皆さんは、「フリースタイルリブレ」というアイテムをご存じですか?
出典:http://myfreestyle.jp/products/video-section.html
これは、身体にセンサーを埋め込むことで血糖値を24時間測定できるガジェットです。「糖尿病版のスマートウォッチ」と言っても差し支えないでしょう。センサーを埋め込んだ人は、自分の血糖値をいつでもどこでも確かめられるようになります。
ただし、このガジェットがあるからといって、糖尿病の患者さんの採血が不要になるわけではなく、現時点では医療”補助”という位置づけに留まっています。
身体に埋め込んだセンサーは二週間に一度は交換しなければならず、この点に抵抗を感じる人もいることでしょう。
それでも、いちいち採血しなくても血糖値をリアルタイムでチェックできて、その履歴を確かめられるのは大きな進歩だと思います。
最近、このフリースタイルリブレを実際に使っている方からお話をうかがう機会がありました。
曰く、自分の食事内容によって血糖値がどれぐらい左右される様子がじかに確かめられて、とても面白いのだそうです。
「白米や白パンといった、白っぽくて炭水化物の豊富に含まれているものを食べると血糖値はたちまち上昇して、玄米食などは緩やかにしか上昇しない。アルコールも、種類や飲む量によって血糖値の上がり具合が違っている」
──そういった変化を逐一チェックできるおかげで、食生活に対する意識が高まったとおっしゃっていました。
糖尿病にかかっている人は、担当医師と相談したうえで、購入を考えてみてもいいかもしれません。
※筆者注:この記事に関して、筆者はフリースタイルリブレの販売元から便益を受けているわけではないことをお断りしておきます。
血圧、脈拍、血糖値。その次は?
この血糖値に限らず、人間は、健康状態のバロメータを発見しては数値化し、それらをリアルタイムに確かめるためのガジェットを作り出してきました。
そうしたガジェットの最初期のものは万歩計です。
万歩計は、歩いた距離という健康のバロメータを数値化し、リアルタイムに確認するためのものです。フリースタイルリブレに比べれば原始的ですが、「健康のバロメータを数値化することで、健康増進に役立てる」という発想は共通しています。
また最近は、血圧や脈拍などをリアルタイムに確認できるスマートウォッチが売られています。スマートウォッチは多機能化が進み、睡眠データや血中酸素飽和度なども測定できるようになりました。
こうしたスマートウォッチもまた、信頼性では病院の医療機器にかなわず、通院治療を不要にしてくれるまでには至っていませんが、ユーザー自身がいつでもどこでも健康バロメータを数値化でき、健康増進に役立てられるのは、やはり進歩と言えるでしょう。
現時点では、スマートウォッチで測定できるバロメータはまだまだ限られています。たとえば、肝臓の健康状態を反映しているASTやALT、γ-GTPなどは病院で採血をしなければ測定できません。腎臓や膵臓など、ほかの内臓についてのバロメータも同様です。
だとしても、将来、スマートウォッチで肝臓の健康状態がチェックできるようになれば、たとえば「アルコールの飲みすぎでγ-GTPが高くなってしまった」などと嘆く飲酒家は減るでしょう。少なくとも、健康を意識している人の強い味方になるはずです。
ストレスが数値化され、いつでもチェックようになったら
こうしたスマートウォッチの高性能化が進み、もっといろいろなバロメータを測定できるようになったら、ストレスの取り扱いも大きく変わるかもしれません。
ストレスに関連したホルモンに、コルチゾールというものがあります。特殊な病気にかかっている場合を除いて、コルチゾールはストレスを感じている時に上昇し、ストレスを感じなくなると下がる性質があります。
このコルチゾールの体内濃度が、未来のスマートウォッチで24時間チェックできるようになったら、ストレスの指標として大いに役立つことでしょう。
コルチゾール以外のストレス関連ホルモン、たとえばアドレナリンなどもあわせて測定できるようになり、それらを24時間、365日モニタリングできるようになれば、個々人のストレスの度合いをかなり数値化できるはずです。
同じ職場で同じ仕事をやっている人同士でも、実際に受けているストレスには個人差があります。ですが、誰がどれだけストレスを受けているのかを客観的に比較するのは困難です。
今日の厚生労働省はストレスチェックを事業所に義務付けていますが、あれとて回答式のものであり、本人の主観や価値観に左右される余地が残っています。
ですが、ホルモン濃度の数値なら主観や価値観に左右される心配もありません。ストレスをこうむっている人を着実に、客観的に発見できるわけですから、今までとは異なったメンタルヘルス対策が期待できます。
ストレスが数値化されると社会が変わる
さて、そうなったら世の中はどうなるでしょう?
