先日、自分のブログに「内容の無いコミュニケーションを馬鹿にしている人は、何もわかっていない」という記事を書いたら、やたら反響がありました。
人間同士のコミュニケーションのなかで、「コミュニケーションの内容」が本当に問われる場面はそんなに多くない。
もちろん、業務上の指示やディベートの際には、内容こそが重要になる。しかし、日常会話の大半は、コミュニケーションの内容よりも、コミュニケーションをしていることのほうが重要だ。
その典型が、「おはようございます」「お疲れ様でした」「おやすみなさい」といった挨拶のたぐいだ。
リンク先を要約すると、
「世間話や挨拶といった、内容の無いコミュニケーションを馬鹿にしちゃいけない。そういうのは、コミュニケーションの内容よりも、コミュニケーションしていること自体が重要」
という話なのですが、この話は、まだ半分しか終わっていません。
ここからは、内容の無いコミュニケーションの難しいところや、攻撃的な意味合いについて、書き記してみようと思います。
空っぽのコミュニケーションにも、コストやリスクが伴う
挨拶や世間話のような、それ自体が目的化したコミュニケーションが人間関係を左右するのは間違いありません。ただし、挨拶や世間話をしまくれば良いかというと、そういうわけでもありません。
当たり前のことですが、挨拶や世間話にもコストやリスクが伴います。
ほんの少しとはいえ、時間を取られますし、キチンとやろうと気を遣えば精神力も消耗するでしょう。
一生懸命にデスクワークしている最中に、部屋に入ってきた同僚にちゃんと挨拶をしようとか考えてしまう人は、集中力も犠牲にしていると言えます。
時間や精神力や集中力を失ってしまうということは、挨拶や世間話とてノーコストではない、ということです。
また、何かに集中している時に、空っぽのコミュニケーションを仕掛けられるのは誰だって嫌なものです。
そういう忙しい相手に挨拶や世間話を持ちかけて、時間や精神力や集中力を浪費させてしまえば、信頼や親しみよりも、怒りを買ってしまうでしょう。
それ以外にも、「ここは、挨拶や世間話を持ちかけるより、スルーしたほうがお互いのためだ」という状況は結構あるものです。
わかりやすい例を挙げると、秘境の温泉宿で若い女性と過ごしている取引先の社長を見かけた時、挨拶をしにいくのはきわめてリスクの高い行為です。
本当にコミュニケーションの上手い人は、空っぽのコミュニケーションに伴うこういったコスト・リスクを心得ているものです。
挨拶や世間話をするのにふさわしい場とタイミングを見計らえるようになってはじめて、「空っぽのコミュニケーションが上手な人」と言えるのではないでしょうか。
空っぽのコミュニケーションがハイレベルになると、みんな苦しくなる
じゃあ、空っぽのコミュニケーションが上手な人が集まりさえすれば、万事うまくいくかといったら、そうとも限りません。
挨拶や世間話の上手な人ばかりで構成されたグループやコミュニティでは、洗練された挨拶や相槌が交わされて、世間話に花が咲きます。そのさまは、少なくとも表面的には、信頼と親しみが充ち溢れているようにみえます。
しかし、そのようなハイレベルなコミュニケーションがいったん成立してしまうと、誰も、挨拶や世間話に手が抜けなくなってしまいます。
たとえば、AさんもBさんもCさんもハイレベルにコミュニケーションをこなしている最中に、Dさんだけが挨拶や世間話をおざなりにしはじめたら、Dさんだけが不信や不興を買いやすくなってしまうでしょう。
空っぽのコミュニケーションをハイレベルにこなすのが当然になってしまった集団のなかで、一人だけ普通レベルのコミュニケーションで済ませるのは、簡単ではありません。
電通の女性の1人は、AKB48の『大声ダイヤモンド』の「大好きだ! 君が 大好きだ!」の「君が」を「仕事」におきかえた替え歌を披露していた。
照れの一切ない、一体こうなるまでに何度こなしてきたんだという洗練されたものだった。普通なら振り付けをこなすだけでじゅうぶん盛り上げ役の責務を果たしたと考えてしまうところなのに。ハードワークなサラリーマンに広く刺さるよう、絶妙なモジリをほどこすなんて。
すげえという眼差しで傍観していたが、ほかの電通の人たちは彼女の完璧な振り付けや替え歌には反応を示さず、当たり前のことのように、オーソドックスに盛り上がるばかり。替え歌の女性も、自分の気の利かせっぷりに誰も言及してないことなどお構いなく、曲中のすべての「君が」を「仕事」におきかえて歌いおおせていた。
すごい。ウケるとかスベるとかそういうものを超越した、ただ行為のみの世界だ。
電通というエンタメの長みたいなところにいる人たちが、ただただ空気の流れに身をゆだねる形のコミュニケーションをとっているのには、単なる体育会系のノリという以上に意識的なものがあると思う。合理的には言い尽くせないものの、恒常的にコンテンツを生み出し続けるのに必要な何か。その一端を目の当たりにして僕は「まちごうたな」と思うばかりだった。
上記リンク先は、電通の社員とカラオケに行った人のお話です。ハイレベルに気を利かせ合いながら、物凄い勢いで空っぽのコミュニケーションをこなしていく電通社員のエピソードは、圧巻としか言いようがありません。
しかし、彼らがこれほど気を利かせ合って、空っぽのコミュニケーションに心血を注いでいるということは、彼らが負担しているコストは肉体的にも精神的にも相当なもののはず。もちろん、時間的なコストもです。
