先日、小学校4年生の子供をもつ親御さんたちと話す機会があった。

いずれの方々も東京に住んでいるので、自然のなりゆきで子供の話題には「中学受験」が出てきた。

「どこの塾に行かせている?」

「子供にどれくらい勉強させてる?」

「模試受けさせる?」

そんな話に花が咲いた。

 

すると、一人の方がこんな話題を振ってきた。

「……でも、親の世代には中学受験させる、というと「子供がかわいそう」って言う人いるよね。私、親から「勉強漬けにさせるのはどうかと思う」って、言われたんだよね。」

 

すると、他の方々も思い当たる節があるらしく、

「ああ、わかる」

「悪意はないと思うけど……子供が知らないオバサンから「勉強ばかりで遊べなくて大変でしょう」って言われた、って聞いた。」

「小学校の担任が、中学受験に否定的で困る。」

といった声が上がった。

 

どうやら、世の中には「子供に早期教育を施すのは望ましくない」と考える人が一定数いるようだ。

 

 

「一流の技能をもつ人」を作り出すには、一般的には「素養」と「訓練」が必要であると言われる。

そして特に、「訓練」については、訓練プログラムの良さ、そして何よりも「多くの時間」が必要とされる。

 

一流を作るのに多くの時間が必要である以上、幼少期からそれに取り組んでいたほうが圧倒的に有利であることは間違いない。

例えばタイガー・ウッズがゴルフを始めたのは生後9ヶ月であるし、イチローが野球を始めたのは小学校3年生のとき、羽生結弦がスケートを始めたのは2歳だ。

もちろんこれは、スポーツだけに限らない。

羽生善治が将棋を始めたのは小学校2年生、藤井聡太も5歳のときだ。ピカソは10歳から美術学校に通い、モーツアルトは3歳から音楽教育を施された。

 

もちろん誰もが一流になれるわけではないし、プロを目指して始めるわけではない。

だが「訓練に充てる時間が多い方が上達の可能性が高くなる」というのは、誰にでも当てはまる。

 

 

本質的に中学受験は、学力テストによる子供の選抜である。

そして、「東京大学」の合格者に占める中高一貫校の人数を見れば、中学受験が学力による選抜には成功していることは一目瞭然だ。

 

また、データ上も「中学のときに成績の良かった子供」は、良い職業につけることが示されている。

例えば、教育学者の苅谷剛彦の行った統計分析は、1956年生まれ(現在61歳)〜1975年生まれ(現在42歳)の人々は、「学歴」よりも「中学時代の成績」が職業威信の高低を規定する最も強い要因となっており、しかも出身階層は統計的に優位な影響を持たないことを明らかにした。

もともとの「素養」を持つ子に適切な「訓練」を施し、その後の競争を勝ち抜けるようにしてあげることは、むしろ褒められてよいはずではないか。

 

「小学生にガリガリ勉強させること」は本来、批判されるようなことではないはずである。

 

 

また「小学生」本人も、勉強を嫌がっているかと言えば、必ずしもそうではない。

 

私が知る知人の子供は、「塾が大好きだ」と言う。

「なぜ塾が好きなの?」と聞くと、その子は「学校の授業がレベルが低すぎてつまらないのと、塾のほうが話が合う子が大いので、友達がたくさんできた」と言う。

また、別の子は、小学校で「集団行動」をきつく言われるが、その子は「集団行動嫌い」なので、塾のほうが性に合っていて楽しそう、ということだ。

 

余談だが、その親御さんの一人に勧めらたマンガがある。

「2月の勝者」は、中学受験を行う親子の葛藤を描いているが、非常にリアルな中学受験の現実を描いている。中学受験を迷っている親御さんには、ぜひ読んでもらいたい本である。

 

例えば「第一志望には、大半の子供が受からない」という事実。

 

子供が「天才」ではなく「平凡」であるという現実。

そういったことをすべて、子供に受け入れさせたうえで、前に進まなければならないのが中学受験だ。

これらの現実を子供に突きつけるのが「厳しい」「かわいそう」という気持ちを持つ人が多いのも、わからなくはない。

 

しかし、人生とは常にままならず。そして殆どの人間は平凡であり、自分もまた平凡であるという現実は、どこかで受け入れなければ大人になれない。

 

そして、「大学生」や「社会人」となってからそういったことを経験するよりも、「失敗は早くせよ」という言葉通り、若いうちに転んでおいたほうが、ダメージは少なくて済む。

子供を過剰に保護するよりも、敢えて若いうちから、適切に挫折や失敗を経験させることで、子供はより強く成長するだろう。

 

 

昔、藤沢数希さんという方が、こんな記事を書いていた。

中学受験こそ日本のエリート教育の本流、東大なんてクソ

自分たちがエリートだか上流階級だか知らないが、息子が行きたい中学に入れないことを、日本の教育システムの問題にすり替えて非難するそのような傲慢な態度では、一流の中高一貫校に入学することなど夢のまた夢である。
なぜならば、中学受験こそ日本の競争力の源泉であり、日本のエリート教育の心臓部だからである。

僕は大学生のとき、難関中学受験のための教育機関で講師をしていた。
そこで日本の中学受験というシステムが世界的に見ていかに優れたものであり、そこを勝ち抜いていく子供たちがいかに優れた能力を有しているかということをまざまざと見てきた。
そう、中学受験には人生の全てがあるのだ。
喜び、悲しみ、孤独、友情、努力、才能、そして、家族の愛。

文章はとてもおもしろく煽っているので、反感をもつ方も多いだろうが、中学受験に関する一つの真実を表している、と思う。

僕は受験前の子供たちを毎年こういって送り出していた。

「みんなは他の子供がサッカーをしたり野球をしたりして遊んでいる間にずっと勉強していたね。でも、これから先生がいうことは決して忘れないでほしい。サッカーボールを泥んこになりながら追いかけるのも素晴らしいことだけど、一枚の答案用紙のために一生懸命に勉強した君たちも同じぐらい、いや、もっともっと素晴らしいことだということを。だからみんなそのことを誇りに思って、最後のテストを受けてほしい」

私は藤沢数希さんの「中学受験はエリートを作り出している」という立場には懐疑的であるが、「小学生の時に死ぬほど努力した」という経験が貴重であるという主張には全面的に同意する。

 

そういう意味で、私は中学受験を一種のイニシエーション(通過儀礼)として、やっておくことを肯定する立場を取るのである。

 

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