日本にお住まいの皆さん、いかがお過ごしですか。暑いですか。

 

ドイツの朝は20℃前後で過ごしやすいとはいえ、最高気温は30℃弱になる。

わたしは屋根裏にあたる階に住んでいて、ななめ天井に取り付けられた窓から「これでもか!」というほど日光が降り注いでくるから、日中は雨戸を9割がた閉めている。

 

それでも、暑い。

 

たらーっと一筋の汗が首元をつたった瞬間、「これは無理」とカフェへ向かい、現在カフェで執筆中である。

(ドイツでは夏が短いからか、クーラーが設置されている家はかなり稀だ)

 

今年の猛暑、もはや「災害」と認定される

ドイツですらこうなのだ。気温と湿度が高い日本の夏はもっと厳しいにちがいない。その証拠に、猛暑に関するニュースがひっきりなしにタイムライン上に流れてくる。

気象庁は同日、猛暑について異例の記者会見を開いた。少なくとも8月上旬までは、西日本から東日本にかけての広い範囲で同じような暑さが続くと予想している。

同庁気候情報課の竹川元章予報官は「経験したことがないほどの暑さになっている地域がある。命に危険を及ぼすレベルで、災害と認識している」とした上で、「特に環境が変わった西日本豪雨の被災地では、できる限りの対策をして熱中症予防に努めてほしい」と呼び掛けた。

出典:https://mainichi.jp/articles/20180724/k00/00m/040/113000c

もはやこれは、根性だとか、我慢だとか、水を飲んで対策だとか、そういうレベルではない気がする。気象庁が認める「災害」なのだから。

 

さて、災害のなかにあっても、多くの人は「日常」を続けているようだ。少なくとも、部活が完全禁止になったり、仕事が休みになったりという情報はほぼ見かけない。

朝になれば出勤しなきゃいけないし、部活はいつもどおりやらなきゃいけない。

 

もはや災害レベルの酷暑のなかでも、「日常」が続いている。

これは、なぜなのだろう。

 

「暑い中授業をしてもムダ」という単純明快な判断

わたしがドイツに留学していたとき、こんな経験をした。

授業が行われるゼミナールームはサウナ状態で、ノートで顔を煽いだり、2リットルの水をがぶ飲みしたりしてもまぎれない、うだるような暑さだった。生徒たちの首筋には、例外なく汗が浮かんでいる。

 

先生も汗だくになって登場。第一声は「暑い」。

「今日は勉強するには暑すぎないか?」

「移動しましょうよ」

「これは無理ですって」

そんな会話を聞きながら、わたしは「移動とはどういうことだろう?」と内心首をかしげた。学内にクーラーが効いている場所なんてないはずだ。

 

みんなが荷物をまとめるのでわたしも慌ててノートをリュックサックにしまい、みんなについて行く。

 

向かったのは、地下だった。

石造りの床というのかタイル素材というのか、とりあえずひんやりと涼しかった。

教授はそこで「さぁ授業をするぞ」と言い、鞄から資料を取り出す。生徒たちはみんながあぐらをかいて、膝の上にノートを乗せる。そのへんの椅子の上にプロジェクターを置き、白い壁に向かってパワポを映し出す。

 

授業を! 廊下で! 床に座って受けるなんて!!

床に座るという下品な行為でめまいがしそうだったが、みんなは「ふー涼しい」とご満悦だった。

 

さて、また別の日。

授業開始前にまた似たような会話が繰り広げられた。

「こんなんじゃ授業できない」と、教授はレジュメを配って、必要な要点だけを5分くらいで説明し、授業を切り上げた。

 

「あとは自習」「質問がある人はオフィスアワーに来てくれ」と言い、補講もなし。単純に「暑いから家で勉強しなさい」とのこと。

こんなことが許されていいのか?

