私がコンサルティング会社にいた頃の上司から、連絡があった。
「書評を書いてほしい」とのこと。だから正直に書く。
それが以下の書籍だ。テーマは「リファラル(紹介)採用」について。
さて、「リファラル採用」という言葉、最近ではそれなりに耳にすることがあるが、何なのか。
上司の本の定義を引用すれば、「リファラル採用とは一言で言うと「社内外の信頼できる人脈を介した、紹介・推薦による採用活動」のことだ。
例えば、Googleもリファラル採用に極めて力を入れている。
創業以来長きにわたり、我社にとって最高の人材供給源は既存社員からの紹介だった。一時は、他の社員の紹介で入社した人が全社員の半数以上を占めたこともある。
リファラルが最初に注目され始めたのは米国でした。
2001年から採用に関する企業調査を行っているCareerXroads社が、大手71社に実施した2015年調査(Source of Hire 2015)では、採用者全体の22%がリファラル採用による人たちです。
(東洋経済オンライン)
グローバル企業にとって、リファラル採用は、コストの面からも効率の面からも外せない手法なのだろう。
あるシステム開発会社でのリファラル採用の話
実は私も2、3年前、あるシステム開発会社の「リファラル採用」を間近で見たことがある。
その会社は、規模は200名弱、悪くはないが、まあ平凡といっても差し支えはない程度の給与は出る。
大手企業のクライアントを多数抱えているため、良く言えば事業に安定性はあるのだが、悪く言えば「どこにでもある会社」だ。
その会社の経営者が、「社員紹介からの採用を増やしたい」と言い出した。
聞くと、一人の社員が、たまたま友人を社長に紹介したところ、あれよあれよと言う間に転職が決まってしまったとのこと。
エンジニアがなかなか採用できない、紹介会社への手数料が高すぎる、などと嘆いていた経営者は「紹介(リファラル)は素晴らしい!」と飛びついたのであろう。
全エンジニアに
「知り合いを紹介してください、その方がうちに就職したら20万円のボーナスを紹介者に支払います」
と告知した。
胸の中で、紹介会社に年収の3割の手数料を払うよりも、遥かに安く尽くし、社員に還元できるなら一石二鳥、と計算したのだろう。
だがその後、社長の求めに応じて、紹介を実施した社員は、なんとたったの2名だった。
社長はこれを受けて、全管理職に、もう一度通達した。
「紹介に協力してくれと、全社員にもう一度要請してくれ、何ならボーナスの額をもう少し増やしてもいい。」
管理職たちは、社員に「紹介できそうな人はいないのか、どうなんだ」と聞いて回った。
それでも、紹介者は結局、1、2名増えたきりだった。
最後に、最初に採れた一人は、全くの偶然であったことを悟った社長は言った。
「ウチの社員たちは、友だちが少ないんだな。まあ、おとなしい人が多いからな。」
*
実はGoogleも、社員からの紹介のペースが落ちたとき、2000ドルの紹介ボーナスを、4000ドルに増やした。
ところが、紹介のペースは全く上がらなかったという。
人事は調査をした。
するとわかったことがあった。
「友人を紹介する動機」は、カネではない。
友人に自社を紹介するのは、
・社員がとても会社を愛しており
・どうしても他の人に共有したい
と思ったときである。
だから、いくらカネをつもうが、紹介は増えない。まさに、「友人をカネで売ることはない」のである。
実際、上に挙げたシステム会社も、基本的には金払いがよく、残業も少ない良い会社であったため、「会社が好きだ」という人は多かった。(ただ、とても愛しているか、と言われれば微妙だ)
しかし、ここで疑問が浮かぶ。
Googleでも、システム開発会社でも、社員が会社を好きであったのに、紹介が増えなかったのは、一体なぜなのだろう。
人を紹介できるには、一体どういう条件が揃えばよいのか。
ここで、改めて友人を、会社に社員候補として紹介できるとは、どういうことなのかを、改めて考えてみる。
その条件を分解すれば2つ。
・社員以外の知人、友人を持っている。(別のネットワークを持っている)
・その知人、友人を紹介できる立場にいる
の2つだ。
例えば最初の条件は、上の社長の
「ウチの社員たちは、友だちが少ないんだな。まあ、おとなしい人が多いからな。」
という発言にあるように、会社とは関係のない友だちがいなければ、紹介しようもない。
そのため、社員たちの交友関係を育てるため、残業をなくすなど、プライベートの時間を十分確保してこその、リファラル採用なのだ。
当たり前の話だが、「毎日会社と自宅の行き来だけになっている」ような会社では、リファラル採用は望むべくもない。
そしてもう一つの条件だ。
優秀な人は、「自分より格が上」からの誘いしか受けない。
少し想像してほしい。
大学時代の同級生、Yから、「今何やってんの?」久しぶりに声がかかった。
久々に会うのもいいか、と思い、仕事の帰りに落ち合って飲みに行く。
自然に話は仕事になる。今日はちょっと嫌なことがあったが、まあ、それを久々にあった同級生に話しても仕方ない。
すると、Yはあらたまって
「ところでさ、会社に不満とかないの?」
と探りを入れてくる。
意図を測りかねたが、どうやら話を聞いていくと、
どうやら、オレが転職したいと思っているのかどうか、知りたいようだ。
リクルート活動?
