最近ポケモンやゴジラが一種のブームとなり、話題となっている。
そして、ブームには争いがつきものである。
どんな争いか。
それは
「作品を褒める人」
「作品を褒める人をけなす人」、すなわち「他者の好みを否定する人」
との争いである。
逆のパターン、すなわち皆が「つまらない」といったものに対して、「いや、自分はオモシロイと思ったけど」という人に対して不快感を覚える人はあまりいない。
「変わってるね」で済んでしまう。そこには争いはない。
だが、人が「おもしろい」といったものに対して、
「あんなものを褒める人はおかしい」
「皆が褒めるけどオレはつまらないと思った」
「面白いと言われてみたけど、期待はずれだった」
「オレは見てない(あんなものに興味があるやつはおかしい)」
と、否定する人が出て来ると、そこには争いが起きる。
この手の争いはいつもブームが起きるたびに発生するので、とても楽しく拝見している。
そして、この争いの中で一番興味があるのは「他者の好みを否定する人」の心理状態だ。彼らはなぜわざわざ「楽しんでいる人」を不快にさせるようなことを言うのだろうか。
おそらく、そこには黙っていられない何かがあるはずである。
以前、こんなことがあった。
ある飲み会の場で、同僚が「ワンピース」というマンガを好きであると表明した。すると、周囲の何人かも同調した。
たちまちワンピース談義が盛り上がる。
すると傍らの男性が「ワンピースって、話に深みがなくて面白くない」といったのだ。
その男性はつづけて
「ワンピースよりも、◯◯のほうが世界観が良く出来ていて面白いよ(残念ながらタイトルの詳細は忘れてしまった)。ワンピースを面白いという人は、××だよ」
と皮肉めいたことを言った。
まわりの人間はムッとして「いやいや、◯◯の方が面白いとか、ないない。」と言ったが、その男性は頑として「◯◯のほうが上だ」と一歩も引かない。
そして、気の利いただれが話題を変え、その場は収まった。
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この話を聞いて知人は「「好きではない」を表明するのは自由では?」といった。
もちろん、その通りだ。
面白くもなんともないものを、「面白い」という必要はない。「つまらない」と批評するのも自由である。誰にでも発言の自由はある。
しかし、注目すべきはそこではない。
客観的に見れば、集団内で「つまらない」とわざわざ否定して多くの敵を作ることに、社会的なメリットはほとんどない。
場合によってはコミュニティ内で敬遠されるし、上のように仕事仲間では仕事に支障が出る可能性もある。それは一種のコミュニケーション障害とも言える。
したがって問題は「なぜ否定したくなるのか」だ。
米バージニア大の心理学者、ジョナサン・ハイトは著書*1の中で、次のような実験結果を提示している。
知能テストの成績が低いと言われた被験者は、IQテストの正当性に疑問を投げかける論文を好んで読む。
カフェイン摂取と乳がんの関係を報告する(架空の)科学論文を読まされると、コーヒーを常に飲んでいる女性は、男性や、それほどコーヒーを飲まない女性より、そこに多くの誤りを発見する。
実験は「直観に反する結果を提示されると、人はそれを否定する証拠を必死に探す」ことを示している。
「◯◯が好きだ」という人たちに対して、直感的に反発を憶えた人物は、それを否定する情報を必死になって探す。それは、自分の感想であったり、誰かの批評であったりすることも多々ある。
だから、彼らは必死になって「面白くない」という主張を繰り返すのだ。
「好き嫌い」「正義と悪」「道徳と不義」などを伴う発信は、人間の性質上、それを否定したい、という勢力を必ず生み出す。そして、その行き着く先は、不毛な論争である。
ちょっとした飲み会の会話程度であればその影響は大きくないだろう。
ただしマネジャーが恒常的に「好き嫌い」「正義と悪」「道徳と不義」を発信することは、上で示したようにそれ相応のリスクを覚悟すべきである。
ゼネラル・モーターズのかつての偉大な経営者、アルフレッド・スローンは周りの人間達と親しくすることは殆ど無かったという。
組織を統率する人間は、「好き嫌い」「正義と悪」「道徳と不義」を軽はずみに口にしてはいけないのかもしれない。
*1
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