日本人のわたしからは考えられないような出来事だったが、友人たちの答えは単純明快だった。

 

「暑すぎて頭が働かないから、授業してもムダ」。

 

出席が目的なら、日常は変わらない

この対応のちがいは多分、目的と手段の意識の差だと思う。

 

ドイツでは、学校は勉強の場だ。不登校も認めないし、成績が悪ければ留年か転校させる。

授業に寝ているなんてありえないし、宿題をしていなければ授業についていけないこともある。目的は勉強、その手段が学校。

 

仕事だって、事情があって出勤ができなければ、ホームワークに切り替えられる仕組みをとっている企業が多い。

停電の影響でいつ来るかもわからない電車を待つより、「資料送るから、とりあえず家に帰って働いて。来れたら来て」という感じだ。

目的は仕事の成果を上げること、その手段が出勤なのである。

 

ちなみに先日、税務署に行ったら「担当者が休暇中」と言われて門前払いされ、帰り道に歯医者に行くも休暇で休業、ちがう歯医者もまた休業。いつも行っているカフェも休業、ホームドクターのところへ行くも、彼女もまた休暇中だった……なんてことがあった。

7、8月はバカンスに最適な季節ではあるが、さすがにこれはひどい、なんて一瞬思ったのだが、これもまた「暑くて仕事にならない」から休むのかもしれない。

 

一方日本は、むしろ目的が「学校に行くこと」「会社に行くこと」であり、手段、というか名目が「授業」「仕事」になっている気がする。

だから授業中寝ていてもとりあえずその場にいればOKだし、いくら暑くても部活はいつもどおりやるし、ラッシュアワーに出勤して体力を消耗してでも会社に行くべき、となる。

 

あまりの暑さに効率が悪くなるとか、集中できないとか、なんなら倒れて最悪死に至るとか、そういうことはとりあえず棚上げ。

目的が「出席」だから、いつもどおり行って、いつもどおりがんばればいい。「いつもどおり」という日常が送れない災害レベルの猛暑でも、「参加することに意義がある」のだ。

 

「災害」と言われていても「日常」が変わらないのは、そういうことだろう。

 

猛暑をきっかけに、手段と目的の再考を

わたしはドイツにいるから、日本の暑さはわからない。

地域によっても差はあるだろうが、暑いのは確かなはずだ。

 

「昔はクーラーがなくても大丈夫だった」と言う人も多いが、昔とは気象条件がちがう。

100歩譲って現代の若者や子供が暑さに弱かったとしても、そんなの関係ない。実際に倒れ、死亡している人が「現在」いるのだから、「現在」の状況に合った対策を打つのは当然だ。

 

それでも、なかなか変わらない。変われない。

 

「暑いから」を理由に学校の行事を取りやめたり、部活をナシにしたり、就労時間や労働環境を調整したりするのは、たしかに大変だろう。

学校にエアコンを設置するのであれば、お金もかかる。

しかし猛暑のなかで、勉強なんてできるのか? 仕事なんてできるのか?

 

これは、暑さだけの話ではない。

停電で電車が止まったとか、地震でダイヤが大幅に乱れているとか、大雨で外に出たら5秒で濡れねずみになるとか、そういった非常時に通学したり通勤したりするのは、必須なんだろうか?

 

目的は学校に行くことでも会社に行くことでもない。それはあくまで手段である。そこでベストパフォーマンスができないのなら、ちがう手段で目標を達成するように考え方を転換しなくちゃいけないんじゃないか?

猛暑をきっかけに、よりよい結果を出すための環境にもっと配慮すべきだし、目的と手段をまちがえちゃいけないのでは、なんて思っている。

 

【安達が東京都主催のイベントに登壇します】

ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。


ウェビナーバナー

▶ お申し込みはこちら(東京都サイト)


こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい

<2025年7月14日実施予定>

投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは

借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。

【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである

2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる

3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう

【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください

(2025/6/2更新)

 

【プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

ブログ:『雨宮の迷走ニュース』

Twitter:amamiya9901

(Photo:carina)