武田砂鉄さんの『紋切型社会』に次の文章がある。

ネットのトレンド検索ワードには、時折「安部首相」「柴崎コウ」「森山直太郎」といった誤字がそのまま拡散されてエントリーしてくる。

このしばらくの間、安倍晋三は大量に安部晋三として褒められ罵られ、柴咲コウはみんなに柴崎コウとして美貌を称えられ妬まれ、森山良子の息子は一旦森山直太朗ではなくなる。

誤字がそのまま拡散されるインターネット。

 

漢字だけではない。言葉の使い方も正しくないことはある。しかし意味は通じる。

みんな心の中で「あ、間違えている。正しくはこうなのに」と思う。それでも間違っているとは指摘しない。

この程度のことでわざわざ指摘するのは面倒だし、恥をかかせたくないという気持ちもブレーキの役割を果たす。こうして“ちょっとした誤り”は指摘されないまま、繰り返されていく。

 

ではその“ちょっとした誤り”は問題なのか。

間違った言葉を聞いて(あるいは間違った字を見て)、正しい言葉が頭に浮かぶということは、正しい言葉を聞いたのと結果的には同じだ。

ただ、ストレートに正しい言葉を言われたときと違うのは、心の中がモヤっとするかどうかだ。

間違いを見つけたとき、人は「正しいものは何か」と改めて考える。

 

 

これに似た構造は、他にもある。

 

たとえば、世の中にある様々なストーリー。

完璧なストーリー、わかりやすく筋が通ったストーリーも楽しいけれど、余白のある、多様な解釈が生まれるストーリーに妙に惹かれてしまうのは、そこに「自分が考えた何か」を加えることができるからだろう。

考えるきっかけは、完璧なものからは生じにくい。不完全な物語への違和感が、イマジネーションを刺激する。

 

先日『誰も語らなかったジブリを語ろう』という本を読んだ。

押井守監督がスタジオジブリの作品について語っている本だ。この本はジブリを絶賛する内容にはなっていない。押井監督が独自の視点でジブリ作品の抱える矛盾や破綻にツッコミを入れ、批判している。

 

この本を読むと、「ジブリ作品にはこんな“欠陥”があったのか」と気づかされる。

私はジブリファンではなく、おそらく標準的な観客の1人だと思うのだが、本を読んでこれまで以上にジブリに魅力を感じ、「また観たい!」と思ってしまった。

そう思うと、“欠陥”もまた、ジブリの魅力のひとつなのかもしれない。ツッコミ所があるということ自体が、ジブリを一層楽しいものにする。

 

あるいはなんでもそつなくこなす部下より、手間がかかる部下の方がかわいく思えてしまう上司の心理にも、通じるものがあるのかもしれない。

「ダメなやつほどかわいい」のは、守ってあげたくなる、応援したくなるといった心理もあるのだろう。

けれどそれ以上に、ダメだからこそ部下としっかりと向き合う時間がある、というのが大きいのではないか。

しっかりと向き合うその姿勢から生まれる感情も、きっと存在していると思うのだ。

 

完璧主義な人でなくとも、人間は正しさを求めている。

正しさしか存在しない世界はきっと息苦しい。そう思っていてもなお、私たちは正しさを求めることをやめないだろう。

 

しかし正しさを求める過程には“誤り”が必ずある。誤りによりまた別の正しさが生まれるのならば、失敗は成功のもと、と言うけれど、「誤りは正しさのもと」と言えるのではないだろうか。

 

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第6回 地方創生×事業再生

再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【今回のトーク概要】
  • 0. オープニング(5分)
    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)

 

 

【著者プロフィール】

名前: きゅうり(矢野 友理)

2015年に東京大学を卒業後、不動産系ベンチャー企業に勤める。バイセクシュアルで性別問わず人を好きになる。

【著書】

「[STUDY HACKER]数学嫌いの東大生が実践していた「読むだけ数学勉強法」」(マイナビ、2015)

LGBTBです」(総合科学出版、2017710発売)

Twitter: 2uZlXCwI24 @Xkyuuri  ブログ:「微男微女

 

(Photo:Chris & Karen Highland