「合コンであった有名大学の男子達が突然センター試験何点?って話で盛り上がり始めたんだけど何あれ?超キモイ」

 

様々な場所で姿形を変えて現れるこの手の話題だが、ではなぜ有名大学の生徒は懲りずにこれをやらかしてしまうのだろうか?

 

実はここに人間の認知に関する重大な知見がつまっている。

この問題の本質をつかむことができると、ある種の人間について深く理解できるようになるので、以下彼らの思想背景を含めて解説していく事にしよう。

 

進学校の生徒にとって、受験は価値観のモノサシである

社会とは所属する人間により構成される。

そして常識というのは、そこで共有される知識によって形作られる。

 

あなたも頭の中に”普通”とか”常識”のようなものがあるだろう。

普段は自分の常識を疑う機会はあまり無いだろうから「そもそも自分の常識って何なのだろう」と考える機会は乏しいかもしれないが、改めて振り返ってそれを突き詰めていくと実は結構面白い。

 

僕なりに常識というものを定義すると、それは「自分の所属空間における仲間内での”軋轢を生まない為に形成されたルール」だ。

海外旅行をすると特に肌感覚で感じやすいのだけど、日本には日本人の空気があるしインドにはインド人の空気がある。

 

同じ日本人でも所属する空間でその空気は随分と異なる。医療関係者の”常識”と金融機関勤務者の”常識”は随分と違う。

そしてそれは高校生にとっても同じことがいえる。

 

高校生にとっては学校こそが常識だ。ヤンキー高校ではヤンキー文化が常識になるし、スポーツ高校ではスポーツ文化が常識となる。

進学校はその仕組み上、どうしても文化の根底に受験が組み込まれる。

すると世間から隔絶されたかなり特殊な”常識”が生徒の間で形成される事になる。

 

進学校は中にいるとあまり特殊性を感じないのだけど、世間の常識から比較すると相当変わっている。

何がおかしいのかについて書いていくとキリがないのだけど、まず生徒のほぼ100%がそこそこのレベルの大学に進学する時点で相当おかしい。一般人の大学進学率が55%だという事を考えると、世間一般からすれば非常に偏った人間で構成されている事が実によくわかる。

 

彼らにとって受験とはくぐり抜けるべき”日常の一部”であり、それを通り抜ける過程で世間とは随分と隔絶された”常識”を身につける。

その常識の1つに、受験カルチャーがある。

 

受験産業は一種のスポーツ産業のようなものとして考えるとわかりやすい。高校で野球をしていた生徒が甲子園を目指して汗水たらして頑張るのと同様、進学校の生徒は有名大学を目指して汗水をたらす。

 

高校野球をしていた生徒は、野球に熱心に取り組めば取り組むほど高校野球業界について詳しくなっていく。

甲子園を目指すのなら、自分が進む学校をどこにするかがかなり重要な要素になるし、その後の事も考えれば業界に無関心でいようだなんてできるはずがない。

集団に属し、物事に熱心に取り組むのなら、こういう過程に絶対に組み込まれる。

 

同じことは当然受験にもいえる。実は受験にもかなり独特のカルチャーがあり、熱心に取り組めば取り組むほど、ある種の毒気のようなものにさらされる。

 

もちろん進学校の生徒も高校生らしく普通の会話もする。

誰それが好きだとか、漫画やらゲームやら、スポーツの話題もでるかもしれない。

けどそれらはいずれも個々人の趣味であり、全員が共通して認識する話題ではない。あくまでそれは、進学校内全体からみればマイノリティな話題の一種にすぎない。

 

けど”受験”は違う。受験は、学校にいる全員が取り組んでいる共通のゲームなのである。

彼・彼女らは一致団結して、この共通のゲームを乗り越える事に青春の1ページを費やす。彼・彼女らにとって受験なんて言うのは日常の一場面でしかない。だってそれは、”みんな”が通り抜ける道なのだから。

 

故に「出身大学どこ?センター試験何点だった?」なんていうのは、そんな日常風景を通り抜けた人間からすれば「今日の降水確率は30%だそうですよ?」程度の日常会話からの延長でしかない。

だからそれが世間からみると、いかに不可思議なことなのかがわからない。

 

だから何の悪気もなく普通に初めてあった相手に学歴やセンター試験の点数を聞いてしまうのである。だってそれは、それまで生きてきた日常では”常識の一部”だったのだから。

 

