突然だが、6月4日から昨日まで中国の深センに行っていた。

この記事を書いた知人が「今度は深センに行く」というので、同行させていただいたのだ。

深センは香港のすぐ北にある都市だ。緯度としてはベトナムのハノイ、バングラデシュ、インドのムンバイなどとさほど変わらず、日本からはかなり南に位置している。

空港はあるが、今回は香港まで飛び、その後陸路で深センに渡った。

 

香港で1回、さらに深センに入るときに1回入国審査があり、飛行機に乗っている時間は4時間程度だが、深センの市内にたどり着くまでは、羽田から7、8時間はかかる。

街は「東南アジア」といった風情で、非常に蒸し暑く、お世辞にも快適とは言えない。

また、もしかしたら「深セン」といえば、日本の製造業の工場がある場所、というイメージをもつ方もいるかも知れない。

 

だがそれは20年前の話だ。現代の深センは全くそれとは異なる。

現代の深センは人口約1300万人、北京、上海に次ぐ、中国第三位の巨大都市である。

また特筆すべきは、一つは金融、そしてもう一つはハイテクの分野において、中国国内の卓越した才能を持つ人々が集まる都市だということだ。

実は、深センは、数多くのテクノロジースタートアップが集積していることでも知られている。現代の深センは「製造業の下請け生産拠点」ではない。むしろ「シリコンバレー」に近い都市なのである。

そして、今回深センを訪問した理由は、そこにある。

 

メーカーの「下請都市」を脱却し、なぜこれほどまでの知識が集約する都市になったのか。

そしてなにより、「日本が中国に完敗した」といった言説の裏を取りたかったのである。

日本が中国に完敗した今、26歳の私が全てのオッサンに言いたいこと

超巨大IT企業、テンセントのお膝元である深セン市――日本でいえばトヨタのお膝元としての愛知県のようなイメージだろう――に香港から入ったとき、もちろん想像していたような共産主義的な雰囲気もあったのだが、中心部に近づくにつれて、その印象はどんどん薄れていった。

負けたのだ、日本が。少なくとも経済的には。

本当に日本は負けたのか?

人から聞いた話では納得できない。だから、自分の目で深センを見てみたかった。

 

 

日本が中国に完敗した、という話によく登場するのが、「世界の企業の時価総額ランキング」だ。

世界時価総額ランキング

これを見ると「日本が完敗した」と言われる理由がよく分かる。

 

ランキングを見てみると、上位は、おなじみの顔ぶれが並ぶ。

1位アップル、2位アマゾン、3位マイクロソフト、4位アルファベット(グーグル)、5位フェイスブック、6位バークシャー・ハサウェイ

そして、7位は中国企業のテンセント、8位も中国企業のアリババなのだ。

ちなみに、日本企業は35位のトヨタ自動車が最上位だ。完敗、と言われても仕方がない。

 

そして、この7位の「テンセント」という企業の本社が存在しているのが、ここ、深センだ。

日本人にはあまり馴染みがないかもしれないが、テンセントという企業は、ほぼ中国人のインターネット利用を牛耳っている、究極の企業である。

なぜ究極なのか。それは、テンセントの「WeChat」というアプリが中国人の生活の隅々にまで入り込んでいることにある。

 

「WeChat」を一言で表すのは難しい。

あえて言うとすれば「オールインワン」と言うべきか。

LINEのようなメッセージングアプリに、FacebookやTwitterのニュースフィード、フレンド機能、AmazonのようなEC機能、そしてVisaのような決済機能を併せ持つアプリである。

要するに、インターネット上でできることは、ほぼ全て「WeChat」は実装している。

だから、中国人がネットを利用するときの入り口は、ほぼ全て「WeChat」になる。日本人は目的によってGoogleやFacebookやLINE、Twitter、Amazonなどを使い分けているが、中国人はこれ一つで済む。

 

そして、この「WeChat」の中で特に強力な機能が、「WeChatPay」と呼ばれる決済機能だ。この機能があまりにも優れているため、ここ数年で中国人は現金を使わなくなった。

「中国ではキャッシュレス化が進んでおり、現金が使えない」

とたびたびマスコミが報道するが、これは全くオーバーな表現ではない。

 

町中には個人商店や小さな屋台が立ち並んでいるが、ここでは「現金」のやり取りがほとんど無い。

皆、電子決済を使うのである。

例えば下の写真の中央に、QRコードの印刷された汚い紙があるが、この紙をスマホでスキャンすると、支払いができる、という仕組みになっており、皆がスマホを手にとって買い物をしている。

屋台のような店ですらすべて、電子決済なのだが、これは実際に見ると、軽い衝撃を受ける。

また、町中を流しているタクシーの料金支払のときも、運転手がQRコードを見せてくるので、それをスキャンして支払いを行う。

逆に現金を出すと、「お釣りがない」といって、めちゃくちゃ嫌な顔をされるのである。

 

無論、地下鉄にのるときも電子決済だ。チケット販売機の上部にはWeChatPayへの(あとAlipayへの)登録を促すQRコードが掲示されており、WeChatPayへ一度登録すれば、あとはアプリ内ですべてが完結する。

当然、レストランにはいっても電子決済だ。店での支払いが電子決済なのはもちろん、この店では机の上にはQRコードが貼ってあり、WeChatでスキャンするとスマホにメニューが表示され、そこで注文すると店員が勝手に食事を持ってくる。

街にでれば、シェアサイクルが電子決済だ。自転車にはられているQRコードを読み取り、スマホで決済すると自転車の鍵がリモートで解錠され、あとはどこにでも乗っていき、どこにでも乗り捨てられる。

