いままで日本では、「会社員は副業禁止」が一般的だった。

しかし2018年、働き方改革の一環として厚生労働省が「副業推進」に方向転換したことで、現在は「副業のススメ」的な情報を目にする機会が増えている。

 

わたしはフリーランスとして働いているから、副業というもの自体にあまり関係がない。それでも「副業に関して目にする、耳にする情報が、なんだか偏ってるなぁ」という印象をもっている。

というのも、副業を通しての「自己実現」というロマンチックな面が語られることが多くて、現実的な要素にスポットライトが当たっていないような気がするからだ。

 

ルール無視をおおやけに肯定するのはいかがなものか

ずーーっとモヤモヤしていることがあるので、ちょっと聞いてほしい。

副業が注目されはじめたことで、いままで副業でバリバリ稼いでいた人が、積極的に発信したり、インタビューに答えたりするようになった。

そこでよく見るのが、「会社にバレないようにこっそりやってました」という一文。

 

ふしぎなことに、この一文に拒否反応を示す人はほとんどいない。本人も、悪いことをしたとこれっぽっちも思っていないように見える。

でもわたしは、ここに猛烈に引っかかってしまう。「ルール破ってるじゃん!?」と。

 

以前この件についてtwitterでつぶやいたとき、「副業禁止ルール自体がおかしいんだから守る必要はない」というコメントがいくつか寄せられた。えっそういうものなの?

ルールがおかしいと思ったら、交渉するか、抗議して堂々破るか、副業OKの会社に転職するかをすべきで、「ルールに納得いかないからこっそり破っていい」にはならないと思うのだけど……。

 

厚生労働省が方向転換したとはいえ、副業を認める制度づくりが間に合っていない企業も多いと思う。

それなのに「副業禁止するほうがおかしいんだから就業規則を無視してもいい」という空気が流れちゃうのは、なんだか不健全じゃないだろうか。

「黙って副業をした罰を受けろ!」と糾弾するつもりはないけど、ルールは守るべきだし、納得いかないなら堂々と抗議すべきだ。

 

「こっそり副業」を黙認する空気をつくらず、「ちゃんと就業規則を確認して会社と認識をすり合わせてから副業しましょう」を大前提にしないと、余計なトラブルをまねくだけだと思う。

 

副業によって労働環境の管理が複雑になるリスク

そもそも、なんで副業って禁止されていたんだろう。いろんな理由があるにせよ、「トラブル防止」という側面があるのはまちがいない。

たとえば仕事帰り、副業に関する打ち合わせに行く途中で事故に遭ったとする。さてこれは、労災になるんだろうか?

労働時間の管理はどうするんだろう? 過労死した場合、どっちにどれだけ過失があるんだろう?

 

こういうことを考えると、企業が副業に慎重になるのも当然だ。

リクルートキャリアの意識調査では、兼業・副業の禁止理由は「長時間労働・過剰労働を助長する」が半数以上。うん、まぁそうだろうね。

(https://www.recruitcareer.co.jp/news/pressrelease/2017/170214-01/)

 

また、エン・ジャパンのアンケートによれば、副業経験がある人の59%が、接客・販売・サービス系でのアルバイトをしていたとのこと。

労働時間の合計を本業、副業の企業は把握してるんだろうか。通勤ルートや社会保障の兼ね合いなど、両企業は承知しているんだろうか。

(https://corp.en-japan.com/newsrelease/2018/13507.html)

 

いままで禁止していたことを解禁する際には、当然「どういう仕組みにするか」を決めていかなくてはいけない。

でもいまのところそういった議論は二の次、三の次になっていて、注目されているのは副業のメリットや自己実現といった部分ばかり。

安心して副業を勧めるためには、もうちょっと整った制度が必要なんじゃないか?

 

「お金がないなら副業すればいいじゃない」が成り立つ社会

そしてもうひとつ。わたしが猛烈に心配しているのが、副業の解禁、浸透によって「フルタイムで働いても貧しいなら副業すればいいじゃない」という主張が成立してしまうことだ。

前述のエン・ジャパンのアンケートを見ると、副業に興味のある人の83%が「収入のため」と答えている。

 

「さらなる収入を」なのか「このままじゃ生活できない」なのかによって意味がずいぶん変わる答えだが、結婚や育児、老後などを考えると、経済的不安はつきないだろう。

非正規雇用で立場が不安定、貯金も少なく将来に希望がもてない。いわゆるワープア層に対し、「だからこそ副業を!」という主張も見かけた。

「生活が楽になりますよ」「貯金ができますよ」「キャリアアップにもいいですよ」なんて言葉で、さらに働くようにそそのかす。

 

ポジティブな理由での副業ならいい。実際、副業により自分の夢をかなえたり、人生の選択肢を増やした人だっているだろう。

でも「副業しなきゃ生活できない」状況にある人たちに必要なのは、副業推進ではなく、「ふつうに働いたらふつうに生活できる給料」だ。

 

いままでは「これじゃ生活できません!」と言えていた人が、副業OKになったことで「低賃金でお金がないならもっと働けば?」と突き放されるかもしれない。

その場合、副業は救いの手ではなくさらなる地獄への招待状になってしまう。

そうならないように、労働者保護という視点でも、もう少し議論されるべきじゃないだろうか。

 

安心してできる副業の環境を整えてはじめて「副業推進」できる

最初に書いたけど、わたしはフリーランスだから、いまのところ副業自体に関係はない。

でも副業がやたらとロマンチックに語られるのを見ると、「うん??」という感じになる。

「ルール破ってこっそり副業してたことを美談にして、まだ制度が整ってないのに無責任に副業をもちあげ、もっと働けばいいと言っていいのか?」

と首を傾げてしまうのだ。

 

副業OKの会社で、自分が望んで積極的に副業するならなんら問題はない。他人がとやかく言うことじゃない。

なんならすごい。わたしなら絶対そんなに働けない。

 

ただ、副業禁止ルールを破った人が「成功者」として取り上げられれば、ルールを守るのがバカらしくなってしまう。

制度が整う前に、しかもこっそり副業をはじめたら、予想外のトラブルが起こってしまうかもしれない。ワープア層の過剰労働に拍車をかけるかもしれない。

 

副業が徐々に広まって「ブーム」になってしまう前に、もう一歩現実的に「どういうかたちで副業を推し進めるか」を考えていったほうがいいんじゃないかと思う。

「健全で安心してできる副業」の制度が整ってはじめて、「副業推進」が許されるはずだ。

 

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【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

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(Photo:nelio filipe)