人間の悩みは健康・お金・人間関係の3つに分類される、と聞いたことがある。
「さすがにそれだけじゃないでしょう」と思ったが、なるほど、思い浮かべた過去の悩みはたしかに大半が3つのいずれかに分類された。
健康とお金に関しては物理的なつらさが伴うが、人間関係のつらさはある意味「気の持ちよう」である。病気になれば誰もがつらいが、人間関係は同じこじれ方をしていても「気の持ちよう」でつらく感じる人とそうでない人がいる。
自分なら絶対に耐えられないと思う人間関係であっても、強がりでもなんでもなく、本当に意に介さず過ごせる人も存在する。
ただ、そうわかってはいても人間関係に悩んでいるときの悩みは底が見えない程深く、ネガティブな気持ちに支配されてしまいがちである。
自分自身に関して言うと、人間関係に悩まされていた学生時代と比べ、今はすごく平和である。
その理由は「周囲の人も自分も成長したから」「環境を自分で選べるようになったから」だと思っていたが、最近もう1つ理由を見つけ、納得した。
それは、「学生時代はお金が絡まないピュアな人間関係を築く必要があり、それゆえに複雑で煩わしかったが、社会人のお金が絡む人間関係は一見ドロドロしそうで、実は結構“シンプル”で“ラク”な関係性なのではないか」ということだ。
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学生時代の人間関係にはお金が絡まない。利害関係ではなく、「話やノリが合う」や「なんとなく好き」といった曖昧な要素でグループが形成され、「なんとなく気に食わない」といった曖昧な理由でいじめが発生する。
恋愛が絡むとドロドロした人間関係に発展してしまう点は学生も社会人も変わらないけれど、総じて利害関係のないピュアな人間関係を築けるのが学生の特徴である。
だが、学生の人間関係は、利害関係がないからこそ「感情」に支配された複雑な関係になりやすい。
詳しくは知らないが、以前「スクールカースト」という言葉が流行り話題になった。お金が絡まない中でカーストができてしまう関係性に身を置くことは、私ならとても煩わしいと感じる。皆さんはいかがだろうか。
その点、お金が絡む人間関係はシンプルである。
客と店員の関係も、経営者と従業員、上司と部下の関係も、お金が絡んでいる。
感情ではなく、お金に支配された関係である。客はお金を払うからサービスを提供してもらえる。
経営者はお金を払うから従業員を働かせられる。
店員がサービスを提供するのはお金を受け取るからであり、社員が働くのは給料がもらえるからである。
ある経営者は「世の中の95%のことはお金で解決できる」と言っていた。
極端だが、あながち間違いではないのかもしれない。
ある知人は「自分にとって良い上司とは、給料を上げてくれる上司である」と言っていた。
極端だが、理解はできる。
そういえば、若林正恭さんの『完全版 社会人大学人見知り学部卒業見込』にこんなことが書いてあった。
不動産屋に部屋を出る旨を伝えにいくと「少々お待ちください」と言われた。するとコーヒーを出され「次のお住まいはお決まりでしょうか?」と尋ねられた。
これにはビックリした。なぜ驚いたかというと、風呂なしのアパートを借りた時はコーヒーなんぞというありがたいものは出ず、内件の時も鍵を渡され「どうぞご覧になってきてください」と言われていた。
そして、あとになって不動産屋の子に聞いたことだけど、当時ぼくは赤いシャツ1枚しか外着を持っていなくて、不動産屋に毎回同じシャツでくるので「赤シャツ」というあだ名がついていたらしい。
それがコーヒーを出してもらえて色々なアパートの資料を持ってきてくれる。おまけにマンションを買える金を持ってるとでも思っていたのか、マンション購入の勧めまでしてきやがった。口調もなんともやわらかかった。
ぼくにとって社会とは風呂なしの部屋を探している時にはコーヒーは出てこないが、風呂ありの部屋を探している時はコーヒーが出てくる。そういう場所としてインプットされた。
最後の「ぼくにとって社会とは風呂なしの部屋を探している時にはコーヒーは出てこないが、風呂ありの部屋を探している時はコーヒーが出てくる。そういう場所としてインプットされた。」が印象的である。
お金を持っているかどうかで扱いが変わるというのはよく聞く話ではあるが、ここまでリアルに表現されると、社会の残酷な一面を改めて見せられたようで、少々苦い気持ちになる。
だがこれは裏を返せば「お金があれば社会は快適に過ごせる」ということでもある。
会社の人間関係をとっても、お金が絡んでいる分センシティブな側面もある一方で、「感情」を凌駕する「お金」が関係性を構築するため、ある意味シンプルで煩わしさがない。
金の切れ目が縁の切れ目、寂しさがないわけではない。
だが思い返せば、学生時代の友人も、しばらく会っていない人が大勢いる。当時仲が良かった友人でも、会っていないどころか連絡さえとっていない人もいる。
それは嫌いになったからではなく、「ただなんとなく」そうなっているのである。
寂しいと思う気持ちもゼロではないが、こうやって更新されていくのだな、とさっぱりした気持ちもあって、私はこの“更新”が実はそんなに嫌いじゃない。
また縁があれば、当時とはまた違った関係性が築かれていくのだろう。それはそれで面白いと思う。
でももしかしたらもう縁はなくて、二度と会わないかもしれない。そう考えると、お金が絡む人間関係の寂しさとそんなに変わらないんじゃないかなーと思えてくる。
それに、お金が絡む人間関係にも、「感情」がないわけではない。
「感情」を凌駕する「お金」でしっかり関係性が保たれつつ、「感情」もしっかりと存在している。
たとえばお金が絡む関係性で「恩」を感じることは多々ある。「恩があるからこの人のためには頑張りたい」といった話も聞く。鎌倉時代の「御恩と奉公」に似た関係性は、現代でも見られるのではないだろうか。
他にも、敬意、憧れ、好意等、お金が絡まない人間関係と同様に様々なプラスの感情が湧く(もちろん、マイナスの感情が湧くこともある)。お金で関係性をしっかり保ち、そんな中で芽生えた感情が今度は関係性を豊かにする。
部下が上司と仲良くなったり、客が店員と仲良くなったりするのは珍しい話ではない。私はそんな関係も、シンプルで強固で豊かな関係だと思う。
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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
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(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
名前: きゅうり(矢野 友理)
2015年に東京大学を卒業後、不動産系ベンチャー企業に勤める。バイセクシュアルで性別問わず人を好きになる。
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