NHKはいつも良い番組を作る。
もちろん取り上げられた事例はほんの一部であり、とても一般化できるものではないが、それでも小説や映画の中にしか無かったような世界が既にアメリカにできていることは驚きだ。
この番組で取り上げたのは、「金持ちが貧しい人々を捨てて、自分達だけの国を作ってしまったらどうなるか?」という事例だ。
”100万ドル以上の資産を持つアメリカの富裕層。
その富裕層が今、自治体の在り方を変えようとしています。
貧富の格差による社会の分断が進むアメリカ。
富裕層は税金が貧困層のためばかりに使われていると反発。
みずからが住む地区を周囲と切り離し、新たな自治体を作る動きを強めています。”
富裕層の設立した自治体の代表はこう述べている。
”サンディ・スプリングス市 ラスティ・ポール市長
「自治体は税金を当たり前だと思わないことです。
税金に見合うサービスを提供しなければ、市民はすぐ不満をため、税金を払わなくなります。
公共サービスの質を高めて、市民に税金を払う動機を与え続けるのです。」”
当然金持ちのいなくなった自治体は財政難に陥り、「警察がいない」など、十分な公共サービスが受けられなくなる。それは、貧しい人々達の生活の質をより一層落とす。
さて、このまま自治体の分離が進めばどうなるか。想像してみる。
1.貧困層地区の治安悪化
2.貧困層地区と、富裕層地区の境界で犯罪率の上昇
3.富裕層地区自治地帯はゲーテッド・コミュニティを構築。防衛費の増加
4.防衛費の負担に耐え切れない一部の富裕層が、貧困層に転落。富裕層地区の要塞化・武装化が進む
5.富裕層地区住人のロビイ活動により、貧困層地区の住人が富裕層地区に立ち入ることができなくなる法案が可決。(≒上海などの中国の経済特区)
6.事実上の身分制度の誕生(特区内住人と、特区外住人)
7.民主主義の後退
民主主義の後退まで行くと少しいい過ぎと感じるかもしれないが、私は決してオーバーではないと思う。
富裕層地区の住人はいわば、「民主主義を拒否した人々」だ。
彼らは普通選挙が誕生する以前の状態に戻りたい、と願っている。「税金を沢山払った人が、税金の使い途を決めることができる」と主張しているわけであるから。
人類は普通選挙の獲得までに長い苦労を重ねてきた。
| 1889年 (明治22) |
1890年 (明治23) |
45万人 (1.1%) |
直接国税15円以上納める25歳以上の男子 |
| 1900年 (明治33) |
1902年 (明治35) |
98万人 (2.2%) |
直接国税10円以上納める25歳以上の男子 |
| 1919年 (大正8) |
1920年 (大正9) |
307万人 (5.5%) |
直接国税3円以上納める25歳以上の男子 |
| 1925年 (大正14) |
1928年 (昭和3) |
1241万人 (20.0%) |
25歳以上の男子(戦前の普通選挙) |
| 1945年 (昭和20) |
1946年 (昭和21) |
3688万人 (48.7%) |
20歳以上の男女(戦後の普通選挙) |
出典:静岡県総合教育センター
普通選挙制が採用されてきた理由は、安定した社会を作るためには、「税をたくさん払う人」が「税の使い途」を決めてはいけない、という智慧が歴史から得られたからだ。古代ローマでも、絶対王政のフランスでも、内乱の火種は税金の使い途、ということは多い。
富裕層が自分たちを塀で囲えばかこうほど社会が不安定になり、結局は自分たちの子孫が困るということに気づいていないのであろうか。それとも気づいていても、気づいていないふりをしているのだろうか。
(2026/6/2更新)
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