「仲畑貴志」というコピーライターがいる。かれはウォークマン、ウォシュレット、ベンザエースなど、数々のヒット商品のコピーを手がけ、また「骨董マニア」であったことでも有名である。
さて、今から14年前の彼の著作「この骨董がアナタです」に、興味深いことが書いてある。
”イメージの消費
広告屋をながいことやっている。モノが生産されて流通し消費されるまでの過程で重要な事は、一応知ることが出来た。
例えば、製品と商品のちがいはなんだ。それはどこにあるのかという問題。”
イメージ消費、という言葉を聞いたことはあったが、おそらく仲畑氏が作り上げた言葉なのではないかと思われる。彼はこう続ける。
”製品とは、「工場で生産されたままの、モノの常態である」という。これ、ごくふつうにおもいうかぶイメージだが、では商品とはなんだ。商品とは、その製品のもつ機能があたえてくれる利便である。”
ここまではよくある話だが、ここからの仲畑氏の分析が鋭い。
”利便には、体や環境にたいし物理的効果をもたらすモノの部分と、こころ(気分)に作用するコトの部分とがある。
「メガネという製品」⇒「レンズが光を屈折させる機能」
「メガネの利便」⇒「よく見えるようになる」(モノの部分)、「かけると知的に見られる」(コトの部分)
彼はコピーライターなので、製品としての機能を、「モノの部分」と「コトの部分」に分け、それらを両方アピールできるコピーを考える。
また、彼の最も有名なコピーはウォシュレットのコピーだが、彼はその案件を手懸けた時のことを次のように言う。
”この製品のコマーシャルを初めて手懸けたとき、わたしは、「おしりをお湯で洗うのに十数万円の価値があるのだろうか」という疑問を持った。うんこをお湯で洗い流す。その物理的変化だけでは、十数万の価値を感じなかったのである。
で、「紙で、ふくだけじゃ、だめなんでしょうか」と聞いた。
仲畑氏は「広告をこさえるためには、顧客にハッキリと尋ねることが重要である」という。「仲間でない者は、問題を指摘したりしない。」と。
”広告屋としては、その企業の製品や流通の問題点に目をつむり、クライアントの言うとおりこさえていれば仕事はスムーズで請求書もすぐ出せるが、広告主にとって、こんなに危険なことはない。ターゲットのこころを奪うための表現が、クライアントのこころを奪うための表現になってしまう恐ろしさ。
消費者ではなく広告主がターゲットになってしまった広告を、わたしは接待広告と呼ぶ。”
ところが彼がウォシュレットの担当者から得た答えは、次のようなものだった。
”「紙でふくだけじゃ、とれません」と製品開発の人はこたえた。
「でも、ぼくたち、ずーっと、紙でふいてきたじゃないですか。」
「では、ナカハタさん、この絵の具を、てのひらにつけてください。」
わたしは、青い絵の具を手のひらにつけた。
「この、ティッシュペーパーで、ふいてください」
わたしは、ティッシュペーパーで、手についた絵の具を拭いて行った。
「ティッシュペーパーをみてください」
わたしは、ティッシュペーパーを見る。
「絵の具、ついてますか」
ティッシュペーパーには、もういくら拭いても、絵の具はつかなかった。
「てのひらを、みてください」
手のひらには、皮膚のしわに沿って、青い絵の具がいっぱい残っていた。
「おしりだって、おんなじです」
わたしの脳の奥が、チリンと鳴った。これは、売れると確信した。”
世の中には「マーケティングコンサルタント」と呼ばれる人々がたくさんいる。しかし、仲畑氏のように、はっきりと「売れる、売れない」を自信を持って指摘してくれる人々は一体どのくらいいるだろう。
残念ながら、私が今までにお会いしたwebマーケティング会社、広告会社、PR会社で、「こりゃ売れませんよ」とはっきりといってくれた人は殆どいなかった。「接待広告」は一時的には気持よく仕事できるのだが、商品がダメなので売れない、ということはよくあった。
結局、1に商品、2に商品、3、4が無くて、5に商品、6が売り方、と言ってもいいくらいだ。マーケティングに携わる人は、仲畑氏の言葉を肝に銘じなければならない。
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