武田砂鉄さんの『紋切型社会』に次の文章がある。

ネットのトレンド検索ワードには、時折「安部首相」「柴崎コウ」「森山直太郎」といった誤字がそのまま拡散されてエントリーしてくる。

このしばらくの間、安倍晋三は大量に安部晋三として褒められ罵られ、柴咲コウはみんなに柴崎コウとして美貌を称えられ妬まれ、森山良子の息子は一旦森山直太朗ではなくなる。

紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす

紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす

  • 武田 砂鉄
  • 朝日出版社
  • 価格¥1,100(2025/04/01 14:18時点)
  • 発売日2015/04/25
  • 商品ランキング428,702位

誤字がそのまま拡散されるインターネット。

 

漢字だけではない。言葉の使い方も正しくないことはある。しかし意味は通じる。

みんな心の中で「あ、間違えている。正しくはこうなのに」と思う。それでも間違っているとは指摘しない。

この程度のことでわざわざ指摘するのは面倒だし、恥をかかせたくないという気持ちもブレーキの役割を果たす。こうして“ちょっとした誤り”は指摘されないまま、繰り返されていく。

 

ではその“ちょっとした誤り”は問題なのか。

間違った言葉を聞いて(あるいは間違った字を見て)、正しい言葉が頭に浮かぶということは、正しい言葉を聞いたのと結果的には同じだ。

ただ、ストレートに正しい言葉を言われたときと違うのは、心の中がモヤっとするかどうかだ。

間違いを見つけたとき、人は「正しいものは何か」と改めて考える。

 

 

これに似た構造は、他にもある。

 

たとえば、世の中にある様々なストーリー。

完璧なストーリー、わかりやすく筋が通ったストーリーも楽しいけれど、余白のある、多様な解釈が生まれるストーリーに妙に惹かれてしまうのは、そこに「自分が考えた何か」を加えることができるからだろう。

考えるきっかけは、完璧なものからは生じにくい。不完全な物語への違和感が、イマジネーションを刺激する。

 

先日『誰も語らなかったジブリを語ろう』という本を読んだ。

押井守監督がスタジオジブリの作品について語っている本だ。この本はジブリを絶賛する内容にはなっていない。押井監督が独自の視点でジブリ作品の抱える矛盾や破綻にツッコミを入れ、批判している。

誰も語らなかったジブリを語ろう (TOKYO NEWS BOOKS)

誰も語らなかったジブリを語ろう (TOKYO NEWS BOOKS)

  • 押井守
  • 東京ニュース通信社
  • 価格¥2,722(2025/04/01 14:18時点)
  • 発売日2017/10/20
  • 商品ランキング424,875位

 

この本を読むと、「ジブリ作品にはこんな“欠陥”があったのか」と気づかされる。

私はジブリファンではなく、おそらく標準的な観客の1人だと思うのだが、本を読んでこれまで以上にジブリに魅力を感じ、「また観たい!」と思ってしまった。

そう思うと、“欠陥”もまた、ジブリの魅力のひとつなのかもしれない。ツッコミ所があるということ自体が、ジブリを一層楽しいものにする。

 

あるいはなんでもそつなくこなす部下より、手間がかかる部下の方がかわいく思えてしまう上司の心理にも、通じるものがあるのかもしれない。

「ダメなやつほどかわいい」のは、守ってあげたくなる、応援したくなるといった心理もあるのだろう。

けれどそれ以上に、ダメだからこそ部下としっかりと向き合う時間がある、というのが大きいのではないか。

しっかりと向き合うその姿勢から生まれる感情も、きっと存在していると思うのだ。

 

完璧主義な人でなくとも、人間は正しさを求めている。

正しさしか存在しない世界はきっと息苦しい。そう思っていてもなお、私たちは正しさを求めることをやめないだろう。

 

しかし正しさを求める過程には“誤り”が必ずある。誤りによりまた別の正しさが生まれるのならば、失敗は成功のもと、と言うけれど、「誤りは正しさのもと」と言えるのではないだろうか。

 

 

【お知らせ】
生成AIを活用したビジネス文書作成の最前線を学べるウェビナー開催!



トップコピーライター直伝!「使えるビジネス文書」を出力するプロンプト講座
・生産性を爆上げするプロンプティングの技術
・ビジネス文書の多様な活用例(コピーライティング・記事・提案書など)
・ビジネス文書AIライティングツール「AUTOMAGIC」の活用事例とデモ

<2025年4月4日実施予定>

トップコピーライターが教える!生成AIで「使える」ビジネス文書を作る技術

生成AIは単なる補助ツールではなく、適切な指示(プロンプティング)次第で生産性を大幅に向上させる強力なツールとなります。
本セミナーでは、コピーライターとして数々のヒットコピーを生み出した梅田悟司が、プロンプト作成の基礎と実践例を解説します。

【内容】
1. 生産性を爆上げするプロンプティングの技術
2. ビジネス文書の多様な活用例(コピーライティング・記事制作・提案書・メールなど)
3. ビジネス文書AIライティングツール「AUTOMAGIC」の活用事例と操作デモンストレーション
4. まとめ & Q&A

【登壇者】
梅田悟司
コピーライター / ワークワンダース株式会社 取締役CPO(Chief Prompt Officer)
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 教授
代表作:ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」ほか
著書『「言葉にできる」は武器になる。』(シリーズ累計35万部)


日時:
2025/4/4(金) 14:00-15:00

参加費:無料  
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


お申込み・詳細 こちらウェビナーお申込みページをご覧ください

(2025/3/18更新)

 

 

【著者プロフィール】

名前: きゅうり(矢野 友理)

2015年に東京大学を卒業後、不動産系ベンチャー企業に勤める。バイセクシュアルで性別問わず人を好きになる。

【著書】

「[STUDY HACKER]数学嫌いの東大生が実践していた「読むだけ数学勉強法」」(マイナビ、2015)

[STUDY HACKER]数学嫌いの東大生が実践していた「読むだけ数学勉強法」

[STUDY HACKER]数学嫌いの東大生が実践していた「読むだけ数学勉強法」

  • 矢野 友理,STUDY HACKER(協力)
  • マイナビ出版
  • 価格¥385(2025/03/31 16:10時点)
  • 発売日2015/02/27
  • 商品ランキング223,212位

LGBTBです」(総合科学出版、2017710発売)

LGBTのBです

LGBTのBです

  • きゅうり
  • 総合科学出版
  • 価格¥1,320(2025/04/01 02:52時点)
  • 発売日2017/07/10
  • 商品ランキング763,160位

Twitter: 2uZlXCwI24 @Xkyuuri  ブログ:「微男微女

 

(Photo:Chris & Karen Highland