『ルポ 人は科学が苦手 アメリカ「科学不信」の現場から』(三井誠著・光文社新書)という本を読みました。

 

「アメリカには、ダーウィンの『進化論』を信じない人が大勢いて、学校で進化論を教えることを拒否している」

そんな話を聞いたときには、「宗教って、無知って怖いな」と思ったのです。

 

僕が日本のメディアから受け取る情報には「リベラル側からみたアメリカ」が多いこともあるのでしょうけど、現代の覇権国家で、そんな人たちが核兵器のボタンを持ち歩いている大統領選挙の結果を左右しているのです。

アメリカのトランプ大統領は「地球温暖化はでっちあげ」と言っているんですよね。

 

この『ルポ 人は科学が苦手 アメリカ「科学不信」の現場から』という本は、長年、新聞社の科学記者をつとめてきた著者が、「科学の最先進国であるアメリカのもうひとつの顔」である「科学を信じられない人たち」を取材したものです。

 

これを読むと「人は正しいことを科学的に証明されれば、それを受け入れるはずで、そうできないのは『無知』だから」という僕の先入観が打ち砕かれていくのを感じずにはいられませんでした。

「科学はデータに基づき、それぞれの人の考え方の違いや立場の違いを超えた事実を提供できる」

そんな期待は、人間社会の生々しい利害の前にかすんでしまうのだ。米国での取材で、その現実を強く実感した。

 

共和党と民主党の二大政党の力が拮抗している米国では、科学的な成果でも、それぞれの人の政治的な立場によって受け止め方が異なる。これが際立つのが、地球温暖化に関する問題だ。

規制を嫌い自由な産業活動を推進する共和党と、環境保護に積極的な民主党の間で、地球温暖化に対する評価が極端に違うのだ。

 

米ギャラップ社の2018年3月の世論調査の結果を紹介したい。地球温暖化は人間活動が原因なのか、それとも自然変動の結果なのかを聞いた質問で、「人間活動が原因」と答えた人は64%だった。前年に比べて4ポイント減った。

支持政党ごとに見ると、共和党支持者では35%だった。前年よりも5ポイント低く、全体を押し下げた。人為的な地球温暖化を認める共和党支持者は、3人に1人なのだ。

 

一方、民主党支持者では89%に上った。前年よりも2ポイント高くなった。もともと支持政党によって大きな違いがあるが、それが広がっている。

地球温暖化は、人間が石油などを燃やした時に出てくる二酸化炭素のせいなのか、あるいは、たまたま自然の変化の一環で今が暑いだけという自然変動の結果なのかは本来、科学的に明らかにされる問題だ。

 

しかし、このような純粋に科学的に評価されるべき問題であっても、支持政党の違いによって、受け止め方が大きく異なる。科学よりも、自らの政治的な思いが優先しているといえる。科学的な研究結果だからといって、ありがたがって認めるわけではないのだ。

これを読んで、アメリカの支持政党による「断絶」の深さに驚くとともに、「共和党支持者のほうが、勉強していなかったり、ニュースをちゃんと見ない人が多いんじゃないの?」と思ったのです。

日本で同じ質問をしたら、支持政党による違いは、ここまでくっきりとは出ないと感じましたし。

 

ギャラップ社は、2010年から2015年にかけて、全米の6000人以上にインタビューし、温暖化に対する考え方と学歴との関係を調べたのです。

「地球温暖化は自然の変動によるものだ」と回答した人の割合を比べると、高校卒業までの人の割合は民主党支持者のなかでは35%に対し、共和党支持者のなかでは54%と、差は19ポイントだった。

一方、大学を卒業した人では民主党支持者の13%に対し、共和党支持者は66%と差が53ポイントにまで広がってしまった。

 

素朴な教育観によれば、勉強をすればするほど「正しい」理解に結び付き、誤解は解消し、わかり合えると思う。

しかし、現実では学歴が高い人ほど支持する政党の違いに応じて、お互いの考え方の違いが際立つようになるのだ。

 

「人は自分の主義や考え方に一致する知識を吸収する傾向があるので、知識が増えると考え方が極端になる」

地球温暖化やワクチンの安全性など科学に関するコミュニケーションの研究で知られるエール大学(北東部コネチカット州)のダン・カハン教授(心理学)はそう分析する。

まさに、「人は、自分が信じたいものを信じる」のです。

 

世の中にあふれているさまざまな知識を、真っ白な状態で吸収して正誤を判断できる人は少なくて、

「勉強することで、自分が信じているもの、信じたいものを補強できる知識を積極的に取り入れていって、いっそう信仰が深まっていく」傾向があるんですね。

 

思えば、キリスト教世界における「神学」は、「神が存在する」ことを「証明」するために、当時のヨーロッパで最高の頭脳を持った人たちが、さまざまな理論をつくっていったものです。

 

人の能力とか学習意欲というのは、「ゼロから世界を知る」よりも、「自分が信じている世界をより強固なものにする」ことに向かうことが多いのです。

 

