昔からの友人と話していた時、彼がしてくれた話だ。

 

「笑っちゃうんだけどさ、仕事やめよう、と決めたら逆にそれまでの仕事がとても面白くなったんだよね。」

「……?普通逆じゃない?」

「いや逆じゃない、やる気が出て、で、成果もかなりでちゃったんだよね。」

「へえ、何でそうなったのかね。」

「いくつか理由はあると思うんだけど、一番大きいのは「上司を向いて仕事しなくて良くなった」ってことかな。」

「具体的には?」

「例えば目標報告も今までは「これくらい言えば、上司が納得するかな」っていう基準で申告してた。けど、辞めることが決まったらそういうことどうでも良いじゃない。だから、自分で出せると思う目標を素直に出すようにした。」

「……なるほど」

「やっぱり、自分で決めた目標だと頑張れるし、多分明るく振る舞えるようになって、部下から「凄い楽しそうに働いてますね」って言われるようになったし。」

「最初からやればいいのに」

「そんなわけに行かないよ、上司が納得しないと詰められるんだから。お客さんじゃなくて、まずは上司を納得させるのが仕事だったんだよね。それが嫌で嫌でさ。」

「……ま、わからなくはない。」

 

「あとは、休暇を取りたいときに取るようにしたから、集中できるようになった。大好きだったスキーにも勝手に行けるし。リフレッシュすると、仕事にも身が入るよね。」

「まさに、上司のために仕事をしていたっていう典型みたいだね。」

「だろう?」

「ミュージシャンが「この曲売れなかったら田舎に帰ります」って言って作った曲が大ヒットした、みたいな感覚があるよ。ほら、ビギンの「恋しくて」とか。うまくやろうと思わなくなったら、かえってうまくいくって、結構世の中にあるじゃない?多分、評価を気にしすぎると、良い物が作れないんだよね。」

「上司との仲は悪化したんじゃないの?」

「と思うでしょう、ちがうんだなこれが。」

「どうなったの?」

「まず、成果が出たから上司もこっちに何も言えない。あと、気に入られる必要が全くなくなったから、上司を単なる「会社の機能」と思うようになった。そしたら感情抜きにうまく上司を使えるようになった。多分向こうも、こっちをコントロールしようと思わなくなったんじゃないかな。」

「それで余計な確執が無くなって、仕事がうまく行って、面白くなったと。」

「そういうことだな。」

「……辞める決断をしなくても、そうなればいいのにな。」

「どうなんだろうね。でも会社員として働く時に「上司の顔色をうかがわずに済む」なんて場所、あるのかね」

「確かに。」

 

友人の話を聞きながら、一つのフレーズを思い出した。

優れたエグゼクティブは、部下が上司たる自分を喜ばせるためなどではなく、仕事をするために給料を払われていることを認識している。

まったくもって、そのとおりであるが、逆にそういう上司が少ないからこそ、ドラッカーはわざわざこのようなことを言った*1のだろう。

「辞めることが決まった部下が、急にいきいきと働き出した」は、おそらくマネジメントの失敗を示しているのだ。

 

 

*1

 

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