Books&Appsを運営する弊社は、現在フルリモートワークで仕事をしている。

といっても、小規模な会社なので大企業が言うフルリモートワークとはちがい、「やってみましょう」の一言で、結構気楽にやれている。

そして実際に二年ほどフルリモートワークをやってみると、利点や欠点がよくわかる。

 

 

もともと、弊社は昭和63年に、わたしの父が創業した。

ほとんど税金対策でしか機能していなかったので、父の引退とともに、休眠状態であった。

ところが私が会社をつくるとき、父が私に使わせるために会社を潰さず残しておいた、と言ってくれたので、私は起業とともに「ティネクト株式会社」と名前を改め、会社を運営し始めた。

その時のメンバーは私ともう一名の合計二名。

 

「たった二人でオフィスなんかいらないよ」という考え方もあった。

しかし結局、仕事のメリハリをつけるためと「フェイス・トゥー・フェイス」が重要だとの考え方が当時は勝ち、一人の家をオフィスにし、机を並べてホワイトボードを購入し、本棚を置いて「オフィス」を作った。

そして、結論から言うと、オフィスは役に立った。

人間は、とりあえず「オフィス」にいれば、仕事はするのだ。

 

特に、ブログを毎日、自分が書いて更新するのは、相当骨の折れる仕事だったので、オフィスに行って

「なんか書くことないかなー」とか

「今日は人事について書こうと思ってるんだけど、どう思う?」とか、

もうひとりに話しかけていると、とにかく何かしらのネタは出てくる。

 

また、経理業務や会議にもオフィスは役に立った。

面倒な仕事であっても、とにかく誰かが仕事をしていれば、自分も仕事をしなければならないと思える。

また、人を集めて膝を突き合わせて会議をやるのも、アイデアの創出には便利だった。

 

こうして弊社は3年間ほど「オフィスあり」の普通の会社だった。

ときには夜遅く、時には土日に、私はオフィスに通った。

 

ところがその後、様々な環境変化とともに、その家を引き払うことになったとき、

「またオフィスを作るべきかどうか」

を考えることになった。

私は正直、どちらでも良かったのだが「オフィスに通う時間」がつねづねもったいなく感じており、かつ最近の趨勢としての「働き方改革」を自ら感じてみたいという思いもあった。

 

私は結局「もうオフィスは作らない」と意思決定し、リモートワークをするようになった。

こうして弊社は、役員同士も滅多なことでは顔を合わせない会社となった。

 

 

そして今、約二年の歳月をリモートワークしてみて、思ったことは以下のことになる。

 

1、「まとまった時間」が手に入るので、生産的な時間が激増する。

私の個人的な性格も大きいのだと思うが、私はとにかく「通勤」が嫌いだった。

なぜなら、「朝起きて、集中力の優れている時間」に電車で消耗するからだ。

 

一日の中で集中できる時間はせいぜい朝起きてから四、五時間と言ったところで、昼食をとった後は生理的な影響でクリエイティブな仕事はしにくい。

次に集中力のピークがやってくるのは夕方以降だ。

 

その貴重な朝の時間を「通勤」という全く生産的ではない時間に当てることこそ、究極の無駄であると感じていた。

「本を読めば」とか「考えをまとめるのに使えば」とか、アドバイスをいただける方もいたが、朝でなくてもできる。また、私の仕事は調べ物が多い都合上、スマートフォンではなくPCを開く必要がある。

そのため、電車の中の細切れな時間では仕事ができない。

 

そしてなにより、ピーター・ドラッカーは「時間は大きくまとめなければ価値がない。」と言っている。

仕事の多くは、たとえごくわずかの成果をあげるためであっても、まとまった時間を必要とする。こま切れでは、まったく意味がない。何もできず、やり直さなければならなくなる。

報告書の作成に六時間から八時間を要するとする。しかし一日に二回、一五分ずつを三週間充てても無駄である。得られるものは、いたずら書きにすぎない。

ドアにカギをかけ、電話線を抜き、まとめて数時間取り組んで初めて、下書きの手前のもの、つまりゼロ号案が得られる。

その後、ようやく、比較的短い時間の単位に分けて、章ごとあるいは節ごと、ごとに書き直し、訂正し、編集して、筆を進めることができる。

実験についても同じことが言える。装置をそろえ、ひととおりの実験を行うには、五時間あるいは一二時間を一度に使わなければならない。中断すると、初めからやり直さなければならない。

これは真の金言であるとおもうが、私は、せっかく朝早く起きても、「通勤」が入ることによって、まとまった時間が分断されるのが本当に嫌だった。

 

