「都会vs田舎」という謎の構図が存在しているような気がしているのは私だけかもしれないが、私がその構図の存在を明確に感じるようになったのは、ネットで見つけた『まだ東京で消耗してるの?』というブログの煽りを目にしてからのこと。
「田舎サイコーww東京ショウモーww」なんて挑発的な文章はコンスタントに炎上しつつも、実は内心どこかくすぶっている東京都民のこころを揺さぶっているような気もしている。
以前、日本全国を飛び回っている某男性のトークイベントに参加した際、参加者のひとり(東京在住)が手を挙げて発表した
「東京は疲れる。人が多い。人が冷たい。人の足が速い。街が人工ネオンで明るい。田舎に比べて住みにくい」。
その言葉は「そんなに嫌いなら東京を出たら良いと思うのですが」と登壇者に一蹴されていて「ああ確かに」と納得している間に消えたのだけど、そのとき胸に妙なものを感じた。
東京は、バツ。
田舎は、マル。
勝手に東京に疲れて、勝手に田舎を美化して思いを馳せている人、なんか多い。
当の私は、大阪生まれ京都育ち、横浜で働き現在東京在住という人間で、いわゆる「田舎生活」と呼ばれるものを経験したことがないので、実際に田舎暮らしの良さがどんなものかいまいちよく分からない。美化されている気がしてしまう田舎の姿がリアルに描けない。
ただ、つい先日、ついに私は田舎に滞在する機会に恵まれた。そのときの体験を通して私は、「まだ東京で消耗してるの?」に対する自分のベストアンサーを発見した。
人や情報やビルや欲や比較や悔しさや無力さに溺れる東京生活
東京の池袋に住み始めて約1年。現在はフリーライターとして日々記事を書きながら、同時並行で「渋谷のITベンチャー」という響きだけで意識高い会社にて内勤ライターをしている。
そして意識高いキラキラした仲間たちと共にシェアハウスというキラキラした空間で生活をしている。
池袋や渋谷の駅周辺は、うかつにダッシュもできないほどの、人、人、人。通勤や帰りの電車で座れる確率は限りなくゼロに近く、午後7時の山手線は隣のおじさんの吐息がダイレクトに鼻孔を犯すほどの人口密度。
不安定にぐらつくピンヒールを鳴らして家に帰ったらフリーランスのお仕事開始。住人と少しまったりした後は午前2~3時頃まで原稿を書いたりして、気付けばソファで寝落ちしている。朝起きると体が痛い。
仕事に不備があれば当然ご叱責を受けるわけで、頭を下げて謝罪する。「申し訳ございません」の文字をタイピングで打ち込む速さが神がかってきたタイミングで「申し訳ございませんって言っとけばいいと思ってない?」とのご返信。あれはかつての会社員時代、3年間の社会人生活の中で一番返答に困った指摘である。
人と比較しても仕方ない。そんなこと分かっている。
分かっていたって、facebookやTwitterを開いては他のライターや編集者の方々の投稿を見て、彼らが生み出す記事のすごさにどこか焦りを感じて反響を気にしてしまう小さな私がいる。
あの人の記事がまたバズっている。この人は業界の中でとても支持されている。羨ましい。悔しい。私だってそこに行きたい。焦るな。焦るよ。いつも上を見上げて誰かを比較対象にしては自分の現在地に落ち込んだりする。たまに泣く。
東京は、刺激的な都市だ。
日々の活動も感情も隣にいる人も目まぐるしく変化する。
大阪にいた時より、京都にいた時より、横浜にいた時よりも、ずっとずっと、なにかを消耗している感覚は強い。だからといって「わたしも高知に移住しようか」とは微塵も思わなかったが、実は奥底で東京に疲れて心が休養したがっていたのか、ある日突然、大自然でいっぱいの「長野県」に滞在するチャンスを私は惹き寄せた。
大自然に囲まれた長野の湖の上で気付いたことは
大都会で右往左往と日々もがいていたところ、ある時ライターとして参加した某大会で優勝した。景品は「長野にある湖上のゲストハウス無料宿泊券」。東京で消耗した先につかんだものが田舎でゆっくり過ごす機会、なんだかシュール。
そして先日、ひとりで長野へ行ってきた。長野駅から電車で30分の移動があったが、出発後5分で風景は山と山と山に変わった。心なしか空気がきれいでおいしい気がする。「田舎のきれいな空気に感動する」のは都会に疲れた人あるあるらしい。ちなみに「実際空気のおいしさなんてよく分かっていない」とも。
最寄り駅からさらに車で10分のところに、目的のゲストハウスはあった。到着したゲストハウスの目の前には大きな湖が広がっていた。周りは本当に静かで、湖のズズーザザザザーンみたいな音しか聞こえない。そして人がいない。なんなら人より熊がいるらしい。
そこで、実にゆっくりと過ごした。
車がないと行けない最寄りのスーパーで35円の水を買い、静かな空間で小説を読み、ゲストハウスで出会った人たちとの交流を楽しみ、山で採れたらしい聞きなれない名の美味しいキノコを食べ、湖のほとりをフラフラ散歩し、時々「くまー」と熊を呼ぶことに挑戦し、湖の桟橋で1時間ぐらいぼーっとし、そのまま桟橋で寝て、起きて、熊を呼び、諦め、小説の続きを読んで、気付けば日が暮れていたので、ゲストハウスを出た。
大自然に囲まれてマイナスイオンに包まれて素晴らしく平穏でゆっくりした時間を過ごすことができた私は、大満足でこう思った。
「この感じは1泊2日でいい」
もうしばらくは東京で消耗し続けてみます
強がりでも負け惜しみでもその他、単純に私は、大都会東京であくせくと消耗しながら過ごす刺激的な日々が大好きなのだと気付く。
もちろん1泊では長野の魅力を理解し切れないが、少なくとも「田舎でゆっくり過ごす時間」の断片を体験できた。その結果、1泊でわりとお腹いっぱいになった。そして、この感覚は上手く言えないけど、「東京に戻りたい」と思った。
みすみす自分を削る行為は愚かしいようにも思える。だけど私は、人と情報とビルと比較と悔しさと無力さとチャンスと出会いと成長と謎の期待が混在したこの都市の中で、もっともっともがいてみたい。自分を試したい。日々新しいものにふれたい。ドキドキし続けたい。
消耗した末に疲れて憔悴し切ったら、そのときは、穏やかにゆっくりと時間の流れる東京以外のどこか、それこそゴリ押しされている高知に行くのもいいかもしれない。
それまでは、まだ東京で消耗してるけど、それでも今はココがいい。
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