Twitterを眺めていたところ、若者のやる気を奪うのは働かないおじさんだという投稿をみかけた。

人間は不平等感をおぼえると強く憤る性質の生き物だ。働かないおじさんはその最たるものともいえるだろう。

 

正直にいえば、僕も以前はそういう人をみてプリプリ怒っていた。

なんで若手の自分が汗水垂らして苦労しているのに、何をしているのかよくわからない人間が自分よりも給与をもらっているのか全然理解できなかったからだ。

 

僕は彼らを置物と揶揄して怒り狂っていたのだが、最近になって急に「あれは意外と学ぶものが多い生き方なんじゃないか」と思えるようにもなってきた。今日はその話を書こうと思う。

 

働かないおじさんに誰もがなれるわけではない

まず大前提として、働かないおじさんには誰もがなれるようなものではない。

僕らは完成された”働かないおじさん”しかみないので気が付かないのだが、実際には世の中には多数の”なれなかったおじさん”が存在する。

 

働かないおじさん”がソレになれたのは過去の栄光だとか人から好かれる能力だとか運だとか様々な要因が働いているのだが、突き詰めるとキチンと狙ったからなれたのである。

逆にいえば…何も狙わずしてアレになる事は不可能だとも言っても過言ではない。

 

その前提条件を踏まえた上で考えてみて欲しいのだが、あなたはアレになろうと思えばなれるだろうか?

 

もしなれるルートが一切みえないのだとしたら…あなたは生存戦略を間違えているかもしれない。

あれは自然発生でイケるものではない。かなり入念に戦略を練らねば無理なものなのだ。

 

仕事は自分で作るモノ?

もうちょっと具体的な話をしよう。

 

僕がかつて勤務していた病院に、ガチで働かない医者がいた。

本人は「忙しい忙しい」と口では色々いっているのだが、じゃあ何をしているのかというと医者としての仕事を一切しないのである。

いろいろな人がこの人に「働け」と圧力をかけるのだが、この医者はそれを全て「忙しい」とはねのける。

 

「医者として働らいていないのに、いったい何が忙しいの?」

皆さんは当然のようにそう思われる事だろう。

じゃあこの医者は何に忙しいのかの答え合わせをしよう。それはヒヤリ・ハットといわれるミス対策の徹底業務であった。

 

彼は様々な部署に電話をかけ、仕事の意思決定がミス無く行われているのかを調査し続けており、どこかでミスを見つけるや否や鬼の首を取ったように

「これは氷山の一角です!このミスの背景には数多のミスになりえたものが隠れているんです!」

と叫びまくっていた。

 

都合のいい仕事を作って回す

そして彼はミスがいかに人命を奪う危ないものなのかを声高に主張するのである。

正直、最初は僕は彼が何をしているのかがサッパリわからなかった。

 

確かにミスは危ないし、無くせるのなら無くすべきではある。

しかし…火の車のように忙しい現場を前に、それを完全に無視して講習会を無理やりにでも開いて職員に受講を必修化させるその有様は異様としか思えなかった。

 

「この人、気が狂ってるんじゃないか…」

誰もがそう思い、アンタッチャブルなものとして処理していたのだが、ふと元マッキンゼーのちきりんさんな中の人と言われている伊賀泰代さんの組織生き残り術を思い出し、僕は彼が実はモノ凄い事をやっているのに気がついた。

 

新しい場所を作る

伊賀泰代さんはマッキンゼーに最初コンサルタントとして入職したのだが、マッキンゼーの人を教育するシステムの凄さに圧倒され、コンサルタントとしてのキャリアから人員育成へと軸足を移したのだという。

<参考 採用基準 伊賀 泰代 >

言うまでもなくマッキンゼーのコンサルタントは激務である。

出張やら深夜に及ぶ資料作成などなど…疲弊しない方がおかしい。アップorアウトと言われる熾烈な競争環境で生き残れる人はそう多くはない。

 

しかしそれはコンサルタントをやったらの話である。

社員の育成という仕事を新しく”創造”すれば…競争相手もいないからアップorアウトの原則も適応されないし、コンサルタントのような働き方は強要されようがない。

 

使い潰されない為に、仕事を自分で作る

そうして伊賀泰代さんは数年で追い出される事の多いマッキンゼーで長期間の勤務を可能にしたのだそうだ。

使い潰されない為に、自分の居場所を自分で上手に生み出した好例だといえよう。

 

そういう視点で先の医者を眺めてみるとである。

彼も実は全く同じことをやっているのだ。

 

もともとはである。彼はキチンと働く医者だったんだそうだ。患者さん思いで熱心に働く彼に対する信用はとても厚かったといい、それもあって良い職位が与えられていた。

 

しかし彼の中で何かのスイッチが突然入ったのだろう。

伊賀泰代さんと同じく「このままでは組織に使い潰されるだけだ」と思ったのかどうかは知らないが、彼は組織が求める働き方をやんわりと拒否するようになり、逆に組織を利用するような働き方へと軸足をシフトしたのだ。

 

その結果、彼は見事な組織の置物となった。

僕が「ああ、こういう組織の利用方法もあるんだな…」と妙に感心したのは言うまでもない。

 

置物になるためには大義名分が必要

このように組織に使い潰される消耗品から組織を逆に利用する置物へのクラスチェンジは、ある意味では出世街道とは別ルートのサラリーマン・クラスチェンジ道である。

 

そういう意味では働かないおじさんというのは、あれはあれで凄いモノなのである。

少なくともテキトーに生きているだけで誰もがあれになれるような性質のものではない事だけは確かである。

 

ここまで読んだ人の中に「自分も置物になりたい!」と思った人もいるかもしれない。そういう人に向けて、置物になるためのヒントのようなものを以下に羅列しよう。

 

・置物になる為には大義名分を大切にしろ!

