伝える力 (PHPビジネス新書)「伝える力」という本が売れている。仕事において極めて重要な力であることは間違いないが、とらえどころのない言葉であるがゆえに、悩む人が多いのだろう。そして、コミュニケーション能力を向上させようとする人が最初に鍛えようとするのが、多くの場合、「話す力」である。

確かに、「話す」は人とのコミュニケーションにおいて多くの時間を占める。おそらく人とのコミュニケーションの内訳の90%は話す時間だろう。

 

しかし、実際には「話す」の効果は低いと言わざるをえない。重要なことを話したとしても、なかなか人には伝わらない。

「3日経てば、ほとんど忘れてしまう」のは、偶然ではなく、本質である。

 

これは、「聴く」という行為の限界に原因がある。人の脳は「ワーキングメモリ」という考え方によれば、複雑なことを短期間で多く処理するには不向きである。一度にたくさんのことを聴くと、メモを取ったとしても、傾聴したとしても、それを理解できるかどうかは、別の話である。

理解していない話は、記憶にも残らない。

 

だから、人に何かを伝えたいときに、「話す」ことに頼るのは得策ではない。「あの時言っただろ」は、単に話し手の責任を受け手に押し付けているだけである。

 

 

さて、それでは「話す」よりも有効な伝え方はあるのだろうか。それよりも若干マシなのは「書く」ことである。文章や図など、伝える側の意図を何度も確認できる媒体に落としてあるものは、単に「聴く」だけよりも遥かに理解を促進する。

また、「話し手」にとっても書くことはメリットがある。

時々、何を話しているのかわからない人に出くわすが、大抵は「その人の中で話したいことはあるのだが、何を話したいのかまとまっていないとき」にそのような現象が起きる。書くことで、「結論」「理由」「事例」などをうまくまとめられる。結果として、受け手の理解度を上げる。

 

大事なことは「話す」だけでなく、ぜひ資料や図を「書いて」見ることが大切だ。また、逆に考えれば複雑なことを理解したい場合は、「人に話を聴く」だけでは不十分だ。「本」などの媒体を通じて、何度もそれを読み返し、咀嚼する必要がある。

 

 

しかし、ここまでであればよくある話だ。コミュニケーションの話としては一般的である。もっと効果的に伝えたい時はどうするか。

「話す」より、「書く」より、「作る」ことをお勧めする。

 

「作る」とは何か?省略せずに言うと「ツールや、ノウハウのパッケージ、例えばソフトウェアなどを作る」ことである。例を挙げよう。下は、「エジソンのお箸」という商材である。

 

箸の使い方を子供に伝えたい時、話すよりも、資料を渡すよりも、「使うだけで箸の持ち方がわかる」ツールを与えるほうがはるかに効果的だ。さらに「フランクリン・プランナー」という手帳がある

 

これは、「仕事や人生の計画をより充実したものとする」ためのツールとしての手帳、という触れ込みで販売されている。本を読んで計画の仕方を学ぶのも良いが、「手帳を使うだけで」計画するのがうまくなれば、それに越したことはないだろう。

 

また、「考え方」などの抽象的な概念も、「映画」や「動画」、「ソフトウェア」などのパッケージにしてしまったほうが伝わりやすい。「コンピュータの怖さ」を人にうまく伝えるのは難しいが、「2001年宇宙の旅」を見れば、それは子供でもわかる。

 

 

人に何かを伝える、というのは非常に難しい作業だ。そんな時は、「話す」や「書く」ではなく、「ツールを使ってもらう」「作品を見てもらう」ことから初めてみるのも悪く無いだろう。

 

 

 

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【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)