人と話をしていて、「話が浅いなあ」と呆れることが誰にでもあるだろう。

これは話の中身によらない。

漫画の話で驚くほど深い話になる時もあるし、哲学に関して浅い話しかできない人もいる。アイドルで深い話をする人もいれば、政治で恐ろしく浅い話しかできない人もいる。

 

誤解しないでいただきたいのだが、もちろん「浅い」のが悪いのか、といえば特にそういうことでもない。

カジュアルに楽しむ場で深すぎる話をされても困る。逆に議論をしなければならない時に話が浅いのも困る。まあ、バランスだ。

 

ただ、会社において「こいつは薄っぺらい、浅い話しかできない」とみなされてしまうと、仕事ができないと思われる。それでは色々と困るだろう。

だから、「浅い話」はなぜ浅く聞こえるかを知っておいても悪くはない。

 

 

1.言葉の意味をよく考えずに使っている

ある面接で、こんな話があった。

「志望動機は?」と聞かれた応募者が

「はい、御社の事業戦略を見て、私の◯◯のスキルが役立つと思いました。」

といったのだ。

役員は苦笑して、こう言った。

「うん、webをよく見ていただけているのはありがたいんですが、ウチは戦略、という言葉を使っていなかったはずです。あなたは「戦略」という言葉をどのような意味で使っていますか?」

応募者は応えられず、「あまり考えて言葉を使っていない」ことが露呈してしまった。

 

また、比較的最近多用されるようになった外国語は、まだ日本語に対応する言葉がないことも多い。

・イシューは「問題」?

・リスクは「危険」なのか「可能性」のことなのか?

・コミットは「約束」でいいのか?

外資系の人間が、ルー大柴のような日本語を使うのは「それに当たる日本語がないから」ということもわかるが、あまり考えずに使うと真剣に考えている人にとっては「浅く」見える。

知らないことは、知らないといったほうがまだ良いのだ。「勉強不足だな」と言われたほうが、「浅い」と言われるよりはまだ良いだろう。

 

 

2.成り立ちを知らない

例えば「終身雇用はもうダメ」という説があるが、これについて深い議論をするためには、「終身雇用が導入された経緯」や「終身雇用が広がった理由」を知る必要がある。

現在うまく機能していないものであっても、過去にそれが導入された時は皆がそれを有効であると考えたのだ。

 

今は人道的に否定されている「奴隷制」も、古代ローマでは積極的に用いられていた。そしてついこの前までアメリカにも数多くの奴隷がいたことを考えれば、奴隷制=悪 は、比較的現代の考え方である。

したがって、彼らはなぜ「奴隷」を用いたのか、なぜ彼らはメリットがあると考えたのか、当時の状況を知らなければ、奴隷制の意義について議論はできないはずである。

感情のみで「奴隷制は悪だからダメ」では話にならない。

 

またヨーロッパ人がなぜ、他の大陸の人々を征服できたのか。なぜ逆ではなかったのか。考えてみると、アメリカ先住民がヨーロッパを征服していても良かったはずである。

「浅い」話では「西洋人が優秀だから」という単純すぎる解釈があるが、「深い」話をしていくと、地理的要因、利用可能性の高い生物種の存在、気候変動など、複雑に様々な要因が絡み合っていることがわかる。※1

 

考え方や物事には必ず二面性があり、片側しか見ないのは「浅い話」の始まりである。我々は常に「成り立ち」を積極的に知ろうとしなくてはならない。

一見不合理な制度に見えても、それが採用された当時、状況では極めて合理的だったのだ。

※1

 

 

3.話の根拠が薄弱

話の根拠が薄弱な人がいる。

例えばマーケティング会議で「なぜ主婦をターゲットにしたのか?」と聞かれたとき「テレビで、主婦のお客さんが多いと言ってた」という人がいた。「それ以外は?」と聞かれると「それ以外はない」と答える。

 

もちろん、テレビの情報を当てにするのはダメだ、と言うつもりはない。

そうではなく、問題なのは複数の情報源を当たらないことだ。webで調べてもいいし、文献をあたっても良い。専門家に聞きに行っても良い。「浅い話をする人」とにかく「情報を信じ過ぎる」のだ。

人を疑わないのは美徳ではあるが、テレビは間違うし、webは正確な情報が書いてあるとは限らない。専門家は自分に都合よく解釈することも多い。

様々な文献をあたって、自分なりの見解がイメージできるくらいでなければ、「浅い」話に終始する。

 

ある飲食店では、店の主人が「国産だから安心ですよ」と客に向かってアピールしていた。

だが「国産だから安心」の根拠はどこにあるのか、何が安心なのか、肝心な部分はさっぱり見えてこない。イメージだけで語ると「浅い」話となる。

 

 

4.権威に頼った物言い

「浅い」話の特徴の一つは、「権威」がよく出現することだ。

権威を使うこと自体は悪くない。問題は「権威がなぜこのように述べているのかの理由を知らない」のに、権威を引き合いに出すことだ。

 

「成功している社長の◯◯さんが、ダメって言ってましたよ」

「へえ、なんで?」

「よく知らないですけど、◯◯さんが言ってるなら、間違いないでしょう。疑うんですか?」

「(浅いな……)あなたはどう思ったんですか?」

「あの人凄い成功してますからね。」

「(ダメだこいつ……)そうですね。ま、あなたがそう思うなら良いんじゃないですか?」

「いや、◯◯さんが言ってるんですよ。」

「理由を知らないんじゃ、そのまま信じるわけにいかないですよ」

「あなた、本当に素直じゃないですね!」

「そういう問題じゃないでしょう。」

 

我々は成功者の言うことを盲信しがちだが、認知心理学的にはそれは『後知恵バイアス』と呼ばれるバイアスの一種である。

「成功者の言うこと」「権威の言うこと」は、正確な記憶に基づくものとはいえないことも多いと知るべきだ。

 

 

繰り返すが「浅い話」が悪いとは言わない。浅い話をいちいち批判するのは単なる「面倒な奴」だ。

だが、議論や考察をする際にそれではまずい。きちんと使い分けよう。

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第6回 地方創生×事業再生

再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【今回のトーク概要】
  • 0. オープニング(5分)
    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)

 

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