人は多かれ少なかれ「承認欲求」によって突き動かされる。

ということはつまり、自分の承認欲求は抑制し、他者の承認欲求を満たせる人、つまり

「自らは控えめにし、代わりに他者を持ち上げる人」

が、いわゆる「コミュニケーション強者」になりやすいということだ。

 

そして、一部の政治家、経営者など、カリスマ的能力のある人は、この承認欲求の操作に極めて長けている。

 

例えば、最もカリスマ性があるとと言われた政治家の一人、田中角栄には、次のようなエピソードがある。

田中は秘書から金を配るとき、秘書の方から頭を下げて、納めてもらうべく丁重にお願いするように指示した。

「いいか、きみが候補者にカネをくれてやるなんて気持ちが露かけらでもあればかならず顔色に出る。そうすれば相手は百倍、千倍にも感じる。百万、二百万を届けたところで一銭の値打ちもなくなるんだ。」*1

この言葉こそ、承認欲求コントロールの達人の言葉だろう。カネは本質ではない。「候補者の自尊心を傷つけずにカネを渡す技術」が本質なのだ。

自分を抑制し、他者の承認欲求を満たすことを徹底した結果、彼は一国の宰相に上り詰めたのである。

 

しかしながら「自己の抑制」と「他者の承認」の両立は、それほど簡単なことではない。自制しつつ、他者を賞賛するにはそれなりの精神力が必要とされるからだ。

具体的には、満たさなければならない条件が2つある。

 

1.強い自信があること

自信がない人間は、他者をうまく承認することができない。

一見、社会的成功を手にしているようにみえる人物であっても、他者の人生に興味を持たず「自分語り」しかできない人物は、「承認欲求を欲する立場」であるから、コミュニケーションにおいては弱者と言ってよい。

 

2.言葉ではなく、結果で自分自身の有能さを示すこと

弱い人間は「他者の承認」をすると、釣り合いを取ろうとして自分の話を始める。

それはコミュニケーション強者ではない。他者は褒めつつ、自分は「何でもない」という顔をするのが、正しい態度である。

 

「そんなことを言っても、相手から「大したことないやつ」と舐められてしまうのでは?」という方もいるだろう。

実はそれでいいのだ。

コミュニケーション強者は決して自分を高めるのは「言葉や肩書ではなく、結果しかない」ことを知っている。

 

コミュニケーション強者は胸の内でこう考えている。

「相手が承認を求めているのであれば、思い切り承認してやろう。逆に、私が彼に承認されるかどうかは、私が彼に何をしてやったかに寄るのだ。」

コミュニケーション強者は「自慢によって承認される」のではなく「親切によって承認される」のである。

 

 

こうして「親切」を与え続ける人物は徐々に「カリスマ」を発揮しだす。

実は、本質的に「カリスマ」は本人が発するものではない。本人に親切にされたり、承認されたりした多くの人が、「この人はすごい」と吹聴して回ることで、その人が徐々に神格化されていくのだ。

嘘ではない。

取り巻きのいない状態で、「カリスマ」に直接あってみると、とても人の良いおじさんであったり、ちょっと気の強いひとであったりする。

「特徴はあるが意外と普通でした」というコメントこそ、正直なコメントである。

 

しかし、取り巻きがいる状態では、「この人を敬いなさい」という圧力をを取り巻きがつくるので、一種の「圧力を発揮する場」ができる。

カリスマとは、取り巻きが作り出す「場」なのである。

 

以前、私の知人の経営者に承認を与えることがめっぽう上手い人がいた。

相手の息子の受験日まで憶えていて、「息子さんの受験が心配なら、今日は帰ったらどうだ」とか、社員の配偶者の誕生日には必ず花を届けさせる、とか、細かくの他者への承認と親切を実践する。

それは田中角栄のように素知らぬふりをしてはいるが、経営者は計画的にやっているのである。だがもちろんその一連の行動は「形だけ」ではなく、本気だ。

だからもちろん、社員たちは「あの社長は本当にすごい。カリスマを感じる」というのである。

 

このように、コミュニケーション強者は、承認欲求をコントロールすることで、人をマネジメントする。

それは決して、権力に依るものではない。

 

トップは親切と承認とを与え、取り巻きは忠節と権力の基盤を提供する。それはいうなれば、古代ローマのパトローネスとクリエンテスの関係のように、互恵関係によるものである。

 

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(2021/11/22更新)

 

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