書店にある本は成功談が多い。

「こうしたら一億円儲かった」や「起業で成功する方法」といった自己啓発本が、棚の大部分を占めているのを思い浮かべてもらえば理解頂けるだろう。

しかし我々が本当に学ぶべき事は失敗談にある。

「こうしたら成功した」は再現性が非常に低いが、「こうしたら失敗した」は大体において何らの共通のルールがある。失敗にこそ宝の山が埋まっている。

 

実は数は少ないながらも失敗談はいくつか刊行されている。今回は良質な失敗談を三冊ほど読みどころと共に紹介していく事にしよう。

 

1.国家の罠

筆者の佐藤優さんは外務省ロシア科・主任分析官という外務省の中でもとびきりの出世コースを歩んでいた方だ。

そのままいけば何らかの偉業を成し遂げ国のヒーローとなった可能性すらあったのだけど、国家による策略が働いた事により検察に逮捕され、英雄から一気に犯罪者となってしまった。

この本にはその顛末が書かれている。

 

昨日まで英雄だった人が、ある日から突然犯罪者にされてしまうのだから人生は本当にわからない。

本書で極めて象徴的なのが国策捜査という単語だ。本書によると、国は逮捕基準をいかようにでもいじくり、罪状なんて簡単に作りあげる事ができるのだという。

 

例えばあなただって、信号無視を一度や二度くらいはした事があるだろう。このように私達は普通に生きているだけで、ある程度は法律を破っている。

普通は信号無視なんてしても捕まらないけど、あなたがある日から国から目をつけられたら、その法律違反を理由に逮捕されてしまう可能性がある。

 

いままで低い位置にあった逮捕基準を、ぐんと上にあげてしまえば国は誰でも犯罪者として逮捕する事ができる。あなたがどんなに清廉潔白で優秀な人間であれ、国という暴力機関が本気になれば監獄にぶち込めるのだ。

 

こんな恐ろしい事を国ができるだなんて僕はこの本を読むまで全く知らなかった。

けどそういう視点でものを眺めてみると、私達は様々な国家でそれに近いことが横行していたのをみつける事ができる。いやはや、平和な時代に生まれて本当によかった。

 

作中で登場する検察官・西村さんは、国策調査について以下のように述べている。

「国策捜査は『時代のけじめ』をつけるために必要なんです。時代を転換するために、何か象徴的な事件を作りだして、それを断罪するのです」

人はどんなに自由に生きているつもりでも、歴史という大いなる流れには逆らえない。本書「国家の罠」は国という暴力機関に、個人が翻弄されるという貴重な体験を追従できる、稀有の本だ。文章も読みやすいし、オススメである。

 

2.私はこうして受付からCEOになった

邦題をみると成功談?と思ってしまうけど、実際は完璧な敗戦記だ。原タイトルは「Tough choice」であり、どちらかというとこっちの方が本書を表すのには適切だと思う。

 

本書は著者であるカーリー・フィオリーナさんが役員議会の決議により、ヒューレット・パッカード社のCEOから解任される場面から始まる。

冒頭からいきなりクビにされる場面を提示している本なんて、僕はこれ以外には見たことがない。

 

その後はカーリーさんの幼少期から今に至るまでの人生の流れが自伝という形をとって紹介されている。そこでは企業という男性社会において、女性という異邦人が出世していくのにどのような苦労を乗り越えてゆかねばならないのかが書かれており読んでいて非常に学びが多い。

 

本書を読んで僕が学んだ事は「郷に入れば郷に従え」という事の重要性だ。

現在ではさして珍しくない女性のバリキャリという生き方だけど、この本が書かれた当時は非常に稀有な事例であったようで、本書にはカーリーさんの男性社会に入り込む為の気苦労がそこかしこに書かれている。

 

女性が男性社会に入り込むコツを一言で言うと、とにかく相手の文化に適合する事が肝心なのだという。

いったん、自分の事を「私はあなたの仲間です」と認識させる事に成功さえすれば、異邦人でもキチンと同等に扱ってもらえるというのだ。

 

僕はこの本以上に「郷に入れば郷に従え」の精神をわかりやすく説明している本をいまだに見たことがない。

「なんでわざわざ相手に迎合しなくちゃいけないんだ、そんなのこっちからごめんだ」と思う人もいるかもしれないけど、組織にキチンと適合するという事は誰にとっても非常に大切な事だ。

 

人は残念ながら1人では生きてはいけないし、1人では大きな事を成し遂げる事はできない。

あなたがどんなに優秀であっても、組織に所属する事無く偉業を成し遂げる事はほぼ不可能だといっていい。大義を成し遂げるにあたって、人は組織を利用しなくてはいけないのだ。本書でそのヒントを学んでいただければ幸いだ。

 

まあ、結局失敗で終わっていることからもわかる通り、カーリー・フィオリーナさんは最終的には組織に迎合しきれていなかったのだけど。果たしてどの段階で失敗してしまったのかを読み解くのも、本書を読むにあたっての興味深いポイントだといえるだろう。

 

3.都知事失格

最後はタイムリーな本を紹介しよう。前都知事・舛添要一さんの敗戦記だ。

連日行われていた彼への大バッシングを知らない人はいないだろう。あの時、国民は冷静さを欠き、完全に熱狂の渦に巻き込まれていた。

あの時、舛添さんが何をどうやっても都知事を辞任する事は避けられなかっただろうけど、じゃあ実際問題何が悪かったのかについてキチンと指摘できる人はほとんどいないだろう。

 

本書を読み解くと、舛添さんが都知事として非常に熱心に仕事に取り組んでいた事がわかる。そんな舛添さんが、マスコミの手にかかると一気に完全な悪人として描かれてしまうのだから、マスメディアの力というのは本当に恐ろしいものだ。

私達は良くも悪くも情報を元に物事の両悪を判断する。マスメディアはその情報源としての大切な役割を担っているのだけど、時に私達を偏向した意見へと持っていってしまう。

 

この本を一言で言うと、わたし達・日本国民の失敗談だといえよう。あのときマスメディアに踊らされず、冷製な判断ができなかった事のツケがいつかきっと私達にふりかかる。

同じ過ちを二度と繰り返さないためにも、衆議院選挙が始まる前に是非とも読んで欲しい一冊だ。

 

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オススメ本は以上だ。どれもこれも、非常に学びに満ちた本である。読書の秋に、ぜひともあなたの本棚に加えて欲しい。

失敗から学べる事は本当に多い。恥を忍んで書かれたこれらの本を、読まないだなんてあまりにももったいない。一冊でも手に取っていただければ、幸いだ。

 

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高須賀

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(Photo:The Explorographer™)