「僕ね、絶対にやらないことを幾つか決めているんですよ」

と、彼は言った。

彼は専門商社に勤める営業だ。仕事はできるが「出世しよう」という意欲がないという。

 

「出世競争もその1つですね。例えば今年収は約550万です。ボーナス別で手取りは月に30万くらい。例えばこれを部長クラスの1000万程度にするとします。

まあ、手取りは月に50万くらいになりますが、でも、月に手取りをたった20万円ふやすのに、どれだけの労力が必要か考えると、全くやる気にならないですね。」

 

「なるほど。そういう考えもありますね。」

「会社で出世するのは大変ですよ。上司に頭下げて、会社の方針に従って、毎年目標達成目指して燃え尽きる。アホくさくて、やってられないですよ。ただでさえ管理職は減ってますからね。努力もだいたい徒労に終わります。

だいたい、会社で出世しようとすれば、ゲスなこともしなきゃならない。」

 

「そうなんですか…。」

「ま、安定して月に30万もらえるなら、悪い仕事じゃないんで。これ以上あくせくはしたくないですね。」

 

「そういう人、会社に多いんですか?」

「どうですかね、皆とこんな話はしないですからね。ちょっとはヤル気あるようには見せとかないと、会社に居づらくなりますから。」

 

「あと10年、20年こんな感じで働くイメージですか?」

「そうですね、長く仕事を続けるコツは「目標達成する年」と「手抜きする年」を適度に混ぜることです。毎年目標を達成してしまうと目標が上がってしまいますし、あまり手抜きして会社が潰れても困るんで。」

 

「したたかですね(笑)」

「皆言わないけど、こんな感じでしょう。サラリーマンは金持ちにはなれないですよ。そんなことはわかってます。でも、起業なんてアホなことはしない。」

 

「起業はアホですか(笑)」

「気分を悪くしたらスイマセンね。ま、一部の才能ある人がやればいいわけですよ。そんなことをするよりも、自分でちょっとした副業をするのが一番儲かりますよ。

会社は月給20万円上げるのに10年、20年と、とんでもない労力がかかりますけど、副業なら2年で可能だったんで。」

 

「何をやってるんですか?」

「いくつかやってます。アフィリエイトは月10万くらいにはなります。最初は手間掛かったんですが、今は結構ラクですね。運営のコツもわかってきたし、もう一つ作ろうと思ってるんですよ。

それがうまく言ったら、もう10万足せるかなってね。まあ1年位かかりますけど。

 

あとはAirbnb。実家の部屋が空いてるんで。そこから月10万くらい。これも楽でオイシイですね。ま、両親にも少し渡してるんですけど。

あとは知り合いからライティングの仕事をチョコチョコもらって、これで月3万くらいですかね。ま、書くのが得意なんで。勉強にもなりますし。これはもっと増やせそうです。

 

色々やってみたんですが最終的に続けてるのはこんな感じです。

あと、事業やっていると経費を認めてもらえるんでね。パソコンとか、携帯料金とかは経費で落とせますし、交際費も使える。自分で事業を持っておくと、税金を減らせるのもメリットですね。」

 

「会社には何も言われないですか?」

「この程度だったら何も言われないでしょう。別に会社に迷惑をかけているわけでもないですし。「出世したくない」というのが迷惑かもしれませんが(笑)、でも殆どの人は平社員で終わりますから、別にいいんじゃないですか。」

 

「結構、副業で時間をとられませんか?」

「いや、さっき行ったように「しないこと」を決めてるんで。私、残業は絶対にしません。残業は割にあわないので。残業代で月に10万稼ぐのは、大変ですよ。

出世を諦めていると「帰りづらい」とかが全く無くなるのもいいですね。」

 

 

こういうのも、一種の「新しい働き方」なのだろうか。ともあれ、彼も頑張っているのだ。

 

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