価格競争は、「強者の戦略」と言われることがよくある。
強者は、資金力、物量を用いて弱者に対して競争を仕掛けてシェアをとる。
それに対して、「弱者の戦略」は、強者の手を付けることが出来ていないニッチに特化し、一点突破を狙う。強者と正面からまともにやりえば、消耗戦となり負けてしまうからだ。
従って、中小企業の経営者は「消耗戦になるので、我々は価格競争したくない」とよく言う。
この考え方は、フレデリック・ランチェスターというエンジニアが発表した、軍事研究に基づく「ランチェスターの法則」という法則にその源流を求めることが多い。
その法則は第一法則と第二法則があり、それぞれに前提が存在する。
日本においては、「ランチェスター経営」という名前で、経営手法としてよく知られる。中小企業向けのコンサルティングを行っている会社は、頻繁に「ランチェスター」の名前を持ち出す。
しかし、本当にランチェスターは、そんなことを言っていたのだろうか?
ランチェスターの法則(wikipediaより引用)
第一法則 戦闘を前提として、戦闘力が優勢な方が勝利し、勝利側の損害は劣勢の戦力と等しくなる。
第一法則の前提
- 両軍は相互に射撃を行なうが、互いに相手の部隊の全てを有効な射程に収めている。
- 両軍の部隊の戦力は兵員と武器の性能によって同様に決まっているが、両軍の部隊が発揮できる戦闘効果は異なっている。
- 両軍とも相手が展開している地点の情報を持たない。したがって、射撃の効果がどれほど得られるか不明なまま戦場の全体に対して射撃を行なう。
- 両軍とも戦闘において残存する両軍の部隊は展開しているが、その部隊の配置は決して形式的に定まることはない。
第二法則 銃器、火砲、航空機が発達して一人が多数に対して攻撃が可能な戦闘を前提とし、双方の戦闘力を二乗した上で戦闘力が優勢な方が勝利する
第二法則の前提
- 戦闘において残存している部隊は互いにあらゆる時点で相手の部隊が配置されている地点についての情報を持つ。
- 戦闘における両軍の部隊の射撃は相互に相手の残存する部隊に均等に分配する。
これを見ると、兵力で劣る軍団がやらなければいけないことは2つ。
・兵力の劣る側は、相手と総力戦を行ってはいけない。(局地戦で、常に数的優位を保たなくてはいけない)
・兵力の劣る側は、相手に勝る武器を持たなくてはいけない。(相手の射程に入ってはいけない)
以上のことを鑑みると、「中小企業は、価格競争するな」とは言っていない。むしろ、価格が良い武器であるならば、積極的に使うべきだと言える。ただし、価格競争が、相手との総力戦になるようではいけない、ということだ。
したがって、スタートアップ企業など、コスト構造が極めて柔軟な企業は、「低価格」は極めて有効な武器になる。
価格を下げても、もっと言えばタダ同然で商材を提供しても、大して企業の体力に影響を与えない場合は、「低価格」が戦略として最も強力だ。強者は高コスト体質になっていることが多く、考えぬかれた低価格は容易に真似できない。
実は、日本能率協会は、強者は非価格競争を原則とするべきだと言っている。低価格化によって最もダメージを受けるのは、売上もシェアも大きい大企業だからだ。
また、低価格を武器とすることを一番うまくやっているのが、孫正義氏だと個人的には思う。彼はADSLを低価格で販売し、強者であるNTTを攻撃した。また、携帯電話でも同じ戦略をとっている。先日のヤフーの出店無料も、コスト構造を見なおせば十分勝算ありと見たのだろう。
さらに、「コンテナ」「発電」「鉄道」など、多くのイノベーションは「考えぬかれた低価格化」を広く、一気に行った場合にもたらされているケースが多い。
弱者ほど低価格化を考えよ、と言っても過言ではないのだろうか。
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