インスタグラム人気も世の中を一巡したらしく、テレビのゴールデンタイムでも頻繁に名前を目にするようになりました。
写真好きが使っていたネットサービスが、ある時期から“オシャレな若者向けの”ネットサービスになり、テレビ地上波で頻繁に見かけるまでになった一連の流れは、流行のサービスの流転を観るようで、私などは、諸行無常の思いに駆られずにはいられません。
先日も、居酒屋で一杯やっていたら、近くの席の六十代とおぼしき女性二人が、インスタグラム談義に華を咲かせていました。
もっと私のインスタを見て欲しい、インスタ映えする写真を撮りたいetc……。六十代の女性がそういった会話をしているぐらいですから、これは、ひとつの社会現象と言って構わないでしょう。
さて、そんな猫も杓子もインスタな現状ですが、みんな、本当に写真が好きなんでしょうか?
二年前、私は『書かされている人々』というブログ記事を書いたことがあります。
みなさん、そんなに「書きたい」んですか?
そこまで頑張ってアウトプットして、友達や見ず知らずの人のリアクションを得たいのでしょうか?
いつでもどこでもフリック入力に熱をあげ、信じがたい数の人々が文章や動画のアウトプットに入れ込んでいるのを眺めていると、なにか、正気の沙汰ではないような気がするんですよ。
なにかを書きたくてたまらない人が存在するのはわかるし、10人に1人ぐらいいたって不思議じゃありませんよ?
でも今の世の中はそうじゃなくて、誰も彼もがPCやスマホを使って「書いて」いるんです。SNSやLINEに矢継ぎ早にポストしている人、ブログやfacebookによそ向けのテキストを綴っている人、どちらもありふれた存在です。
現代人はそういう風景に慣れっこになっているふしがあります。でも、ちょっと振り返ればわかるとおり、こんな風景ができあがったのはたかだか数年前なんですよ?。
私は、これと同じ感想を、現在のインスタグラム人気にも感じずにはいられません。
写真が好きな人がインスタグラムに自分の好きな写真をアップロードする、というのはよくわかる話です。
しかし、いまや、「インスタ映え」という、つまり承認欲求を充たすのに適した写真を撮って、そのようなインスタ映えした写真でアカウントを飾り立てて、ひとつのアカウントイメージを「編集」してつくりあげるという、00年代にはほとんどの人がやっていなかったことに大勢が熱をあげているわけです。
猫も杓子もインフルエンサー、ということなのでしょうか?
そうかもしれません。ブログやツイッターもそうでしたから。
文章をアウトプットしたい・アウトプットせずにはいられない人が目立ったのは始まりの時期だけで、サービスが栄えてくるにつれて、ブログやツイッターはアウトプットに付随した心理的報酬や経済的報酬、影響力の獲得を求める人々によって賑わっていきました。
書きたい人が書くサービスから、書くことによって得られる報酬のために書く・影響力を得るために書くサービスへの変化は、ネットビジネスを手がけていた人々からみれば、期待どおりの変化だったのかもしれません。
インスタグラムも、それと同じように、写真を撮る・写真が好き、というサービスから、インスタ映えする写真でアカウントを飾り立てて、自分自身のアカウントイメージを「編集」して、それによって得られる心理的報酬や経済的報酬、影響力の獲得のために頑張るサービスに変わっていっているのではないでしょうか。
もちろん、インスタグラムによって写真を撮ることの楽しさに目覚めた人もたくさんいるでしょう。それは素敵なことだと思います。
他方で、とにかくもインスタグラムはオシャレだから、素敵なアカウントをみんなこぞって作っているから、自分もインスタ映えする写真を集めて好感を得たい……と思って、みんなの欲望に追随するようなかたちで頑張っちゃっている人も、そろそろ増えてきているのではないでしょうか。
さきに挙げたブログ記事の結語に、私はこう書きました。
だからといって、私はネットサービスを利用するなと言いたいわけではありません。
便利なサービスが存在する以上、使うべき時には使えばいいと思います。
ただ、ネットサービスの背後には常に欲求をマニピュレートする意図が見え隠れしていて、ともすれば欲求を焚き付けられ、行動をハックされているかもしれない点は、折に触れて振り返ったほうが良いと思うのです。
もっと手短に言うと、「おのれの欲求の輪郭はちゃんと把握しろ」ということです。
オシャレな人がやっているから、インフルエンサーの写真に「いいね」がたくさん集まっていて素敵だから、あの人もあの人も使っているから……といった状況のなかで、どこまでが元々からの自分の欲求で、どこからが他人やサービスによって焚きつけられた欲求なのかを区別するのは、たぶん、難しいことだと思います。
そして少なからぬ人は、「楽しければどうでもいいじゃないか」と思うことでしょう。そうですね、楽しければいいのであれば、それまでかもしれません。
けれども、楽しいという気分のままに、流行の狂熱のままに、自分が本来欲しがってもいなかったもののために時間やお金やエネルギーを費やすというのは、どこか操り人形みたいで、どこかハーメルンの笛吹きに導かれていく子ども達のようで、怖いと感じたりはしませんか。
あるいは、他人に欲求をハックされても怖さも不快も感じることなく、サービス提供者の思いどおりに欲求を欲求する人が、流行という出来事の中心人物なのかもしれませんし、むしろ、他人に欲求をハックして欲しくてしようがない人達によって世の中の半分ぐらいは占められているのかもしれません。
ですが、自分自身の欲求の手綱は自分で握っていたい、自分の欲求と、他人によってハックされた欲求の区別はいちおう付けておきたいという人にとっては、「自分が本当に欲しいものは何なのか」を振り返って考えることはとても大切なのではないかと、私は思っています。
インスタグラムに限らず、流行するサービスに手を突っ込んでしまった時には、頭が少しボーっとして、なんだか気持ちが良くて、つい、周囲やサービス提供者の思惑どおりに欲しがってしまうのはわかるのですが、だからこそ、人気に呑まれてしまった時の自分自身と、人気をつくりあげるサービス提供者側とが、ちょっと怖いなぁと思う日もあるわけです。
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【プロフィール】
著者:熊代亨
精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。
通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)『認められたい』(ヴィレッジブックス)など。
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(Photo:Jens karlsson)