私がやっている、ティネクトという会社について少し話したい。
うちは、「オウンドメディアの運営」と「記事作成」を請け負う会社だ。
要は、自分たちがBooks&Appsでやってきたことや、得られた知見をクライアントに提供し、お客さんのサイトを盛り上げて、対価を頂いているわけである。
最近では特に「インターネット広告」以外の手段も広く用いて、webなどから顧客を発掘したい、という会社が間違いなく増えている。
オウンドメディア、すなわち自社で運営するメディアとSNS、そして従来の広告を併用して、相乗効果を出していこうということだ。
とはいえ、実際にやることは非常に泥臭い。
クライアントの事業を理解し、問い合わせの導線を考え、コンテンツの中身を考え、SNSでの拡散を目指す。
メディアのKPIを設定し、PDCAを回す。
それは本当に地味で、誰もやりたがらない仕事であることも多い。(だから事業として成立するのだろう)
そういうわけで、弊社は世の中のイケイケのスタートアップや、気鋭の経営者が気を吐いている「スマートな会社」ではない。
が、一つだけ私が自社で重視していることがある。
それは「大きく試すこと」だ。
弊社では、新しいことを試して、それに関してのデータを提供すればするほど、評価がそのまま上がる仕組みになっている。
もちろん、「試す」ためのリソースも提供する。
事実、売上や利益などの目標は、弊社には一切、存在しない。
だが、弊社のチームが「大きく試す」ことを躊躇なくできるようになるためには、それなりの準備が必要だ。
*
「心理的安全性」という言葉が、去年話題になった。
聞いたことがある人も多いだろう。Googleが特設サイトまで作って、主張しているアレだ。
これは極めて単純化して言えば、「失敗しても周りに馬鹿にされないチームが良いチームだ」との主張だ。
参考:仕事ができる人ほど、できない人に優しく振る舞うのは、マネジメントの定石。
Googleのリサーチチームがたどり着いた結論は、「誰がチームのメンバーであるか」よりも「チームがどのように協力しているか」だった。
具体的には、チームの効果性に影響する因子は、重要な順に
1.心理的安全性
2.相互信頼
3.構造と明確さ
4.仕事の意味
5.インパクト
である。
なかでも、最も重要なのは、「心理的安全性」、すなわち、「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかだった。
ではなぜ、ここまで「心理的安全性」がチームのパフォーマンスに影響するのか。
結論から言うと、「学習する組織が、パフォーマンスの高い組織である」との概念が主流だからだ。
実際、チームの心理的安全性という概念を最初に提唱した、ハーバード大学のエイミーエドモンソン氏は、チームの心理的安全性を高めるため、以下の取り組みを推奨している。
1.仕事を実行の機会ではなく学習の機会と捉える。
2.自分が間違うということを認める。
3.好奇心を形にし、積極的に質問する。
要は、「間違わないこと」が重要なのではなく、「間違いから学ぶこと」が重要だという、昔から言われてきた話が事実だったと言うことだろう。
たしかに、多くのパフォーマンスの高い組織は、「間違わないこと」を決して求めない。
だが、
「チャレンジしない人」
「試さない人」
「間違わない人」
については、改善が必要だと認識していることがほとんどである。
だから、弊社においても「ミス」や「間違い」で、キツく責められることはまずない。(ただし、同じミスを何度も繰り返すと、「学習していない」ということで、再発防止を求められる)
むしろ、問題になるのは「試していない」という事実だ。
*
ところが、である。
弊社の今年の4月から6月までのパフォーマンスの振り返りをすると、
「チームのメンバーが本当にいろいろなことを試しているか」
については、「不足している」と言わざるを得ない。
これは、客観的な数字としては、新しい試みのインパクトの大きさが期待以下、あるいは「◯◯をやりたいので、予算をつけてくれ」と申請してきたメンバーが、ほとんどいないという事実に現れている。
これは、予想外の結果であり、この事実について、私は謙虚にそれを受け止める必要があると考えた。
では一体なぜ、「試さない(試せない)」のか?
いくつか考えられる原因がある。
一つは「心理的安全性」が十分確保されているとは言えない可能性だ。
つまりまだメンバーが「ミス」を恐れている、あるいは「上司を信用していない」かもしれない。
そして、もう一つは「チャレンジ」において、心理的安全性は必要条件に過ぎず、なにか別の条件が整っていないのではないかという可能性だ。
例えば「忙しすぎる」という可能性。
例えば「リスクを取らない小さなチャレンジにとどまっている」という可能性。
あるいは「何をしたらよいかわからない」という可能性。
または「売上が重要であり、チャレンジは重要ではない」と、目標の優先度が変わってしまっている可能性。
果ては「メンバーの持っている性質」の可能性すらある。
何れにせよ、「心理的安全性」が確保されれば、チャレンジが誘発される、とはならないことが、よくわかった。
実践は予想通り行かないものだ。
では、弊社は今後、メンバーに対してどのようなアプローチが必要だろうか。
各自が、自分の能力を拡張するようなチャレンジに積極的に取り組むためには、何が必要なのだろうか。
ある人が、「目標を決めたら」というアドバイスをくれた。
しかし、「試みた数を目標設定する」などは、おそらく愚策中の愚策である。
心理的安全性を損ないかねないばかりか、「意味のない試み」を積み上げることに繋がりかねない。
「個別の面談を増やしたらいい」という方もいた。
だが、面談がチャレンジを誘発するのかと言われれば、今ひとつその繋がりが想像できない。
むしろ「面談すりゃいいだろ」というのは、何も考えていないのと同じだ。
残念ながら、今のところ結論としては、「特効薬はなさそう」だ。
*
とはいえ、この状況は、我々にとって良いことでもある。
これこそ生きた現場での「学習の機会」なのだから。
そのためには「状況を率直に伝えること」が重要だと、MITのピーター・センゲは述べている。
例えば、悪い例として、彼は著作「学習する組織」で、「ビル」という同僚とのやり取りを例示する。
私と同僚のビルのやりとりを想像してみよう。ビルと私は同じプロジェクトを担当しており、上司に対する大事なプレゼンテーションが終わったばかりだ。
私はそのプレゼンテーションに出席できなかったが、人づてに聞いたところではプレゼンテーションの評判は悪かった。
私:プレゼンはどうだった?
ビル:さあ、どうかな。どうこう言うには早すぎるさ。それに、新しい分野を開拓しているのだから。
私:まあね、これから何をするべきだと思う?君が提示しようとしていた問題は重要だと思うけれど。
ビル:どうかな。とりあえず成り行きを見守ってみようよ。
私:それでもいいかもしれないけど、ただ待っているよりも、もっとやるべきことがあるんじゃないかな。
このやり取りでは、「私」と「ビル」は、現状への見方がかなり異なっているが、この会話では「ビル」と「私」のやり取りにこれ以上の学習はない。
「私」はビルに問題があると伝えたいが、「ビル」は自分のプレゼンテーションに問題はなかったと考えており、これが続けば、お互いにストレスが溜まるだけである。
センゲは、この状況を打破するためには、「両者の学習」「率直さ」「対話」が必要だと述べている。
要するに、私の課題は、この状況を私とビルの両方が学習できる場に変えることだ。そのためには、私の見方をはっきり言葉にすることと、ビルの見方についてもっと学ぶことを組み合わせる必要がある。
我々も現状を是非、学習の機会に変えたい。
そう思い、とりあえず率直に、自分の考えを記事にしてみた次第である。
さて、どうなることやら。
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(2024/12/6更新)
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