根拠の無い自信を持つものは愚か者、そう思う人は多いかもしれない。
「あいつ出来無いくせに、自信だけはあるんだよな」
「ダメな奴ほど、妙なプライドと自信がある」
物笑いの種として、かなり多くの場所でそのような話を耳にする。
米国の心理学者、デビッド・ダニング氏とジャスティン・クルーガー氏は
「能力の低いものほど、自分の能力を高く見積もる」
という発表をし、2000年にイグノーベル賞を受賞した。「みんなそう思ってたんだ」という笑いを誘う話である。
しかし、「根拠の無い自信」は必ずしも悪いこととはいえない。むしろ、私は「根拠の無い自信をもつように」と薦める経営者や研究者を何人も見てきた。
彼らは異口同音に、「根拠の無い自信」がない人物は大成しない、と言う。果たして「根拠の無い自信」は持つべきなのかどうか。私はある経営者の話を思い出す。
私はある訪問先で「実力もないのに自信だけはある若手に困っている」と他の経営者が言っていた、という話題を何気なく出した。
すると、その方は真面目な顔つきで言う。
「もちろん、根拠の無い自信は持つべきです。」
「そうなのですか、とかく自信過剰の悪い面が強調されることが多いような気がしますが」
彼はこちらに向き直り、言った。
「自信のあることを責めてはいけない。これは絶対です。自信は折られるとそう簡単に元に戻らない。マネジメントに必要なのは、自信過剰を責めたり叩いたりすることではなく、それをうまく利用することです。それが出来ない人間に上司の資格はない。」
私は面白い話が聞けるのでは、と身を乗り出した。
「なぜ、自信過剰を責めてはいけないのでしょう?」
「成果が出るかどうかわからないことに対して、最後に自分を保つのはこの「根拠の無い自信」です。成果が出ていないのだから、やっている事自体に自信は持てない。でも、トンネルの出口が見えなくても、とにかく続けなければ成果は出ない。一番難しいのは、とにかく粘り強くやることです。」
一理ある、とは思ったが、まだ疑問は残る。
「大体、自信だけはあるという方は行動や成果が伴っていない、と言われることが多いのでは?」
その経営者は言った。
「仰るとおり。正にそれが課題なのです。」
「では…」
「安達さんは、そんな人に向かってなんて言いますか?自信を持つな、大口を叩くな、といいますか?」
「…。」
「あなたのイライラを相手にぶつけて何になります?」
私はその経営者に何も言えなかった。
彼は言った。
「そんな人に言わなければいけないのは、行動するための具体的な方法論であったり、成果を出すための工夫であったりではないでしょうか。しかも具体的な方法論を授ければ、中にはそれなりに結果を出す人も多い。彼らは確信がなくても動けるのですよ。」
「…。」
「まあ、自信満々の人は鼻につきますからね。みなさんの怒りはわかりますが。部下が動かないのは、上司の無能のせいです。それを認識しているかどうか、いかがでしょう。」
「むー…。」
「むしろ、自信のない人に自身をつけさせるほうが、遥かに時間がかかり、かつ難しい仕事です。」
帰路、私はそれについて深く考える事になった。色々な考え方があるものだ。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
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