「れんきんじゅつってなに?」と長男に聞かれました。

どこで錬金術について聞いたのかはよく分かりません。テレビかも知れませんし、漫画かも知れませんし、長男が最近よく読んでいる児童書か、あるいは学校で話になったのかも知れません。鋼の錬金術師は多分まだ読んだことない筈ですが。

 

この質問に始まった長男との会話が、結構個人的に興味深いというか、えらく真剣に聞いてくれたなーと思ったので、備忘録も兼ねて書き残しておきたくなりました。

 

「ずーっと昔からある、金じゃないものを金にしようとする研究のことだよ。不老不死の薬作ろう、みたいなのもあったけど」

と私は答えました。長男は興味を持ったようでした。

 

以下、会話は記憶頼りですが、大体は原文のままの筈です。

「金にするって、あの金?すごく高い金?」

 

高いというのは多分値段のことです。

「そう。あの金」

「金じゃないものって?紙とか?ゴムとか?」

「んーー、色々だけど、まあ例えば鉛とか、水銀とか」

「すごい。出来たら大金持ちじゃん」

「そうだなあ」

「出来たの?」

「出来なかった」

「誰も出来なかったの?金は作れないの?」

「うーーんとね、今の科学だと、めっちゃ頑張れば理論的には金は作れる、ってことになってる。手間とお金かかり過ぎて普通に金買った方が安い筈だけど。けど昔からある錬金術では、誰も金は作れなかった。たまに出来るっていう人が出てきても、皆偽物だった」

「じゃあ錬金術は意味ないの?意味なかったの?」

 

この辺で、もしかすると、学問の意味とか重要性みたいなものを伝える為に、錬金術って結構いいテーマかもな、と思いました。

 

「いや、意味ないことないよ。錬金術から始まって、今の化学の元になったものが凄い色々ある」

「けど金は出来なかったんでしょ?」

「金は作れなかったけど、金を作ろうとする途中で、色んな別の発見があったんだよ。たとえば、そうだな、火薬わかるよな。火薬」

「わかるよ。爆弾のやつ」

「火薬の元になる硝酸っていうのがあるんだけど、あれがもともと、錬金術を研究していた人が、精製する方法を偶然見つけたりした。誰だったか忘れたけど、確か中国の人(後から調べたら、名前が分かっているのはアラビアのジャービル・イブン=ハイヤーンだったようです。訂正済)」

「たまたま見つけたってこと?」

「金を作るのに、色んな実験をするだろ。で、勿論数えきれないほど失敗するんだけど、その度に、何で失敗したのか、どうすれば成功するのか考えて、また別の実験をするんだよ。で、そういう実験の途中で、「あ、こういうのも出来るやん」とか、「これはこれで役立つやん」っていうのが見つかったりする。実験の副産物」

「うん」

「で、他の人の失敗を参考に、更に他の人が別の実験をしたりする。金は出来ないけど、色んな便利な合金とか、色んな新しい実験方法とか実験器具を発明したりする。金属の塊を溶かして、その中から一つの金属を取り出す技術とかね。そういうのが集まって集まって、今の化学になった」

「無駄じゃなかったんだ」

「失敗しても失敗しても、それをちゃんと記録に残して、検証して、間違っていたら間違いを認めて、更に別の方向に活かす、ってのが多分大事なんだよね。そういうきちんとした積み重ねがあれば、金を作るっていう目的は果たせなくても、ちゃんとした学問になったりするんだよ」

「そっかあ」

「まあ、そういう積み重ねが出来たのも、錬金術にお金出す人がたくさんいたからだけどね」

「お金?スポンサーってこと?」

「そ。本当に金が出来たら大儲けだからね、昔の王様とか貴族とかが、錬金術士にお金出して研究させたりしてた。それで生活して、じっくり研究出来た人たちも大勢いたみたい。他のことしながら錬金術の研究もしてた、って人も多かったみたいだけど」

「でも金が出来ないと怒られるんじゃないの?みんな、金は出来なかったんでしょ?」

「さあなあ。まあ金が出来なくても、なにかしら他の成果が出れば良しってされてたんじゃないのかなあ」

 

大体こんな感じの会話でした。まあ、記憶頼りで話したのでところどころいい加減なところもあるかも知れませんが、「興味を持ったことは聞いただけで鵜呑みにしないで繰り返し調べましょう」っていうのがしんざき家の教育方針なんで、多分大筋は問題ないと思います。

 

錬金術のエピソードで多分一番重要なのは、「実験と検証のきちんとした積み重ねがある限り、無駄な学問などというものはない」ということのモデルケースだと思うんです。このサイクルがある限りは、「失敗」は「無駄」ではない。次に生かす踏み台になる。

 

長男は、やはり小学生男子らしく、「実験」とか「研究」という言葉は大好きというか、なんか非常に怪しげなワクワク感を感じるようですので、そういう興味から学問の積み重ねの大事さを知ってくれれば良いなあ、と思った次第です。

 

一方、やはりお金が集まる分野は発展するというか、お金が集まらないと発展しないものも発展しないという現実はあるんで、パトロンの話も一応しておきました。中世くらいまでの錬金術にはパトロンついてましたよね?アウグスト1世とか。

 

ということで、長男とこういうお話をしたよーというだけの話でした。

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

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【プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

 

(Photo:Lau Svensson