ネットユーザーは誰でも、少しずつ付き合う相手を変えていき、それに伴って、ユーザー自身も変わっていく。
インターネットを長く眺めつづけると、そういう人間の変化をしばしば目撃する。
もともとは、趣味や動物についての雑談が大好きだった人が、数年ぐらいかけて、政治的な発言を繰り返すアカウントになってしまうのを、私は何度も見てきた。
彼らが選んだ政治的ポリシーは、いわゆる“ネトウヨ”的な場合のこともあれば、“リベラル”的な場合のこともある。どちらにせよ、昔は楽しいタイムラインの隣人だった人が、政治的な発言を繰り返し、対立する意見に鋭く詰め寄る人に変わってしまったのを目の当たりにすると、ああ、楽しかった頃のあの人はもうここにはいないんだなと、寂しく思わずにはいられなくなる。
彼らは少しずつ、相互フォローの輪の中に入っていった
彼らも、一夜にして別人になってしまったわけではない。
たとえば東日本大震災の頃、彼らはほんの少し、原発推進-反原発の話題をシェアやリツイートする程度だった。この時点では、まさか、政治的な発言を繰り返すアカウントになってしまうなどとは想像もつかなかった。
ところが時間が経つにつれて、少しずつ政治的な発言をシェアやリツイートする回数が増えていき、彼ら自身の政治的な意見を書き込むようになっていった。
はじめのうちは、保守かリベラルか、原発推進か反原発か……といった政治的なポジションも明確ではなく、中立的であろうと努めているそぶりだったのに、いつしか、特定のポリシーに傾いていった。
にも関わらず、当人はといえば、自分のポリシーが傾いていっていることへの自覚は乏しく、対立する意見への批判に心を奪われている様子だった。
どうして彼らはそうなってしまったのか?
もともと、そのような思想信条の持ち主だった、とも考えられなくもない。だが、仮にそうだとしても、自分の思想信条をそこまで開陳するように変化した理由までは説明できない。
眺めるに、彼らが誰の意見をシェア・リツイートしたのか、そして、誰をフォローし、その次に誰をフォローしていったのかが重要だったように思われる。
たとえばある人が、保守的な意見を穏当に述べているアカウントを一人見つけて、その人をフォローするようになったとする。
その時点では、その人は“ネトウヨ”でもなんでもない。保守的な意見の、穏当な主張に、ときどき耳を傾けているだけの人だ。
しかし、似たような意見を主張する、やはり保守的なアカウントを二人、三人とフォローし続けると話が変わってくる。
その人のタイムラインには、保守的な意見が並ぶ確率がかなり高くなる。
それらの保守的なアカウントもまた、シェアやリツイートを駆使するので、フォローしていない保守的なアカウントの意見までもがタイムラインに飛び込んでくるようになる。
新たに一人、また一人と近しい意見の持ち主をフォローしていくうちに、その人のタイムラインには保守的な意見がズラリと並ぶようになり、保守的ではない意見は、だんだん目立たなくなっていく。
そういった状態が長く続くと、自分では中立・中庸を心がけているつもりでも、そもそも視界に飛び込んでくるタイムライン自体が保守的な意見に大きく傾いているので、バランスをとるのはきわめて難しくなる。うかうかしていれば、たちまち“ネトウヨ”ができあがってしまうだろう。
ここでは“ネトウヨ”を挙げたが、同じ現象は“リベラル”の側でも起こり得る。他人を愚弄するような言葉遣いを平然と用いる“リベラル”をフォローしている人が、だんだん極端な物言いの“リベラル”に近づいていき、異なる意見に耳を貸さなくなっていった人が、この数年間に一体どれだけいただろうか。
インフルエンサーに気をつけろ!
こうした現況をみるに、SNSのたぐいを常用する際には、以下のことに気を付けなければならないと私は思う。
①誰かをフォローすること・誰かを視界に入れるということは、そのフォロー対象からの影響を受け入れることに等しい、と自覚しておくべきだ。
私達は、自分達が思っている以上に、目にするものから影響を受けやすい。
お気に入りの文章や写真をアップロードしているアカウントをフォローしているうちに、それに影響を受けて、昔よりも好みの偏りが大きくなってしまうことは非常にあり得ることだ。
一人のインフルエンサーをフォローして、そこから芋づる式に近しいアカウントをフォローし続けていけば、自分のタイムラインは、たちまち特定方向の嗜好に傾いてしまう。
また、自分のタイムラインに同じような嗜好を持った人がたくさんいるという感覚は、同じような嗜好を持つ人が世の中にはたくさんいるという錯覚まで、それほど遠くない。
結果、グルメが嵩じてしまったり、思想が偏ってしまったり、異性の選考基準が極端になってしまったり、いろいろな影響を受ける可能性がある。
②もうひとつは、現代社会において、誰かの思想を偏らせたり強烈な影響を与えようとしたりする間近な存在は、大量のフォロワーを持つ、いわゆるインフルエンサーであろうということだ。
昔は、誰かを洗脳するといえば、対面で対象をそそのかすようなものが主流だったし、もちろん今日でも気を付けなければならない。しかし、インターネット社会においては、SNSのインフルエンサーに耳を傾けているだけで、気付かないうちにどんどん洗脳されている……なんてことも起こり得るようになった。
現に、思想信条系のものであれ、何かを売買するものであれ、インフルエンサーと呼ばれる水準の有名アカウントのなかには、たくさんのフォロワーに影響を与えて、フォロワーがフォロワーを呼ぶような繋がりのなかで“信者”獲得につとめている者もいる。
すべてのインフルエンサーが、“信者”獲得のために狙ってフォロワーを洗脳していると私は主張したいわけではない。
しかし、たとえ洗脳してやろうなどと企んでいなくとも、インフルエンサーのフォロワーが、どんどん勝手に洗脳されて、勝手に“信者”になってしまっていることはあり得るだろうし、そのような“信者”に囲われているうちに、インフルエンサーの側が思慮分別を失って堕落してしまうこともあり得るだろう。
怪しいインフルエンサーは、怪しいアプリと同じぐらい危ない
私達は、興味を持ったアカウントや、いいなと思ったアカウントをフォローすることに、あまりにも慣れてしまっている。
だが、誰かをフォローすれば、フォローした相手から影響を受けやすくなることは不可避である。ということは、あまりにも魅力的なアカウント、あまりにも影響力の強いアカウントのたぐいには十分な注意が必要ではないだろうか。
怪しげなアプリをインストールする際には十分に注意深くなるのと同じように、怪しげなインフルエンサーをフォローする際には、慎重に構えておくべきなのだろう。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】 ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。
(2025/6/2更新)
こんな方におすすめ
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<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ——
「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。
【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
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2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
【プロフィール】
著者:熊代亨
精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。
通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)『認められたい』(ヴィレッジブックス)など。
twitter:@twit_shirokuma ブログ:『シロクマの屑籠』
(Photo:Free Images)