つい先日読んだ本が物凄く面白かったのでご紹介しよう。アフターデジタルだ。

この本は、パソコンやスマホだけではなく、全てのモノがインターネットに接続されている中国都市社会がどのようになっているのかを紹介したものだ(なお、専門用語でこれをIoTという)なんというか未来の先取りをしているかのような内容で物凄く読んでいて興奮する。

この本を読めば、これから社会にどのような変化が起きるかわかること請け合いである。

 

「良い事」をすれば報われる社会がやってくる

冒頭で紹介されているディディという中国のタクシー配送サービス・アプリの話は衝撃的だ。

皆さんは中国のタクシーと言うと、なんだか物凄くボッタクられたり怖い思いをするのではないかという印象がないだろうか?

しかし著者によると、ディディが誕生して以降、中国のタクシーサービスの質は著しく向上したという。

 

詳しいことは本書を読んでいただくとして、ディディではタクシー運転手は乗り手が「安心して、素早く、目的地に行けたか」どうかを3つのデータで分析し、ドライバーが評価されるようになっている。

どういう事か簡単に説明しておくと、カーナビ等で車がネットと紐付けられているから、例えばドライバーは余計な回り道をしたりして最短ルートを取らなかったりだとかの悪い事をすると一発でバレるようになっている。

この事により、タクシードライバーは悪いことができなくなり、結果として中国のタクシーサービスの質は著しく向上したという。

 

こう書くと、ネット上で監視されているみたいで息苦しそうに聞こえるが実際は逆で、よい事をすればキチンとポイントが積み重なり評価され、高評価者ともなるとタクシー運転手の給与は最大でなんと10倍にもなるというので、運転手も楽しんで仕事ができるようになったそうだ。

 

さらに、給与が上がるだけではなく、ディディの高評価ドライバーは社会的にも信用があると評価され、銀行から莫大な個人融資も受けられるようにもなる。

つまり、評価システムは監視というよりも、善行がキチンと評価され、メリットとして返ってくるという加点方式なのである。

 

言われてみれば、私達の社会というのは善行があまり適切に評価されない。正直者が馬鹿をみるだなんて単語があるとおり、善行に対するフィードバックが悪行と比較して物凄くコスパが悪い。

それが「良いことをすれば、ポイントアップして、年収も社会的信用も上がる」となれば、みんなが善人になるインセンティブも働こうというものである。

ついに「良いことをすれば報われる」社会がやってきたのだ。

 

ついに、現実社会にもRPGのレベル上げが導入されるようになった

中国では、このような評価アプリが多数誕生しているが、いずれも基本的には加点方式だという。

なぜならば「ユーザーに好きになってもらって、高い頻度でずっと使ってもらえないと(サービスが)死んでしまう」という感覚が染み付いているからだそうだ。

 

確かに、いくらモノがネットに接続されようが、ユーザーがそもそも使用しないと意味がない。嫌われるようなシステムは、ポイされておしまいなのである。

 

そもそも、私達は異常に加点方式を好む。

例えばRPGゲームのレベル上げなんかは、村の周りをグルグル回ってモンスターを倒すという超単純で時間の無駄遣いとしかいいようがないような行為だけど、意外とゲームに熱中してるときは楽しんでやれたりする。

何故か?それは経験値が目に見えて上がり、ご褒美としてキチンとレベルアップし、強敵であるボスを打ち倒せるという目に見える成果があるからだ。

 

そう考えると、加点式のソーシャル社会は、ある意味ではリアル社会RPGである。

良いことをすれば評価値が上がって、ガンガンレベルアップするのだとしたら、それは確かに楽しいに違いない。おまけにRPGゲームと違って、リアル社会での御利益すらある。

ついに、現実社会にもRPGのレベル上げが導入されるようになったのだ。

 

ナッジでデザインされた社会

このような良い方向へと人間を誘う社会デザインを行動経済学でナッジという。

ナッジとは経済学者のリチャード・セイラー博士が提唱した概念だ。

もともとは「ひじで軽くつつく」という意味で、簡単に説明すると、人々に善行を強制するのではなく、行動経済学の原理を利用して、人々を自発的に望ましい方向に誘導する仕掛けや手法の事をいう。

 