利用者は「乗り捨てられている」自転車を勝手にまた使って良い。

要するにすべて、電子決済で事が済むのである。

逆に、電子決済ができなければ、街に暮らしていてもかなりの不便を強いられる。

 

 

ところで、この「WeChatPay」であるが、中国へ行ったら、使ってみたいと思う方も多くいるのではないだろうか。

いや、現地では「使わないと生活できない」というレベルと言っても、過言ではない。

 

ところがこの「WeChatPay」だが、外国人が使うのは相当難しい。

端的に言って、そのハードルの高さから「外国人は使うな」と言われているのと同じだと、私は感じた。

 

中国における電子決済サービスはテンセントの「WeChatPay」とアリババの「Alipay」が主流だが、いずれのサービスも使うためには

1.中国の携帯電話番号

2.中国の銀行口座

の2つが必要である。

ところが、この2つを外国人が作ることは、かなり困難なのだ。

 

まず携帯電話番号は、作るのに日本国内と同じく、「身分証明書」が必要だ。そして、我々外国人が提示できる唯一の身分証明は、「パスポート」だ。

したがって街中の携帯ショップで「パスポートで携帯番号を作りたい」と依頼するのだが、「パスポートでは作れない」という店が結構多い。私がみた限り、小さめの店ではまず無理だ。

また、店の人はまず英語ができないので、これが結構地味にキツい。中国語ができる方の同行は必須かもしれない。

 

何件か捜索して、ようやく以下の場所にあるショップで、携帯SIMを入手できた。費用はプリペイド式で55元(約1000円)。毎月課金される形式ではないので安心だ。

しかし、本当の問題は携帯番号ではない。銀行の口座を作ることが、これを遥かに上回る困難である。

少し前までは外国人でも簡単にパスポートで口座を作れたようなのだが、今は違う。

 

実際には、こんな感じだ。

「口座を作りたい」

「お前は外国人か?就労証明を見せろ」

ここで大抵の人が門前払いだ。

「就労証明はないが、こっちで仕事がしたい」

と食い下がると、

「レギュレーションが変わったので、長期滞在者か、職をこっちで持っていない者には口座は作れない」と取り付く島もない。

 

これが大抵の銀行での対応だ。

「ホテルの滞在証明で作れる」というネットの情報もあるようだが、それで作ることのできた人は、今回同行した20人中、一人もいなかった。

 

私はなんとしても口座が欲しかったので、深センの町中の銀行を巡って、口座開設のできる銀行を探した。

すると一つだけ平安銀行という銀行が、「自宅か、オフィスか、とにかく何かの住所があれば作れる」というではないか。

OK、ということで、知人が中国でスタートアップのコワーキングスペースを借りていたため、その住所を使わせていただき、ようやく口座を開設することができた。

ただ、このやり方であっても、支店が違えば断られたり、住所があってもダメで、就労証明がないと絶対にダメ、という担当者もいて、明確な基準がないようなので、最終的には「運が良ければ作れる」ということのようだ。

ちょっと前のゆるい時代に口座を作っておいた人は得した、と言えるだろう。

口座を開設できれば、ほとんどの人はWeChatPayや、Alipayが使えるようになる。

 

ともあれ、深センに済む日本人は人口1300万人中、たったの5000人程度というから、「外国人歓迎」ではないことは確かである。

 

 

正直に言えば、私は日本が中国に完敗している、とは思わなかった。

深センのお店の多くの接客は、下のような店員がいるほどテキトーだ。ケータイショップでも、外国人と見るや、店員に「あっちにいけ」と顎で適当にあしらわれる。

街には監視カメラが溢れ、電子決済は誰がどのようにお金を使ったのか、筒抜けであり「個人情報」の概念はほぼ皆無。

 

だから、私は「テクノロジーの発達度合い」や「資本の多寡」だけで、勝ち負けが決まるとは全く思えない。

マスコミが煽るのもいい加減にしろ、とも思う。

 

だが、私も街の素晴らしさと、途方もない可能性を感じずにはいられなかった点がある。

それは、街が「若い」ということだ。

事実、深センの住民の平均年齢は30代で、街中で老人を見かけることは殆ど無い。これが「新しいサービス」を受け入れる土壌になっていることは間違いないだろう。

 

さらに企業の幹部には若い女性が多い。例えば、今回テンセントに訪問したのだが、6人出てきたテンセントの社員は、幹部を含め、5人が女性であり、キレる方ばかりであった。

彼らは言う。

「テンセントは45歳が定年。それまでは昼夜問わずめちゃくちゃ働く。45歳になったら楽に暮らせるだけの年金が出るので、若い人にあとを任せて去る。」

 

また、物流会社に勤める女性は、こんな事を言っていた。

「深センは若者の街であり、上海や北京と違ってしがらみがなく、既得権もない。中国全土から夢を求めて、才能ある人が集まる。」

貿易会社に勤める男性は

「大成功しなくても、真面目に努力すれば絶対に報われると思う。みんなそう思っている」。

 

1300万人もの夢を持った若者が、努力して報われることを信じており、猛烈に働く街。

世界に、こんなすごい街が他にあるだろうか。

 

対照的なのは、日本の活力のなさである。

「老人ばかり」

「努力しても報われない」

「働きたくない」

そんな諦めとも、怨嗟ともつかない声ばかりが、聞こえてくる。

 

今回知り合った中国人の若者から、こんな質問をされた。

「日本人の若者は、長時間働かず、ほとんど起業しないと言うけど、何故なんだ?」

私は答えた。

「保守的だし、諦めてるんだよ、世の中に。」

彼は言った。

「それは気の毒に。深センはいいぞ、夢がある。」

 

 

 

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(Photo:安達裕哉)