まず大前提として、置物には大義名分が必要だ。逆にいえば大義名分も掲げられないのなら、置物には絶対になれない。

 

先程の話だと、例えば伊賀泰代さんは優秀な部下を効率よく輩出するためという大義名分をキチンと掲げられている。

もし仮に彼女が「コンサルタントの仕事をやりたくないから、部下の教育をやらせてください」と言ったのだとしたら、組織はそれを絶対に認めなかっただろう。

 

僕の知るヒヤリ・ハット啓蒙オジサンも同様だ。彼は何か事あるごとに「ミスが起きたら患者さんが亡くなってしまう」だとか「ミスの事前予防の徹底は働き方改革に繋がる」というような、今の時代における正義を必ず自分の生み出した仕事にレッテル貼りしていた。

 

正義というのは誠に強いものである。

医療における最大の正義は患者さんの利益であり、逆にいえば患者さんの利益に基づかない主義主張には誰も耳を貸さない。

 

・置物になる為には存在感を作れ!

突然だが貴方の実家や会社などに謎の置物はないだろうか?ない人は取りあえずタヌキの置物を思い出してみて欲しい。

(出典:信楽焼

この信楽焼タヌキは元々は縁起物として喜ばれ、狸が「他を抜く」に通じることから商売繁盛と洒落て店の軒先に置かれているのだという。

 

しかし僕を含めて多くの人は信楽焼タヌキにキチンとした意味や御利益のようなものを感じている人は多くないだろう。

「よくわからないけど、多分ありがたいものなんだろう」ぐらいが関の山だ。

 

このようにキチンと具体的なバリューを全く出していないにも関わらず…タヌキの置物の存在感は凄いものがある。

日本人でタヌキの置物と言われて、この信楽焼タヌキのイメージを思い出さない人はまず居ないだろう。

 

更にである。このマジでよくわからないタヌキの置物を、邪魔だし片付けようとすると…信じられないぐらい抵抗感を感じるのである。

多くの人は「よくわからないけど昔からあったし、今は特に困っていないから、このままでいいか。動かそうにも重いし」となると思うのだが、冷静に考えるとコレは凄い事である。

 

何もバリューを生み出していないモノに居場所が与えられ、かつそれを誰もアンタッチャブルなモノとして配置換えできないというのは…もうモノの見事に働かないおじさんそのものである。

 

場所によっては1個とか2個どころではなく、所狭しと敷き詰められていたりもするのだから、呪術的だとすら言えるかもしれない。

 

・置物になる為にはバッドで殴られないような戦略を持て!

置物にとって最も大切なのは置物としての形を保つ事だ。

 

例えばもし仮にだが、タヌキの置物をバッドでフルスイングしたとしよう。

当然タヌキの置物は粉々になるわけだけど、この状態になったら片付けるのに心理的な拒否反応を覚える人というのはほぼ居なくなる。

 

冷静に考えるとコレも凄い話なのである。

一度バッドで粉砕した後でタヌキの置物の残骸を片付けて罪悪感を覚える人は皆無だと思うが、ピカピカに輝くタヌキの置物から居場所を奪おうとしたら、多くの人は物凄く罪悪感を覚えるはずである。

 

置物をやるには、とにもかくにも傷が付く事を避けねばならない。

どのような形であれ、置物は一度その姿を崩されると「はて?そもそも何でこんなものをココに置いていたんだっけ?」と冷静に分析され処理されてしまう。

 

ここで大切なのは、口で何か言ってもタヌキの置物はますます輝きを増すだけだという事である。

あなたがタヌキの置物をどかす理由を1000個述べたとしても、タヌキの置物の姿形が変わらない限り、まずそれは動かされない。

 

悪口は置物をますます輝かせるだけである。大切なのは精神的な攻撃ではなく、物理的な攻撃が加わるかどうかだ。

 

そして多くの人は狸の置物にフルスイングできない。

なぜそれが出来ないのか、どうやったらそれが出来るようになるのかの答えを導き出せれば…貴方の組織から置物を取り除けるようになるかもしれない。

 

いかがだっただろうか?参考にして頂ければ幸いだ。

 

 

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【著者プロフィール】

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高須賀

都内で勤務医としてまったり生活中。

趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。

twitter:takasuka_toki ブログ→ 珈琲をゴクゴク呑むように

noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます

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