「脳の右側で描け」という本がある。

この本はデッサン関連では大のベストセラーで、絵心が全く無い人を5日程度で劇的に上手く描けるように仕立て上げるという驚異の書として一部では有名な本だ。

 

このワークショップの効果は傍から見ると実に凄い。例えば下の記事での受講前→受講後の参加者の絵をみると、それこそ5日間の間に一体何が起きたのかと思うほどレベルが向上している。

<参考「脳の右側で描け」&「脳の右側で描け ワークブック」終了 | 絵の練習帳>

 

さてこのワークショップ、いったいどんな魔法を用いて受講者のレベルをあげたのだろうか?もったいぶらずにネタを言ってしまうが、実はやる事自体は非常にシンプルだ。

みたものを、そのまま、紙に書き落とす。

本当にこれだけなのだ。

 

実際のところ、デッサンに必要な技術はこれだけなのだけど、これが意外とやってみると実に難しい。

例えば鏡を使って、自分で自分の自画像を書いてみてみよう。多くの人は、鏡に写ったものをそのまま紙に書き写す事ができない。

じゃあ何をするかというと、鏡に写った自分の姿をみて、脳が感じ取ったイメージを紙の上に書いてしまうのである。

 

その結果、多くの人はなんとなく目とか鼻っぽくみえる画像がついた、棒人間のような絵を書いてしまう。

人間は本当はそんな形はしていない。けど、多くの人は目に映る姿を、自分のイメージ抜きにそのまま描写する事ができないから、そういう印象画を下手と知りつつも紙の上に書いてしまう。

 

実は私達は思った以上に物事を正確には見れていない。例えば貴方の右手、24時間常に一緒にいるはずのその手ですら、どういう形をしているのか正確には全然知れていないだろう。

このワークショップに参加すると一秒で1ミリしか目を動かすなと言われるそうだ。実際、それぐらいゆっくりとしたスピードで物事を観察しないと本当の本当に物事をキチンとみる事なんてできない。

こんなゆっくりとしたスピードで物事をみる事なんて普段はないから、はじめは物凄くイライラするようだけど、そのスピードに慣れてくると今度はいかに普段はモノをちゃんと見ていないかに気が付き、愕然とするのだという。

 

こうして自分の頭の中にある妄想ではなく、キチンと実物をみる事ができるようになって、初めて人は紙の上にキレイなデッサンを書くことができるようになる。つまり私達は、絵が書けない以前にそもそも物をちゃんと見れてすらいないのだ。

 

ピカソの凄み

作家のパブロ・ピカソはキュピズムという子供のクネクネしたような絵を書くことで一般的には有名だけど、彼の初期の頃のデッサンをみるとあまりの精巧さに愕然とする。

<参考 ピカソのデッサン | 中央区八丁堀駅から徒歩1分、内科での診察は高橋医院へ>

 

ピカソのあの子供のような絵は、実は物事がキチンと精巧に見えた上で、三次元の本質を二次元に落とし込んだ結果うまれたものなのである。やはりキチンと正確に物事をみれる人間だからこそ、キュピズムという手法を発達させ、世界を熱狂させる事ができるのだ。

キチンと世界がみれていたからこその、あのクネクネした絵なのである。あのヘンテコな絵は、頭の中で作られた妄想ではなく、ちゃんと世の中を正確に見通した上での、積極的な脱構築の結果なのだ。

 

数学は暗記

このエピソードは実は絵以外の話にもかなり通づるものがある。実は仕事でも勉強でも全くそうなのだけど、個人の感情や妄想を一切介在する事なく、愚直にそのまま物事を再現する事ができるかどうかが、物事の習得には必要不可欠だ。

 

例えば高校の数学。恐らく多くの人はキチンと理解する事ができずに挫折したと思うのだけど、あれなんかも回答を必死に読み込んで愚直にそのまま再現しつづけていったりすると、不思議な事にある時から急に視界がひらけたかのように難解な内容が理解できるようになるのである。

これは暗記数学として受験勉強法マニアの間ではそこそこ有名な手法で、むしろ膨大な量を有する高等数学は、答えを理解した上で回答を暗記し続けてゆかないと、あの膨大な量を3年間の間に習得する事なんてほとんどの人には不可能といっても過言ではない。

変に自分のオリジナリティや妄想など交えず、愚直にただそのまま回答を再現する事が難解な高校数学を習得する唯一無二の方法なのだけど、これができる人は驚くほど少ない。

 

実際デッサンも、文字で書けば「ちゃんと見て、ちゃんと書く」だけであり、それ以上でも以下でもない。数学も「回答を理解して、そのままそれを再現する」だけなのだけど、これもやっぱり多くの人はできない。

 

なんだって身につけたければ、間違いを恐れずに手を動かし続けろ

仕事だって「人がやってる事を、そのままの形で真似」するだけで、ほとんどの事は習得可能だ。実際、かつてはカバン持ちという社長の隣にずっといるだけの役割の人達がいたけれど、カバン持ちから出世した人の数は結構いる。

けどその一方で、カバン持ちから全く身を立てられなかった人もたくさんいる。僕が思うに、両者の間にある差というのは、デッサンや数学ができるようになった人と、できるようになれない人の間にあるものと全く同質のものだ。

 

一体何が違うのか。たぶんだけど、僕が思うに、両者の違いは手を動かしたか否かだけである。

デッサンも、見るだけでは何もできるようにならない。たとえヘタクソでも、自分の手を動かして、何枚も何枚も絵を書き続けた人だけが上手になれる。

数学も、回答を読んだだけでは何もできるようにならない。例え間違っても、自分の手を動かして、何度も何度も回答を再現し続けた人だけが習得できる。

仕事だってそうだ。怒られるのを恐れずに、人がやっている事を率先して自分からやればよい。たぶん初めの頃はミスを大量に指摘されるだろうけど、そのうち驚くほど物事をパパっと遂行できるようになるだろう。

 

もちろん大前提として、正しい方法でやる必要はある。デッサンならまず世界を正しくみなくちゃいけないし、数学なら回答に書かれた内容を理解しないと始まらない。仕事だって、大前提としての基礎はなくちゃ話にならない。

 

けど、その上で私達はやっぱり手を動かし続けないと、何も身につける事ができない。間違いや下手クソである事を恐れず、大量の愚かな行為を通じてでしか、私達は何も身につける事はできない。

正しいフォームのもとで行われたミスは、ただのミスではない。それは正解に至るまでに必要な、必要不可欠な何かだ。

 

先人にミスをたくさん修正してもらおう。多くの人は、仕事を一から教えるのはあまり上手ではないけれど、他人のミスを修正する事にかけてはピカイチである。

 

そして実はこれが教育というものの正体なのである。教育とは、手取り足取り教えてもらう事ではない。間違いを直してもらい、それを愚直に受け入れる個人の心の鍛錬の事なのだから。

 

 

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コピーライター / ワークワンダース株式会社 取締役CPO(Chief Prompt Officer)
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 教授
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著書『「言葉にできる」は武器になる。』(シリーズ累計35万部)


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(2025/4/14更新)

 

 

【プロフィール】

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高須賀

都内で勤務医としてまったり生活中。

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