に失敗する”のである。これが人生を失敗するという事の本質である。
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普通に生きて老衰すると仮定して、人生はだいたい80年ぐらいある。
80年間もの人生において、常に幸運ばかりがヒットし続けるだなんて事はまずないだろう。人生には良いこともあれば、悪いこともある。こればかりはもう仕方がない事だ。
ビックリマンチョコを買って、キラカードばかり当て続けるだなんて事は絶対にできない。何度も何度も同じ種類のシールが当たり続ける事の方が確率的には圧倒的に高いだろう。
人生もこれと全く同じである。あなたが夢を持ったとして、その夢にチャレンジする事はまったくもって構わない。むしろドンドン挑戦はするべきだ。挑戦しない人間には成功は訪れない。
けど挑戦してみた後に、旗色が悪そうな方向に転がっていってしまったら、躊躇せずに負けを全面的に受け入れて撤退するべきだ。そうしないと”人生が壊れる”
なおこう書くと人生を壊してしまった人には絶望感が感じてしまうかもしれないので一応フォローしておくが、人生が壊れたからと言って、その後の人生が全て壊滅的に駄目になるわけではない。生きてる限り、やりなおしはきくし、人生の失敗もその後のやりようによってはなんとでもなる。
例えばだけど、前にネットワークビジネスにハマってしまった漫画家がいた。彼女は確かに手痛い”人生の失敗”はしたかもしれないけども、それをネタにヒット漫画を書き上げる事に成功した。これは不幸を上手く成功に変換できたよい事例である。
人生は長い。不幸なんてそれこそ雨あられのように降り注ぐ。上手く生き続ける人の方が圧倒的に稀だし、時には失敗もしてしまうだろう。
けどそれでもキチンと撤退を決めることさえできれば、その後の選択次第ではやり直しはいくらでも可能なのだ。人生の決断はいつだって遅すぎるという事はない。
どんな体験でも「いい勉強になった」と思うことさえできれば、きっと明るい未来があなたを待っている。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【プロフィール】
都内で勤務医としてまったり生活中。
趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。
twitter:takasuka_toki ブログ→ 珈琲をゴクゴク呑むように
noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます→ https://note.mu/takasuka_toki
(Photo:gato-gato-gato)