昔、ある会社の営業MTGで、忘れられないやりとりがあった。

 

少々詳しく描写すると、出席者は以下の通り。

・役員(部長)

・リーダー

・メンバー

7名のメンバーの能力は各々、高、高、中、中、中、中、低。

二人ぐらい優秀な人物がいて、一人「できない人」が混ざっているイメージだ。

また、役員とリーダーは切れ者で、部下の報告の論理矛盾やダメな点にはすぐに気づく。

 

さて、こんな状況で来期の「営業計画」について、MTGが開催された。このMTGの議長はリーダーだ。

リーダーはテキパキと議事を進める。

来期の営業部の方針に始まり、具体的な目標設定、個人の役割など、メンバーへの指示も簡潔でわかりやすい。

ここまではなんの問題もなかった。

 

だが、今年一年を振り返っての営業報告が始まると、雰囲気が変わった。

無理もない。メンバーの一人ひとりが、自分の過去の実績と、これからの具体的行動を発表しているのだから、緊張しないわけがないのだ。

 

最初の発表は能力の高いエースだった。

今年度の目標達成は当然のこと、来期の計画についても、部長やリーダーが納得する絵を描いたプレゼンテーションは、非の打ち所がなかった。

「今年は目標達成できました。要因としては次の表を見てほしいのですが、私の売上の半分以上が、◯◯によって生まれています。これは去年の傾向と比べても顕著で、新しいマーケットが生まれていると考えても良いと思います。

また、実験的な取り組みとして始めた、◯◯は、一部のお客様のニーズは把握できました。しかし、既存顧客の30社に対してヒアリングをした結果は……したがって、来年の計画として……」

 

次は能力が中程度のメンバーが3人つづけて発表した。

どの発表でも、部長とリーダーは、メンバーそれぞれにいくつかの質問をし、来週までに多少の計画についての修正をするように言い、報告は終了した。

 

「仕事できる人」は、そうでないひとに対して、優しく振る舞うのは、当たり前

さて、次は「能力が低い」メンバーの発表だった。

「今年の振り返りは……結論としては目標未達成でした。理由としては、行動量が不足していたと思います。来期は行動を増やしていきます。

次に、来期の計画ですが、私があまりちゃんと話を聞けていないので、きちんとヒアリングしたいと思います。来年こそ、目標達成に向けて頑張りたいと思います……」

 

私もその場で話を聞いていたが、明らかにそのメンバーの発表はクオリティが低かった。

その発表は、マーケットに対する考察も、新商品への取り組みも、顧客の新しいニーズについても触れなかった。

ただ目標未達を謝罪し、来年は頑張る、という決意だけを表明したものだったのだ。

 

できる人たちの発表を聞いていれば、自分の分析の甘さや、計画の稚拙さに気づくと思うのだが、その方は気に留めていないようだ。

 

そんな理由で、私はこのあと、役員とリーダーたちから、この方が猛烈に詰められてしまうのではないかと、ドキドキしていた。

どんな営業部にも一人二人は、能力の低い人がいるが、多くの営業会議は、できない人に対して全く容赦しない。

私はこのあとの会話を思うと、気が重くなった。

 

ところが、リーダーが次に発した言葉は、意外だった。

「いいですね。ぜひ頑張って欲しいと思います。」

「ありがとうございます。」

 

正直に言うと、私は想像と異なることが起きたので、少々驚いていた。

そして、リーダーは続ける。

「ところで、行動量が不足していた、とおっしゃいましたが、不足した原因に心当たりはありますか?」

「うーん……。なんか忙しかったです(笑)」

 

私は「適当に答えてんなー……」と思ったが、リーダーは怒った様子もない。

「あとで勤務記録を見たほうが良さそうですね。わかりました。あと、来期から、ヒアリングでちょっとやってほしいことがあるのですが、あとで話せますかね?」

「大丈夫です!」

このあとも、いくつかやり取りがあって、会議は終わった。

 

私は、リーダーがメンバーを詰める会議を本当に数多く見てきていたので、このリーダーがあの発表を聞いてニコニコしていられた理由を、会議が終わったあとに、思い切って聞いてみた。

「あの方の発表、ちょっとレベル低かったですよね。」

「あ、やっぱりわかります? あの人、できないんですよね。自分の考えを表現したり、論理的思考で説得したりが。」

「なぜ、指摘しなかったのですか?どうでもいいということでもないですよね?」

 

そこに役員が割って入ってきた。

「私がいつもそう指示しています。あそこで指摘するのは、いいことは一つもないですから。あと、どっちかというと、詰めないのは、本人のためではないです。」

「……どういうことでしょうか?」

「つまり、他の人への悪影響がこわいのですよ。」

「具体的には?」

「もしあそこで怒って詰めたとします。すると、周りの人が恐怖感を抱いてしまう。そして、場をそういう雰囲気にしてしまうと、もはや自由闊達な議論は望めない。」

「なるほど。」

「できない人一人のために、場を悪くするなんてとんでもない損失です。できない人は個別に指導すればいいですし、そもそも、「できる人」が「できない人」を詰めているのを見たら、「普通の人」はどう思いますか? 弱い者に肩入れしたくなるのが人情でしょう。」

