もうやってらんないよ。とその人は言った。
彼はその2ヶ月後に、会社を辞めた。
彼の周りの人は、「なんであんなに有能な人が会社をやめるんだろう」と不思議に思ったが、彼の上司は理由を知っていた。
この前の人事評価の時、上司は彼に「協調性がないので、いくら成果をあげても、評価はできない」と言ったのだ。
彼は憤慨し、「協調性など、慣れ合いだ」と言ったが、上司はそれを聞き入れなかった。
今の会社を辞めて、会社を作るんだ。と、彼女は言った。
彼女は今年の営業成績No1の表彰を受けていた。このままいけば、出世コース間違いなし…と思われていた矢先、彼女は上司に「辞めます」と告げた。
上司は引き止めたが、彼女は頑として聞き入れず、「お世話になりました。」と言うばかり。上司はついに説得を諦めた。
「なんで会社を辞めるの?これから出世コースでしょう。」と皆が彼女に聞く。
「だって、もうこの会社で私より仕事の出来る人はいないじゃない。」彼女は事も無げに言う。
私は常に挑戦したいの、と彼女は言う。
社長があんな人だったとはね。もう信用出来ないよ。彼はそう愚痴をこぼした。
「そうだろう、社長は「ゲーム開発には手を出さない」とあれほど言っていたんだぜ。でも今年のキックオフの発表では、「ゲームに力を入れていく」だと。まったく節操がないよな。社長は儲かれば何をやってもいいって思ってる。でも、ゲームなんて、人を駄目にするもんだ。オレはやりたくないね。」
同僚は彼を諭す。「時代が変わったんだよ。ゲームやらなきゃ、われわれも食っていけない」
「なら、オマエはこの会社でやればいいじゃないか。オレは辞めるぞ。じゃあな。」
彼は、それから1ヵ月で、辞表を出した。
「この会社のノリがイヤなんだ。宴会やら、会社の行事やら、なんで休日を潰してわざわざ会社の連中と一緒に過ごさなきゃいけないんだ?おれは家族と過ごす方を選びたい。なにが、社員同士のコミュニケーションだ。そんなもん要らないんだよ。」と、彼は吐き捨てるように言った。
「だいたい、一体感とか、助けあいとか、強制するものじゃないだろう?気持ち悪いんだよ。」
上司はかれの剣幕に驚き、何も言えないでいる。
「というわけで、辞めます。」
上司はため息をついて、「わかった。ご苦労様だった。」と静かに言った。
彼は36歳。働き始めてから既に十余年経過している。
彼の年収は280万円。家族4人が食べていくのにやっとの金額だ。今の会社は働きやすいし、社長も悪い人ではない。しかし、零細企業の哀しさ、顧客には毎度値下げを要求され、売上もここ4年は横ばいだ。頑張って社長を助けてきたが、もう限界かもしれない。
自分が抜ければ、おそらくこの会社は無くなってしまうだろう。社長は自分が「辞める」と言ったらどんな顔をするだろうか。
でも、決断しなければ。
人が会社を辞める理由は様々だ。DODAの調査によれば、最も多い理由は「他にやりたい仕事がある」とのこと。
「転職回数多すぎ」に思う。という記事にも書いたが、日本企業は転職回数の多い人間を嫌う。
実際、採用の仕事をしていると、「転職回数の多い人は、書類ではじく」という企業がなんと多いことかと思う。
しかし、アメリカにおいては転職回数は平均10回とのこと。日本とはかなりの差だ。国民性や、社員の解雇のやりやすさという側面もあるだろうが、「多様性を認める」というアメリカ社会の特性も大きいのではないかと思う。
一方で、「知識労働者」が増えるにつれ、「多様性」はますます重要となる。なぜなら、「知識」と「知識」の組み合わせが新しいものを生み出すからだ。同じ企業に10年、20年ととどまれば、必然的に新しい知識のつながりは生まれにくくなる。
日本は多様性に対してあまり寛容ではない、と言われる。だが、日本人が画一的、ということではない。
私が現場で感じたのは、上のエピソード(ほぼ実話)を見ていただくとわかるように、転職を考える理由はほんとうに様々、働く動機も様々、ということだ。
日本においても、社会が成熟するにつれ、多様性が重要となることは間違いない。
「転職回数なんて、全く気にしない」という会社が、「当たり前の存在」となる日は、いつやってくるのだろうか。それとも、日本企業は最後まで、多様性に対して不寛容を貫くのだろうか。
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