テレビ局の労働問題に詳しい方と先日お話をした。その中で「おや」と思ったのが、解雇規制についての話だ。

 

一般的に日本は解雇規制が強く「会社が従業員をクビにできない」と言われている。だが実態も本当にそうなのかといえば、必ずしもそうではない。

 

お聞きしたところ、労働政策研究・研修機構の調べ※1によれば、実態は大企業と中小企業では様子が異なるという。

現実には中小企業においては解雇は自由におこなわれており、大企業においては自由に解雇できない、という実態がある。

その理由は労働契約法の16条にある。

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 

実は、この条文のどこにも「解雇してはいけない」と書いてはいない。「解雇して良いが、解雇権を濫用してはいけない」と書かれているだけだ。

したがって、解雇された従業員は解雇を無効とするためには、「解雇は権利の濫用だった」と証明するために裁判を起こさなければならない。

 

中小企業の場合、解雇された従業員が訴訟をおこすことは稀なため、事実上ほとんどは「泣き寝入り」、もしくは「さっさと転職」ということになる。

だが、大企業においては「大企業の社員」という既得権益が大きいため、解雇された社員が裁判を起こすケースも多い。

日本IBM元社員5人の解雇は「無効」 東京地裁で判決

日本IBM(東京都中央区)の社員5人が「業績不良」を理由に解雇されたのは違法だと訴えた訴訟で、東京地裁は28日、5人全員の解雇を無効とする判決を言い渡した。吉田徹裁判長は「解雇権の乱用だ」と述べ、解雇後の給与の支払いも命じた。(朝日新聞)

そして、この場合はほとんど、従業員側の言い分が認められる。

 

つまり「解雇規制」は、よく言われるような弱者のためではなく、「大企業の社員という既得権を持つ人びと」つまり強者のために存在している。

 

 

政権はこの「解雇規制」を撤廃しようとしている、とテレビ局の方からお聞きした。

「なるほど」と思う。

大企業の一部の社員だけが得をするシステムならば、そんなものなくても全く問題はない。とする見方もある。

しかも解雇規制が無くなって困る人は「大企業の中でも、成果をあげることのできていない人たち」だけである。

 

そう考えれば「解雇規制撤廃」に反対する理由はあまり見当たらない。

 

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解雇規制がなくなる、またはお金を払えば自由に解雇ができる、という世界になると、一体世の中はどうなるのだろうか。

 

まず、企業が生活の面倒を見る、という感覚はなくなる。したがって「政府によるセーフティーネット」が整備されなくてはならないし、それがあっての解雇規制撤廃だ。

終身雇用はほんとうの意味で消滅し、年功序列もなくなるだろう。

 

ただ企業側としては人に関してのリスクが大幅に少なくなるので、新規事業の立ち上げもやりやすいし、積極的に雇用を仕掛けることもできる。

「経歴的に多少難があっても、できる人」を採用しやすくなるだろう。「新卒で良い会社に入れなければ絶望」ということもなくなるかもしれない。

 

何より良いと思うのは、「大企業の中で眠っている人けど、飛び出す踏ん切りのつかない人たち」が労働市場に出てくることだ。

大企業の中には有能だが、上司と合わない、得な仕事が出来ない、と言った理由で十分に成果を上げていない人たちがたくさん存在する。

 

面白いことに、リストラされた人が、リストラをきっかけにいきいきと働き出した例は、少なからずある。

 

ある大企業でプロジェクトマネジャーをやっていた方は

「リストラされた時は、正直つらかったです。でも私のやってきたことを必要としてくれる人はいるんですね。給与は下がりましたけど、仕事は遥かに面白くなりました。もっと自分のやれることの領域を広げていきたいですね。」

と言っていた。

 

ある年配のマネジャーは

「会社から退職を勧められました。その会社にいても未来はなかったので、思い切って辞めて、知り合いの会社に拾ってもらいましたけど、今のほうが面白いですね。

実際「私の技術が役に立っている」という方が、100万、200万程度年収が少なくても幸せに働けるような気がします。」

と言っていた。

 

彼らの言葉は偽らざる本音だと思うのだが、どうだろうか。

 

 

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