ストレスのバロメータが客観的な数値として・いつでも測定できるようになったら、職場のメンタルヘルス対策は激変するでしょう。
従業員の健康状態を産業医がスマートウォッチ越しにモニターするようになれば、過労死やストレスによる自殺を防げるようになると思われます。
あるいは、地域や生活環境によってストレスの溜まりやすさ/溜まりにくさが異なることが数字として比べられるようになれば、住宅や都市の建築基準なども変わり、よりストレスの少ない生活環境が実現するかもしれません。
一方、スマートウォッチをとおして個々人の健康状態をモニタリングし、データを集め続けている企業はさらに大きな力を得るでしょう。
昨今、情報産業大手がヘルスケア事業に参入しはじめているのもそうした未来を見越してと思われ、未来の医療関連企業にとっての最大のライバルは、GoogleやAppleになっているかもしれません。
誰もが自分のストレスをスマートウォッチやスマホで確かめられる時代が到来したら、ストレスに対する私達の意識も大きく変わるでしょう。
たとえば、コレステロールというバロメータをほとんどの人が知らず、検査もされていなかった頃は、脂っぽいものの食べ過ぎに注意する人はあまりいませんでした。
が、「コレステロールが高い状態が続くと病気になる」と広く知られ、健診でも必ず測定するようになった結果、食生活に気を付ける人が増え、よしんば気を付けない人も「自分は良くない食生活をしている」と自覚するようになりました。
それと同じで、ストレスが数値化され、いつでもどこでもデータとしてチェックできるようになれば、ストレスを気にかける人は今以上に増えるはずです。
健康意識の高い人はますますストレスの少ない生活を心がけ、意識の低い人も「自分はストレスフルな生活をしている」と自覚するようにはなるでしょう。
昨今、健康増進のためにジム通いに励む人が増えていることを考えると、ストレスの指標がスマートウォッチでチェックできるようになったら、今度はストレス軽減のためのサービスにせっせと通う人が増えるのでしょうね。
まあ、ストレスを気に病むこと自体もストレスになりかねないので、「過ぎたるは及ばざるがごとし」でしょうけれど。
案外、そこまで来ているかもしれない
もちろん、これらは未来予想でしかなく、スマートウォッチでコルチゾールやカテコラミンなどをチェックするためには、技術的なハードルがまだまだあります。
それでも医療のテクノロジーは日進月歩で、ときには、誰も思いつかなかったようなブレイクスルーが起こることもあります。
自分の肝機能や腎機能をスマートウォッチでいつでも確かめられるようになったら?
自分のストレスの程度をGoogleやAppleのアプリでチェックできるようになったら?
フリースタイルリブレを眺めていると、案外、そんな未来がすぐ近くに迫っているような気がして、私はドキドキせずにはいられません。そういう未来を確かめてみるためにも、健康に気を付けて、もうしばらく生きてみたいものです。
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【プロフィール】
著者:熊代亨
精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。
通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)『認められたい』(ヴィレッジブックス)『「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?』(イースト・プレス)など。
twitter:@twit_shirokuma
ブログ:『シロクマの屑籠』