ゴールデン・ウィークに、久々に旧友と再会した。

彼は学生時代から頭がよく、都内の某有名国立大学に進学し、そのまま、誰もが羨む高給の大手企業に就職した、いわゆる「レールの上を行く人生」を歩む人物だ。

彼の収入は話から推測すると年収にして1000万円は超えており、勤め人としては恵まれた環境にいるだろう。

 

「ブログを書いてるんだって?」と彼は私にきいた。

「まあ。」と返事する。

すると、彼はこう言った。

「じゃあ、こんなので書いてくれよ。「かつてのエリートも、普通のサラリーマンになりました」って。」

「何の話?」

「いや、俺のこと。」

「……自分のことをエリートというのは、あまりいい趣味ではないと思うけど。」

「まあまあ、webの文章はキャッチが重要なんだろう。オレが「エリート」っていうのは単なるキャッチだよ。実際はこの通り、全然エリートでもなんでもない。」

「ふーん。なんで?」

「大学を卒業して、志望していた会社に就職が決まった時は、「この世の春」って感じだった。なんというか、明るい未来しか見えなかった。」

「そうか。」

「でもね、本当にキツい競争は、それからだった。まわりは皆できるやつばかり。そうして出世競争に投入される。ま、オレもこれくらいの歳になると自分がどこまで行けるか、大体わかった。」

「そんなに厳しいんだ。」

「ああ、勉強さえできればよかった学生時代までと違って、人の心を掴まなくちゃならない。社内も、社外も。それはまた別の能力だからな。オレはどうやら商売に向いていないみたいだ。学者になればよかったかな。」

彼は一息ついて、酒をあおる。

 

「どこも同じだね」と私は答えた。

「そう。で、結果として出来上がったのが、こんな感じのオレ。ザ・サラリーマン。なーんかさ、つまんない人生になったなと。」

「……。」

「そりゃ給料も悪くないし、特に不満があるわけでもない。でも「誰が出世した」とか「部長の顔色はどうだ」とか、そんなことばかり気になる自分が嫌でさ。」

「そうか。まあそうかもしれないな。」

「大企業の中にいると、「自分じゃなければできない仕事」っていうのがないんだよ。で、たまに見るいまの20代、30代が起業した、とか好きなことをやってます、みたいなのを見ると、嫉妬じゃないけどさ、なんかモヤモヤするんだよね。ああ、自分も別の生き方があったんじゃないかって。」

「今からでも遅くないじゃない」

「まあ、無理だな。今の会社をやめるなんて言ったら、即離婚だよ。子どもたちもお金がかかる。」

「そうか。それじゃしょうがないな。」

「30代の前半くらいまでは、「色々と動かしている」っていう感覚があったんだけどな。どこからこんな平凡な人生になったんだろうな。」

「平凡ではないと思うけど。」

「ところで、ブログって儲かるのか?」

「……。儲かるわけないじゃない。」

 

仕事を一生懸命やっている人、起業家精神を持つ人は、収入よりも、何よりも先に「やっていること」や「やろうとしていること」、「楽しんでいること」を聞いてくる。

収入の事を聞く旧友を見て、私も彼の言うとおり「ザ・サラリーマンがここにいる」と感じたのだった。

 

人生とは、わからないものである。

 

 

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