ところが「通勤」をなくし、家で仕事をするようにした途端、どうだろう。

朝の四、五時間のまとまった時間を手に入れることができた。

これは値千金で、土日しかまとまった時間がなかった私にとっては、生産的な時間が10倍に増えたようなものだった。

 

「午前十時に、すでに一日の困難な仕事が、ほとんど終わってしまった状態」を想像してみほしい。

とにかく、仕事が早く終わることはありがたい。

 

2、協力会社や、外部のリソースを使う技術が上達する

そして、2つ目の利点が、「外部リソースの活用が上達する」ということだ。

以前、ガイアックス社の菅氏が「苦手なことは外注”ルール、1人月5万円以上の外注義務化で伸びた売り上げ」という記事で述べていたとおり、弊社のような零細企業や、ベンチャー・スタートアップは、「強み」以外の仕事はしてはいけない。

だから、仕事における外注の比率が増える。

 

だが、協力会社や外部リソースを活用するのは、それほど簡単なことではない。

要件を伝え、成果を明確にし、費用を計算し、そして、パフォーマンスをレビューする。

 

そういった一連のサイクルをしっかりと回して、初めて協力会社や外部リソースの皆様と良い仕事ができる。

そのサイクルを「社員」で毎日練習できるので、協力会社や外部リソースとのコラボレーションの技術が向上する。

 

「金を払ってんだから」なんて、外注先に仕事を丸投げするなんて、もってのほかだ。

外部ときちんと付き合うには、こちらもそれなりのスキルと、時間を必要とする。

資本力のある会社は、大きな金をちらつかせて「丸投げして、ミスは下に押し付ける」ができるのかもしれないが、私達には経済的にも道義的にも、そのようなことはできない。

 

結局、リモートワークをはじめて数ヶ月で

「協力会社の使い方」や「フリーランスの方々の使い方」がかなり効率化された。

外注のコツを覚えたのと、各種の管理帳票などが揃った結果だ。

 

 

これは大きな収穫であった。

 

 

そして、ここからは「デメリット」の話が中心になる。

 

1、「読解力・文書化能力の低い人」はリモートワークに向いていない。

リモートワークはその性質上、「書面」によるやり取りが非常に多い。例えば、メッセンジャー、チャット、報告書、進捗管理表、タスクリスト……

仕事に「文書」が必要とされるシーンが、オフィスワークに比べて格段に増える。

もちろん、これは「言った言わないが無くなる」ことや「文書に落とし込めるようにタスクを分解するようになる」など、仕事の進め方を見直すいい機会になる。

 

だが、「読み書きが苦手な人」は、本当に苦労する。

37シグナルズのジェイソン・フリードは、ベストセラー「強いチームはオフィスを捨てる」で次のように述べている。

リモートワークには、文章力が欠かせない。メールやチャットや掲示板で話しあいをするのだから、文章で相手に伝える力が必要だ。あなたが採用する側の人間なら、候補者の文章力を判定基準に入れたほうがいい。

これは全くそのとおりで、リモートワークをすると「メールのわかりにくいやつ」や「文書を理解する能力の低いやつ」とのコミュニケーションコストが跳ね上がる。

そして、彼らは徐々にチーム内で孤立するようになる。

 

「そんなに読み書きが苦手な人って多いの?」という疑問を持つ方もいるかも知れないが、残念ながら多い。

例えば以前こんなことを書いた。

AI研究者が発見した「バカの壁」の正体

インターネット上には、様々な記事があり、それに対して様々なコメントが見受けられる。

賛否両論、それ自体は問題はないのだが、問題なのは「なぜこの記事から、このようなコメントが?」というコメントも多いことだ。

中には明らかに「これ、文章をを読めてないよね」というコメントもある。

 

言葉は悪いが、それは通常「バカの壁」で済まされてしまう。

だが、そう指摘するだけでは解決には至らないし、争いも起きて、非生産的だ。

 

だが、この本を読んでよくわかった。

不思議すぎるコメントが時折、見受けられるのは、つまり「大人でも「ちゃんと読めていない人」がいる」からなのだろう。

また、読解力・文書化能力が低い人は、たいてい「タスク分解できない人」である。

オフィスがあれば、「ちょっと相談して、少し進めて、また相談して……」というやり方で、上司の時間を使えばなんとかなったが、リモートでは凄まじく効率が悪い。

 

インターネットの発達は「文章力」の価値を高めたが、今後もリモートワークが一般的になるにつれ、文書を苦手とする人物はますます不利な立場になるかもしれない。

 