ネットで(とくにSNSで)、社会問題に対して、リベラル(あるいは保守)を自称する高学歴の知識人たちが、陰謀論にとらわれていたり、あまりにも現実離れした主張や誹謗中傷を繰り返しているのをみて、「この人たちは、なんでこうなってしまったのだろう?」と疑問だったのですが、「自分が信じているものをひたすら理論武装しつづけた」結果なのかもしれません。

 

「学歴といっても、文系・理系とか、その大学の偏差値による違いもあるのでは?」という疑問も持ったのですが、カハン教授の調査では、「科学的な知識が少ない場合は支持政党による違いはないのに、知識が増えるほど支持政党の違いに応じた考え方の違いが大きくなった」そうです。

 

僕自身も「地球温暖化は人為的なものだと考えている」のですが、なぜ温暖化が起こるのか、というのを他者にわかりやすく説明できるほど「理解」できているわけではなくて、「みんながそう言っているから」「高名な学者がデータを用いてそう主張しているから」というくらいの根拠しか持っていません。

おそらく、大部分の人が、僕と同じくらいのレベルで「自分のほうが正しい」と思っているはずです。

 

自分で実験をしてデータを集めたり、論文を読んで確認したわけでもない「科学的な事実」によって、「こんなことも知らないのはバカ」と見なしているわけです。

多くの人が「この程度の根拠」なのですから、その対象との出会い方や周囲の環境が違えば、真逆の「真実」を信じていた可能性もあるんですよね。

 

現実的に、共和党支持者の集団のなかで生きてきて、「やっぱり民主党の言うことにも一理ある」と考えたとしても、今まで築いてきたコミュニティから追放されるリスクもあるなかで、「転向」するのはキツイのではなかろうか。

こうなるともう、「自分の属している集団に忠誠を尽くす」のが、いちばん面倒がないのです。

「科学的な事実」だからといって、それを他者に受け入れてもらうのは、本当に難しい。

 

著者は、南部ケンタッキー州にある「創造博物館(creation museum)」を訪れています。

この博物館は、神が生物を創り出したという「創造論」の世界を紹介するテーマパークのような施設で、キリスト教団体「アンサーズ・イン・ジェネシス」が2007年にオープンし、10年間で300人以上が来館したそうです。

 

2016年には、同じ団体が、創造博物館から車で1時間の場所に実物大の「ノアの方舟」を再現した姉妹施設が完成しました。

この方舟、なんと、全長155メートル!

実物大「方舟」について、別の解説員は「ここの展示を見ることで、ノアの方舟が神話でなく、本当の歴史であったことを理解できる」と胸を張っていた。

「本当の歴史」であることを示すために、「ノアの方舟」に対するよくある批判への回答も紹介されていた。

 

「ノアの方舟」が大きいとはいえ、巨大な恐竜をどうやって運んだのかという批判に対しては、「小さな子どもを乗せた」などと反論していた。

 

 

180万種にも上るとされる膨大な生物種をどうやって選んだのかという批判に対しては、こう答えていた。

「すべての生物種のうち、魚や植物、バクテリアなど方舟が運ぶ必要がない生物が全体の98%以上を占める。方舟は、陸に住む動物の祖先となる生き物を運べば十分で、運ぶ動物は1398種類になる」。

1398種類の動物を数ペアで運ぶために、動物の数は6744になったという。

 

ちなみに魚や植物、バクテリアなどは方舟が運ばなくても、洪水を生き延びることができるから、運んでいなかったのだという。

たしかに魚は泳げるし、植物の種は洪水が終われば芽を出すことができる。バクテリアもなんとか、生き延びたのだろう。

 

施設は3階建てになっていて、大きな動物を飼育する小屋から小さな鳥小屋まで整然と並んでいた。

展示の説明によると、大型の飼育小屋が186個、中型の飼育小屋は293個、鳥小屋は308個あるのだという。ほかに両生類専用のケージや、超大型の飼育小屋などもあった。

 

大き目の飼育小屋には、首の短いキリンの模型が展示されていた。現在のキリンの祖先なのだという。彼らの説では、同じキリンのグループのなかで、首の長さが変わるような進化は認められているようだった。

「こちら側」からみると、ツッコミどころ満載なのですが、ここまでの施設をつくり、数字を並べて、「ノアの方舟の実在」を証明しようとする人たちがいるのです。

これはこれで、「話の種としては面白そう」ではあるのですけど。

 

無知だから誤解している、というのであれば、説得できる可能性もありそうな気がします。

でも、「信じるための『自分たちにとっての科学』をつくりあげてしまっている人々」とは、「お互いにとっての正しさの衝突」が繰り返されるだけなんですよね。

 

インターネットが進化、普及することによって、「それぞれの立場をこえた議論」ができると期待していた人たちは多かったのだけれど(僕もそのひとりでした)、現状は「ネットがさらに断絶を深めている」ように思われます。

 

人は、「科学を信じている自分」を好きになったり、優越感を感じたりすることができても、「科学」そのものを信じるのは難しい生き物なのかもしれません。

 

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(2019/8/30更新)

 

 

【著者プロフィール】

著者:fujipon

読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。

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(Photo:Noé Otero