だが、学生時代のことを思い出すと、Yはお世辞にも仕事ができる方ではないだろう。
悪いやつではないが、こいつと同じ会社に入って、同じような仕事をして、同じような待遇になるのもなにか嫌だ……
*
人間は正直なもので、「格が下(と思っている)」知人から「ウチの会社に来ないか」と言われても、残念ながら説得力はない。
少なくとも「同等以上」の力は必要だ。
つまり、「紹介できる」と「知っている」とは天と地ほど違う。
極端な話、中小企業の社長と従業員は、たいてい知り合いだ。
ただ、従業員が自分の知り合いに気軽に社長を紹介することはあまりないだろう。
「地位」や「実力」が格上の人を引っ張ってくることは、難しいのである。
また、優秀であればあるほど、今の会社で評価されており、今すぐに転職したいと思っている人は少なくなる。
それを説得できるのは、「力が上」だからだ。
リファラル採用のメリット、そして限界は
つまり、リファラル採用は
・紹介者と概ね同程度の能力で
・ロイヤリティが高い人物を
・比較的低コストで確保する
には向いている採用手法と言える。
だが、現状の枠を超える、超優秀な人物を雇いたいときには、もともと社員がめちゃ優秀なGoogleのような会社を除いて、リファラル採用はそれほど適しているわけでもない。
また、当たり前なのだが、前述した「社員のプライベートな交友関係を育てる時間」を普段から与えていなければならない。
最近では少ないかもしれないが、連日、夜遅くまで働きづめの忙しい会社では、リファラル採用は使いにくい。
そのため、社員の個人的ネットワークを育てる、という意味では「副業」を推奨するのもよい。
副業でつながった誰かを引っ張ってきてくれるかもしれない。
また、社外のイベントに積極的に業務として参加させていれば、そのつながりからの紹介も増やすことができる。
Twitter(一緒にやりましょう!)や、FacebookなどのSNSでも、紹介を気軽にできる土壌があると感じる。
書評
なお、最後になるが、冒頭に紹介した元上司の書籍には
・リファラル採用は社長と会社が好きな数名で、プロジェクトチームを作って進めよ。
・会社の魅力を明文化したアピールブックを作れ
・嘘をつくな、悪いところもきちんとさらけ出せ
など、リファラル採用の一通りのイメージが付くような内容が掲載されている。
できるところからやってみたい、という会社には良いかもしれない。
ただ、しっくりこない点もある。
例えば、「会社の魅力を明文化して、アピールブックを作れ」というが、私だったら、知人からそんなマニュアルっぽい物を見せられたら、イヤである。
「お前は一体何なの?バカなの?何を会社にやらされてるの?」と思ってしまう。
私は、その人の言葉で、熱量を持って説明してほしい。
また、高い報奨金を設定することなくできる、と書いてあるのだが、私は成果の対価としてそれなりのお金を払うのは当然だと思う。
また、協力してくれた社員が、時間外にそういった活動をしていることも多いだろう。
したがって、一人あたり2、30万程度は当然紹介者に支払うべきだと考えているので、このあたりの見解も異なる。
ということで、この書籍のやり方には好き嫌いがあると思うが、もちろんこれは個人的な見解である。
最終的には、各読者の方が判断されるところだろう。
(2024/12/6更新)
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