2、意思の弱い人、仕事の習慣化が苦手な人はオフィスのほうが無難に仕事できる。

上述したが、オフィスは「誰でも、来てしまえばとりあえず仕事を始めることができる」仕組みとして優れている。

 

ところが、リモートワークは「仕事を始めなければならない」という強制力に欠ける。

また、仕事の状況を監視できないため「仕事の取り掛かりが遅かったり、苦手な仕事をどんどん後回しにて、チームの仕事をスタックさせる人がいる」ことに、私は気づいた。

 

優秀な人ばかりで構成されたチームや会社であればよい。

だが、意志が弱かったり、仕事の習慣化が苦手な人がチームに居ると、彼の「スタック解消」に後で結構なコストがかかる。

率直に言うと、「ダメなやつには、まだ「オフィス」という監視装置が必要」とも言える。

 

「そんな奴はさっさとクビにして、優秀な人を雇えばいいのに」という声も聞こえてくるが、世の中には「優秀ではない人」のほうが数が多いのだ。

そういう贅沢は、殆どの会社は言えないのである。

 

3、「頑張っていること」が評価されないと、萎縮する人が出てくる

リモートワークは、仕事の途中経過が分かりづらいので、一般的に「成果中心の働き方」になると言われる。

「結果しか見ない」というのが、リモートワークにおける真理、ともいわれる。

 

果たしてそれは本当なのだろうか。

実は、実際にやってみてそれは半分事実で、半分は嘘だとわかった。

 

確かに「成果こそが重要な仕事」は、リモートワークに向いている。

それは作業的なものであったり、アウトプットが「作品」であったり、目に見えやすい仕事は、リモートワークで十分だ。

 

ただ、「頑張ることが重要である仕事」が全く存在しないのか、と言われると、実はそうも言い切れない。

 

例えば新規事業、新しいマーケティングの手法、新しい評価手法など、「結果が出るという保証がないもの」については、「頑張ってみたがダメだった」も重要な情報だ。

「これだけやってみてダメだったのだから、別の手法を試そう」という判断は、「頑張ってやりきったかどうか」も加味する必要がある。

 

だが、「成果中心の働き方」を導入すると、そういう情報は手に入りにくい。

特に普通の人は「成果中心」と言われると「結果を出すまで頑張ろう」という考え方ではなく「結果の出やすいことだけをやろう」という考え方に陥りがちだ。

 

つまり「萎縮する人」が増える。そして「萎縮する人」がチームに増えてくると、徐々に会社は「失敗が許されない場所」となり、事業は停滞する。

「失敗」のないところにはイノベーションも、大成功もない。

 

4、リモートワークは「未熟な人を育てる」には不利

ベンチャーキャピタルを経営する、ICJの吉沢氏は、「部下のモチベーションは、上司とのコミュニケーションの総量との相関が高い」と記事に書いている。

StrengthFinderなどで知られる米国のGallap社は、数多くの組織に関するリサーチ結果を発表しています。

その中でも最もインパクトある調査結果の1つが、「部下のモチベーションは、上司とのコミュニケーションの総量との相関が高い。そのやりとりが、ポジティブかネガティブかよりも、そもそもその絶対量が大切なのだ」という点。

つまり、まずは自分が上司になりたてのときは、「要領良く回そう」「なるべく任せよう」といったことをする前に、とにかく部下との接点、会話量を多くすることが、関係性を高め、仕事をやりやすくするベースになるということです。

YLOG走り書き

さらに、上司との関係が良くなれば、様々なチャレンジが部下に生まれ、結果が出て、学習効果が高まる、とも述べている。

 

だが残念ながらコミュニケーションの総量は、リモートワークはオフィスワークに劣る。

コミュニケーションの多くは、文字情報だけでは伝わりにくい。

例えば、叱責は文章で行うと、叱った本人が思った以上にきつく伝わる。

 

要するに、リモートワークは「未熟な人を育てる」にはオフィスに比べて不利な条件だ。

 

つまり、よく言われる話だがリモートワークは「できる人」と「できない人」の差が広がりやすい。

「できない人」は、ずっとできないまま、成長も信頼関係も手に入らない。

「できる人」は、逆に自らの時間をうまく使って、際限なく可能性を広げていける。

それが、リモートワークのホントのところだ。

 

 

以上、メリットとデメリットを挙げてみたが、

弊社はまだ当分、メリットがデメリットを上回るので、リモートワークを続けるつもりである。

 

しかし、将来的に若手を採用したり、業界の事情に明るくない人が入社し、教育を施さなければならないと考えたときには、

オフィスを構えることを考えるだろう。

要は、状況に対応する、というだけなのだが。

 

 

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