これも、昔の先輩に教えてもらった話。よく憶えている。

 

その日は、ある大手企業のコンサルティングに行った後、近くの喫茶店で振り返りのミーティングをしていた。

先輩は、私に問いかけた。

「今日のメンバーの中で、一番優秀だと思ったのは誰だ?」

「リーダーのYさん…ですかね。彼の意見は非常に的確で、他の方と視点が違っていると感じます。」

「当たり。」

「ありがとうございます。」

だが、先輩の次の質問は、想定していなかった。

 

「じゃ、もう一つ聞くけど、一番給料が高いのは誰だと思う?」

「給料……?」

「そう、給料。」

「……一番優秀な人だと思いますから、リーダーのYさんですか?」

「本当にそう思う?」

 

私はあの部屋にいた人物を思い浮かべた。

リーダーのYさん、その脇に「メンバー」として年配の方が一人、Yさんと同年代の方が3名、若手が2名いた。彼らの発言を思いだす。

若手の一人はなかなか良い議論をしていた。年配の方は外していたな。ほとんど価値ある意見を言わなかった。Yさんの同僚っぽい人物の一人は、協力的だったが、尖ってはいなかった……。

そして、私は、先輩の意図に気づいた。

 

「ひょっとして、あの年配の方ですか?」

「おお、当たり。」

「オレはね、今日あの人ばかり見てたんだ。」

「なぜですか?」

 

先輩は一言、

「同情したから。」

と言った。

 

「……同情とは、考えようによっては酷いじゃないんですか。」

「まあ、そうなんだけど。考えてみなよ。彼はどう考えても仕事ができる方じゃない。明らかに若手のほうが仕事ができているんだよ。なぜ、そんなことになったのか、想像がつくかい?」

「……年功序列だからですか。」

「そう。残酷だよね。」

 

残酷、確かにそう見える。

「あの人、かなりYさんからバカにされていたでしょ。発言をしようとすると、身内からすぐに否定されて。」

「そうでしたね。」

 

私は会議のシーンを思い出した。彼が半ばお荷物扱いだったのは事実だ。

「リーダーのYさんはきっとこう思っているよ。高い給料をもらっているくせに、役に立たないオヤジ。何でここにいるのか。」

「……そうかもしれません。」

「な、残酷だろ。しかもそう思っていのはYさんだけじゃない。若手も薄々気づいてる。「あの人はダメな人だから」って。」

「……。同情します。」

 

先輩は真顔になる。

「さて、安達さん、ここで問題です。あの人に我々はどう接するべきでしょう?」

「え……、普通に接するしかないんじゃないでしょうか。」

しかし先輩は、首を横に振った。

「ダメだな。50点。」

 

私は全否定され、少しムッとしていた。

「……先輩ならどうするんですか」

「当たり前じゃないか。敬意を持って接するんだよ。」

「なぜですか?」

「いいか、Yさんは今でこそあんな感じだけど、昔は違ったかもしれない。そして、誰だってそうなる可能性はある。」

「……」

「彼の話をきちんと別に聞くべきだ。会社の歴史を知っているだろうし、人間関係にも詳しいだろう。後で個別にアポを取っておけよ。」

「わかりました。」

 

先輩はニッコリ笑っていった。

「仕事で、年配の人に敬意を払うのはとても大事だ。」

「はい。」

「後もう一つ、年配になってから、若手にバカにされる人生を送りたくなければ、気をつけるべきことがある。」

「なんでしょう?」

「実力に見合わない給料をもらうのはやめておけ。」

「……どういうことでしょう?」

「ウチは給料は、悪くはない。」

「はい。」

「それを勘違いするなよ。お前の実力じゃないぞ。たまたま運が良かったんだ。」

 

私は心を見透かされたと感じた。

「申し訳ありません……。」

「あやまらなくていい。ただし、このまま行くと、あの年配の人みたいになるよ。」

「なぜですか。」

「少しは考えろ。実力以上にもらうと、守りに入ってチャレンジしなくなるだろう。給料が下がるから転職もできない。時間が経つほど実力と給料の乖離は大きくなるばかり。で、20年、30年経つうちに、自分の実力を客観的に見る機会を失っていくのさ。」

 

先輩は最後こう言った。

「オマエが今受け取っている給与は、実力以上のものだ。だから、見合うような人間に努力してなれよ。」

 

 

【お知らせ】
「記憶に残る企業」になるには?“第一想起”を勝ち取るBtoBマーケ戦略を徹底解説!
BtoBにおいて、真に強いリストとは何か?情報資産の本質とは?
Books&Appsの立ち上げ・運用を通じて“記憶されるコンテンツ戦略”を築いてきたティネクトが、
自社のリアルな事例と戦略を3人のキーマン登壇で語ります。



お申し込みはこちら


こんな方におすすめ
・“記憶に残る”リスト運用や情報発信を実現したいマーケティング担当者
・リスト施策の限界を感じている事業責任者・営業マネージャー
・コンテンツ設計やナーチャリングに課題感を持っている方

<2025年5月21日実施予定>

DXも定着、生成AIも使える現在でもなぜBtoBリードの獲得は依然として難しいのか?

第一想起”される企業になるためのBtoBリスト戦略

【内容】
第1部:「なぜ“良質なリスト”が必要なのか?」
登壇:倉増京平(ティネクト取締役 マーケティングディレクター)
・「第一想起」の重要性と記憶メカニズム
・リストの“量”と“質”がもたらす3つの誤解
・感情の記憶を蓄積するリスト設計
・情報資産としてのリストの定義と価値

第2部:「“第一想起”を実現するコンテンツと接点設計」
登壇:安達裕哉(Books&Apps編集長)
・Books&Apps立ち上げと読者獲得ストーリー
・SNS・ダイレクト重視のリスト形成手法
・記憶に残る記事の3条件(実体験/共感/独自視点)
・ナーチャリングと問い合わせの“見えない線”の可視化

第3部:「リストを“資産”として運用する日常業務」
登壇:楢原 一雅(リスト運用責任者)
・ティネクトにおけるリストの定義と分類
・配信頻度・中身の決め方と反応重視の運用スタイル
・「記憶に残る情報」を継続提供する工夫

【このセミナーだからこそ学べる5つのポイント】
・“第一想起”の仕組みと戦略が明確になる
・リスト運用の「本質」が言語化される
・リアルな成功事例に基づいた講義
・“思い出されない理由”に気づけるコンテンツ設計法
・施策を“仕組み”として回す具体的なヒントが得られる


日時:
2025/5/21(水) 16:00-17:30

参加費:無料  定員:200名
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


お申込み・詳細
こちらウェビナーお申込みページをご覧ください

(2025/5/12更新)

 

 

・筆者Twitterアカウント▶安達裕哉人の能力について興味があります。企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働者と格差について発信。

安達裕哉Facebookアカウント (安達の最新記事をフォローできます)

・最新記事をチェックできるBooks&Appsフェイスブックページ

・ブログが本になりました。

n.e.d.