進学校の生徒も様々な大学生に囲まれて多様性の大切さを学ぶ事で謙虚になる

「自慢なんて仲間内でやれよ。門外漢にそんな自慢されても困るわ」といいたくなる人も多いだろう。

 

しかし進学校の生徒からすれば、受験の話題はみんなが知っているはずの”常識”であり、差し障りのない会話の一部なのだ。

だって所属していた社会が”進学校”だったのだから。

 

彼・彼女らは、かつて自分が所属していた空間以外の場所における常識がわからない。ある事は知っていても、それを肌感覚ではキチンと理解していない。日本人がインドの常識について、キチンと理解していないのと似たようなものだ。

 

だから何の恥ずかしげもなくセンター試験の点数を合コンで自慢してしまう。

それは日本人がインド人に向かって、唐突に徳川家康の偉大さを説くようなものだ。確かにそれは凄い事なのだけど、多くのインド人にとって徳川家康なんていきなり言われても「はぁ」以外のなにものでもないだろう。

 

繰り返すが、大学受験を”する”のが普通の文化で育ってきた人間からすれば、受験なんて言うのは日常の1ページであり、それについての話題なんて言うのは天気の話題と同じぐらい日常で行われる会話の一部でしかない。

けど世間の”常識”は進学校での”常識”とは随分違う。

 

そして彼らは勇んで出かけた合コンで、それまでの日常生活の共通言語である”受験”の話題をぶちかまし、そこで白い目を浴びることになる。

 

確かにセンター試験の点数は、それまでに所属していた環境下においては日常で普通に出しても何も問題のない会話だったかもしれない。だけどそれはかなり特殊な環境下における”常識”だ。

そんなオタクな会話には、ほとんどの人が興味がない。

 

けど進学校の生徒にはそれがわからない。だって彼・彼女の日常は、ほんのちょっと前までは”受験”でありふれていたのだから。

いきなり”日常”が変化しても、そんなすぐには適応できないのだ。仮にあなたが明日朝起きて、いきなりインドに住むインド人になってたら、果たして即座に適応できるだろうか?たぶん無理なんじゃないだろうか。そういう事だ。

 

だが人は適応する生き物だ。多くの進学校の生徒は、痛い思いを何度か繰り返した後に「どうやらゲームのルールが変わったらしい」という事を理解する。

中にはそこから飛び出したがらずに、いつまでたってもそのゲームの中に身を置きたがるような人間もいないわけではないけど、ほとんどの人は新しい日常を徐々に受け入れていく。

 

こうしてかつて手痛い思いをした多くの進学校の生徒は、初対面の相手にセンター試験の点数を聞かなくなる。

所属する社会の”常識”が変わり、社会には多様性という、様々な”常識”が存在する事を学べたのだ。

いやはや。適応って実に素晴らしい仕組みである。

 

受験という競争を通り抜けて得られるもの

ちなみにここまで書かれた事を読んで進学校は異常であり、受験が悪い事のように思った人もいるかもしれないが、実際のところはそう悪いものではない。

 

外から見えるイメージとは異なり、トップクラスの進学校は殺伐とした空気なんてほぼ皆無で、かなり和気あいあいとしている。

基本的には校則はほぼ無いに等しく、自主性が尊重される事もあって、かなり自由な個性が育つ場所でもある。

 

進学校で自由な個性?と聞くと不思議に思う人もいるかもしれないが、実際問題多くの進学校の生徒は受験勉強自体にはあまり存在意義を見出さない。

中に入ると自分より頭のよい奴が山ほどいる事が嫌でもわかってしまうので、受験勉強だけやってても自分が他者とは差別化ができず、何者にもなれないという事が肌感覚としてわかってしまうからだ。

 

その為、多くの人は割と早いうちに受験勉強以外にも輝ける場所を探すようになり、結果としてそれが個性としてうまい感じに現れることにも繋がったりもする。

自分が頭がいいと思っている若者が、こういう形で早急に鼻をへし折られるのは、その後のことを考えるとそう悪いものでもない。

 

まあ上記のように変なカルチャーがある程度染み込んでしまうのも事実ではあるが、多くの子供はその後社会の荒波に揉まれる事でそこからキチンと脱却しているし、トータルで考えればトントンってところじゃないだろうか。

 

もしあなたに子供が生まれたら、進学校に入れるのもいいかもしれない。

そこで思いもよらない、少し変わった面白い個性を身につけるかもしれないから。

 

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【プロフィール】

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高須賀

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(Photo:lioil)