有名なエピソードとしては、空港の男子トイレの小便器に「ハエ」を描いたものがある。

男性の小便器利用者が用を足す時、この「ハエ」を狙って小便をするようになった結果、便器の外に尿が漏れ出す率が著しく低下した事で、ある空港では年間なんと1億円もの清掃費の節約になったというのである。

 

このようにナッジの理論を用いることで、小さなデザインを導入し、利用者を矯正ではなく”自発的に”良い方向に突き動かし、社会全体が幸福になるような社会を私達はデザインする事が可能なのだ。

 

全てのものがインターネットに接続され正確にデータベース化される事で、善行がキチンと評価されるようになったとしたら、私達の社会は大きく良い方に変わるだろう。

 

スマートウォッチで自分をナッジしてみよう

この体験を追随する段階には、日本社会は若干まだ追いついてないが、それでも私達にも近未来を味わう方法はキチンとある。

ウエアラブルデバイス・スマートウォッチだ。

 

つい先日、Books&Appsで「日本人は、直ちに全員、Apple watchをつけるべき。」という記事を書かれていたが、これは私達を大きく健康的にナッジする為の1つのよい手法だ。

 

実際、自分も興味を持ったのでスマートウォッチを色々調べ、HUAWEI WATCH GTを購入して使っているのだが、これが実に面白い。

なお、値段も2,1万とアップルウォッチの5万に比較すれば格安であり、かなりオススメだ。

大雑把にいうと、HUAWEI WATCH GTの機能は24時間の心拍数モニターと万歩計である。

これにHUAWEI社が提供しているヘルスケアというアプリをつなげれば、毎日の睡眠時間をモニターできる。

 

これに自分はMyFitnessPalというアプリでカロリー記録もつけて、自分の生活をモニタリングしているのだけど、こうして自分の生活が数値化されると、面白いことに何か健康的な事をしたくなるインセンティブが働いてくるのだ。

 

心拍数が24時間記録されてるから、なんかダラダラしてたらパッと走ってガツンと上げたくなったりするし、あんなにダサい万歩計もスマートウォッチにつけられてると、つい歩数を伸ばしたくなる。

ちゃんと規定の歩数を歩くと褒めてくれる機能がついてるのだが、この機能がRPGのレベルアップみたいで妙に嬉しい。本質はただの万歩計なのに不思議なものである。

睡眠も100点満点で評価されるので、ついよい睡眠を心がけたくなってしまう。

 

加えて面白いのがカロリー記録だ。

以前、レコーティングダイエットというものが流行った事があったが、確かにこれは効果がありそうだ。

MyFitnessPalというアプリでは、目標の体重別に一日のカロリー目標が立てられる。

朝・昼。晩と食べたものを記録していくのだが、取ったカロリーがキチンと積み立てられるので、自分があとどれだけ食べられるかが可視化され、とても自分が健康的な方向へとナッジされているのが実によくわかる。

なお、MyFitnessPalのフード検索機能は非常に優秀で、ほぼ全ての食物のカロリーを簡単に検出できる。

 

朝・昼と少ないカロリーで過ごしたら、夜にちょっと贅沢しても良い事が可視化されるのは実に心地よい。

逆に昼にラーメンを食べてしまったら、残りのカロリー内でどうやりくりしようか計算するのも楽しい。

 

最終的に、一日の記録をつけ終わったら、今日摂取したカロリーを一ヶ月程度続けたら、自分の体重が何キロになっているのかを提示してくれるのも実に見事である。

これで食べ過ぎたらちょっぴり罪悪感を覚えるし、逆にキチンとコントロールできたら一ヶ月でここまで痩せるのかというポジティブフィードバックにもなる。

 

とまあこんな感じで、IoTで私達の未来は随分とよい方向へとナッジされるのではないでしょうか?

リアルRPGみたいにレベル上げができる社会がくるの、めっちゃ楽しみだなー。

 

【安達が東京都主催のイベントに登壇します】

ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。


ウェビナーバナー

お申し込みはこちら(東京都サイト)


こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい

<2025年7月14日実施予定>

投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは

借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。

【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである

2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる

3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう

【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください

(2025/6/2更新)

 

 

【プロフィール】

名称未設定1

高須賀

都内で勤務医としてまったり生活中。

趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。

twitter:takasuka_toki ブログ→ 珈琲をゴクゴク呑むように

noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます→ https://note.mu/takasuka_toki

(Photo:Dean Lin