「……。」

「だから、「仕事できる側」は、そうでないひとに対して、皆の前で徹頭徹尾、優しく振る舞うのは、当たり前なんですよ。マネジメントの定石です。」

「きちんと叱らないと、あの方の改善の機会を奪ってしまうのでは?」

「叱られて気づく人だったら、もうとうの昔に「できる人」になってますよ。」

 

チームが上手く機能するには「心理的安全性」が最も重要

Googleは少し前から、「効果的なチーム」に必要なことを明らかにすべく、多くのリサーチを行い、データを収集している。(参考:https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/introduction/

Googleのリサーチチームは、世界中のマネージャーから集めた情報を元に、リサーチの対象とする 180 のチームを決定しました。

内訳は、エンジニアリング系のプロジェクト チームが 115、営業チームが 65 で、業績の高いチームと低いチームの両方が含まれています。

そのうえで、チームの構成(メンバーの性格的な特性や営業スキル、年齢・性別などの人口統計学的な属性など)とチームの力学(チームメンバー同士の関係性など)がチームの効果性にどう影響するかを調べました。

リサーチにあたっては、チームの効果性に関する Google 自身の経験に加え、既存のリサーチ研究から得たアイデアを利用しています。

そして、Googleのリサーチチームがたどり着いた結論は、「誰がチームのメンバーであるか」よりも「チームがどのように協力しているか」だった。

 

具体的には、チームの効果性に影響する因子は、重要な順に

1.心理的安全性

2.相互信頼

3.構造と明確さ

4.仕事の意味

5.インパクト

である。

 

なかでも、最も重要なのは、「心理的安全性」、すなわち、「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかだった。

心理的安全性の高いチームのメンバーは、他のメンバーに対してリスクを取ることに不安を感じていません。

自分の過ちを認めたり、質問をしたり、新しいアイデアを披露したりしても、誰も自分を馬鹿にしたり罰したりしないと信じられる余地があります。

この話こそ、上述した営業会議にて、私が目撃したことそのものだった。

 

できない人のためでなく、チーム全体のアウトプットのために、優しく振る舞う

脳科学者の岩崎一郎は、「叱るのではなく、思いやりを持って接することで、指導者についてきてくれる」と述べる。

「愛情」の元になる脳内物質であるオキシトシンは、人から思いやりをかけられたり、愛(情)を感じたりすることで分泌されます。

たとえば、人の結婚式に参列して幸せを感じるだけで、オキシトシンの分泌が約15%上がることが脳科学の研究から明らかになっています。

さらにオキシトシンは、恐怖の感情を司るといわれている扁桃体の活性をおさえることが、ドイツにあるリューベク大学のガマール博士らの研究からわかっています。

思いやりをかけられた相手は、脳内のオキシトシンレベルが上がります。そうなってはじめて、厳しい訓練に対する恐れを克服して、指導者についてきてくれるようになるのです。

 

どんなに良い会社であっても、一定数の「できない人」は存在する。

そして、たいていの場合、組織は「できない人」に対して、強く改善を求めるか、排除しようとする。

だから、苛烈な「詰め」が発生する。

 

だが、あの役員とリーダーは、そういった行為がチームの心理的安全性を損なう行為であり、ひいてはチーム全体のアウトプットを損なうと認識していた。

だから、「本人のため」ではなく、「チーム全体のアウトプットのため」に、優しい態度をとっていたのである。

 

そう考えれば、冷徹であるが、必ずしも双方にとって悪い話ではない。

人によって、このような態度に好き嫌いはあると思うが、マネジメントの難しさ、奥深さを、知った、一つの貴重な体験であった。

 

 

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システム開発やITコンサルティングを経て、
外資系製薬企業で15年以上のITビジネスパートナーとして人事からコマーシャル、 メディカルなど製薬企業の様々な分野のプロジェクトに携わる。
現在はネクセラファーマ株式会社で、システムだけではなく、企業風土改革や業務改善をリードし、
日本発グローバルバイオ製薬企業にむけて、同社の成長基盤の構築に尽力している。

岡田 雄太(ワークワンダース株式会社 CTO)
野村総合研究所に新卒入社後、証券総合バックオフィスシステムやオンライントレードシステムなどの開発に従事。
その後、8 Securities(現SoFi Hong Kong)へ出向し、日本人唯一のエンジニアとして国際的なプロジェクトに携わる。
BOOSTRYでは信託銀行向けSaaSの立ち上げと成長を牽引。
WiseVineではCTOとして開発組織を30名規模に拡大し、プロダクト開発を推進。
2025年4月よりワークワンダース株式会社CTOに就任。AI活用を中心とした開発支援をリードする。


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(2026/01/19更新)

 

 

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