電通で働くほどのエリートなら、バイタリティもコミュニケーション能力も国内最高水準には違いないでしょうけど、このような集団に所属しているうちは、空っぽのコミュニケーションに割くコストを節約するのは難しく、ちょっとでも手を抜けば不信を招くこと必至です。
電通は、労基署の立ち入りを何度も受けているそうですが、空っぽなコミュニケーションを全国最高レベルでやってのける人材が集まり、その空っぽなコミュニケーションが一種の伝統芸能になっているとしたら、これは、そう簡単には変更できそうにありません。
電通に限らず、たとえばスクールカースト上位のグループなどもそうですが、「コミュニケーションに費やすコストを下げましょう」とみんなで約束したとしても、この約束が守られるとは期待できません。
なぜなら、こうしたコミュニケーションの営みには、自分自身の社内での影響力や、スクールカーストが賭けられているので、コストを引き下げることなく、今までどおりに振る舞ったほうが有利に立ち回れるからです。
空っぽのコミュニケーションは、他人をふるい落とす武器になり得る
この事実を、視点を変えて考え直すと、「挨拶や世間話のような空っぽのコミュニケーションには、人をなぎ倒す武器になり得る」とも言えます。
あるグループ、あるコミュニティのなかで挨拶や世間話を励行し、お互いに気を使い合うよう意識しあって生まれるのは、コミュニケーションのユートピアとは限りません。
むしろ、コミュニケーションにコストをかけても耐えられる人間だけが生き残り、そうでない者がドロップアウトしたり影響力を制限されたりする、コミュニケーションの厳しいヒエラルキーではないでしょうか。
だから、自分のコミュニティからコミュニケーション弱者をふるい落とそうと企む人間が採り得るストラテジーのひとつは、挨拶や世間話を励行して、お互いに気を利かせ合って、打てば響くようなコミュニケーション環境をつくりあげてしまうことです。
どんどん挨拶や世間話をして、空っぽのコミュニケーションに要するコストを釣り上げてしまえば、ついていけない人間をふるい落としたり、影響力を弱めたりすることができます。
もちろん、このようなストラテジーがいつでも・どこでも通用するわけではありません。ですが、
・そのコミュニティに属していなければ絶対に手に入らないメリットがある状況
・そのコミュニティから脱落した時のコストが大きすぎる状況
・学校のように、メンバーの地位が原則として平等とされている状況
には、猛威を振るうと思われます。
誰もがコミュニティに残っていたい・残らざるを得ないような状況下で、挨拶や世間話や気遣いをどんどん励行すれば、空っぽのコミュニケーションについていけない人間はじきに淘汰され、ぎりぎりついていけるぐらいの人間は、低い影響力とカーストに甘んじることでしょう。
そして、高い影響力を獲得し、高いカーストを手に入れるのは、空っぽのコミュニケーションを最も低コストに上手くやってのけられるメンバーです。こうした現象の典型として、ある種の社内政治や、ある種の校内政治を想像するのは難しくありません。
この視点で考え直すと、信頼や親しみを獲得するための挨拶や世間話が、影響力やスクールカーストを賭けて戦う人間の、武器でもあることがおわかりいただけるでしょう。
世間一般のコミュニケーション論は、親しみとか共感とか、そういったソフトな言葉で語られることが多いですが、そのソフトな言葉の裏側では、影響力やカーストを賭けた、血みどろの戦いが繰り広げられています。
実のところ、一番上手に、一番気を利かせてコミュニケーションをこなしている人間が、一番アグレッシブで、一番たくさんの人にコミュニケーションのコストを強いていることだって、あり得るのです。
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奥田 真輔 氏
システム開発やITコンサルティングを経て、
外資系製薬企業で15年以上のITビジネスパートナーとして人事からコマーシャル、
メディカルなど製薬企業の様々な分野のプロジェクトに携わる。
現在はネクセラファーマ株式会社で、システムだけではなく、企業風土改革や業務改善をリードし、
日本発グローバルバイオ製薬企業にむけて、同社の成長基盤の構築に尽力している。
岡田 雄太(ワークワンダース株式会社 CTO)
野村総合研究所に新卒入社後、証券総合バックオフィスシステムやオンライントレードシステムなどの開発に従事。
その後、8 Securities(現SoFi Hong Kong)へ出向し、日本人唯一のエンジニアとして国際的なプロジェクトに携わる。
BOOSTRYでは信託銀行向けSaaSの立ち上げと成長を牽引。
WiseVineではCTOとして開発組織を30名規模に拡大し、プロダクト開発を推進。
2025年4月よりワークワンダース株式会社CTOに就任。AI活用を中心とした開発支援をリードする。
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【プロフィール】
著者:熊代亨
精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。
通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)『認められたい』(ヴィレッジブックス)など。
twitter:@twit_shirokuma ブログ:『シロクマの屑籠』

(Photo:Mario AV)













