個人的な最近のビッグニュースは、

「多くの人が『自分は理性的でデマなんかにまどわされない』と思っているけど、ファクトベースで議論する能力を身につけている人は実はめちゃくちゃ少ない」

ということだ。

 

たとえば、

「新型コロナって、なぜ、どれくらい危険なのか?」

という質問を投げかけたとする。

 

「いまさらなにを言ってるんだ」

「これだけ世界中に影響を持っていて死者も出ているんだぞ」

という意見や、

 

「インフルエンザと変わらない、騒ぎすぎ」

「○○を××したらコロナにかからない」

といった意見など、さまざまな答えが返ってくるだろう。

 

では、あなたは、「なぜそう思うのか」という根拠を示せるだろうか?

他人の主張を否定する際、なぜそれがまちがっているのかをしっかり説明できるだろうか?

そこで即答できないのであれば、あなたもわたしと同じ、「だれかが言うからそう思う」という鵜呑み思考をしている……ということになる。

 

データを読み取れない人間は、思っている以上に多い

わたしはコロナウイルスが怖いし、できるかぎり予防したい。

でも改めて「なぜ怖いのか」「どういう予防法が効果的なのか」と聞かれると、答えに窮してしまう。

 

いやだって、メディアがそう言ってるし。

多くの国がロックダウンなどの措置を取っているんだから、当然危ないものでしょ。

死者もいるし……。

 

予防は手洗いうがい、マスク着用。

人との接触を避けて家にいれば感染リスクを下げられるはず。

みんなそうしてるもん。

 

……そう、この程度のことしか言えないのだ。

 

わたしは感染症の専門家ではないから、この程度の認識でも困りはしない。

でも、科学的根拠や専門家の見解などをまったく踏まえないまま、「みんながこう言うからこう思う」という思考回路をしていたことに、わたし自身が驚いた。

 

そのくせ「自分はモノゴトを冷静に、客観的に見つめて、常識的で合理的な判断ができる」なんて思っていたのだからタチが悪い。

しかし困ったことに、「ファクトベースで考えることができない人間」、つまり「鵜呑み思考回路」をしている人は、想像以上に多いらしい。

データを示しただけの資料だと、「意味がわからない」と言って記事が書けない記者がたくさんいた。

そういう記者は同じ質問を何度も繰り返したり、的外れな質問をぶつけたりしてくる。そうした質問にいちいち答えていても埒が明かないと思ったときは、噛み砕いて口頭で説明し、それでも伝わらないときにはわざわざ文章にして紙を渡すこともあった。

すると、その文章がソックリそのまま記事になっていたことが、一度や二度ではなかった。(……)

多くの場合、不勉強な記者や思い込みの激しいデスクが、こうして官僚から渡された情報に何の疑いも持たずに記事を書いてしまう。当然、フェイクニュースを報じてしまうこともありえるのだ。

出典:『ファクトに基づき、普遍を見出す』

これは、思っている以上に大きな問題だ。

 

ファクトベースで考える習慣を身につけてこなかった自覚はあるか?

自分が「鵜呑み思考回路」になっていたことに改めて気付いたとき、ふと、ドイツの大学のゼミでこんな言い回しをよく耳にしたことを思い出した。

 

「それはどのデータをもとに話してるの?」

「反論するなら根拠を示す必要がある」

「具体的な数値を教えてくれ」

 

ドイツでは、ファクトを求める人がとにかく多い。

しかしわたしは日本の教育を受けて育ったので、そんなやりとりにはまったく慣れていない。

 

かろうじて

「わたしはこう思います」

と言っても、

 

「根拠は? こういう反証があることについてはどう思う? この視点でも考えないと一方的な見方になって説得力がないよね?」

なんて言われて黙りこくったことは、一度や二度ではない。

(ちなみにこれは意地悪ではなく、コミュニケーションの一貫である)

 

日本では「根拠を示せ」なんて要求されたことなかったし、「反証に対するさらなる反論」なんてしたこともなかった。

だから、深いところを突っ込まれると、「だってだれかが言ってたもん」レベルの幼稚な理論しか展開できないのだ。

 

まぁ、だからといって「ドイツ人は頭がいい!」というわけではないんだけど。

ただ、自分がいかにファクトベースで考えてこなかったかを痛感した、という話である。

 

大人になって急に論理的思考が身に付くわけがない

よくよく考えてみると、日本では「ファクトベースで物事を判断する」という作業をまったく求められてこなかったし、その方法も習わなかった。

(理系の人ならそういった方法も習うのだろうけど)

 

学校ではむしろ、「事実はさておき、みんなのお気持ちを大事にしましょう」と教え込まれてきたくらいだ。

ただ、ファクトとそこから論理的に導き出される解を示しているだけなのだが、相手が反論できない状況になると、まるで筆者が一方的に攻撃しているような印象を与えることがあるようだ。

おかげで「いじわる」「嫌なヤツ」と思われて、土俵の外から陰口を叩かれたり、人格攻撃をされたりしたことが幾度もある。

出典:『ファクトに基づき、普遍を見出す』

いくら根拠を示し、客観的事実を積み重ね、「こうですよね」と言っても、相手が「なんでそんなこと言うの? ひどいよ」と涙目になれば、「そうだよひどいよ」と悪者にされるのがオチ。

意図せず根拠や知識でぶん殴ってしまうと不興を買う。

 

だから口をつぐんで愛想笑いでやり過ごす。

「事実」より「空気」が大事。

そうやってきた。

 

それなのに、どうだろう。

大人になると、「冷静に客観的に合理的にモノゴトを判断できて当然」だと思われる。

そして多くの人が、「自分は事実をもとに理性的に考えられる」と勘違いしている。

 

だから自分と異なる見解の人を見かけると「当然こうあるべきなのにそれがわからないなんてこの人はバカだなぁ」なんて思うし、「自分はフェイクニュースに引っかからない」と胸を張って言う。

自分の主張にさしたる根拠も示せず、身の回りの情報が本当に正しいのか調べることさえしないくせに。できないくせに。

この思い込みは、想像以上に厄介なものだ。

 

自分はわかっていないという「無知の知」

ファクトベースで考えるには、信頼できる科学的、統計的、経験的根拠をもとにすること。

その数字を正しく解釈すること。

それを適正な方法で事実と照らし合わせること。

ちがう視点で考え直すこと。

専門家の見解にも触れること。

 

こういった技術や知識が必要になる。

 

「こんなに説明してるのになぜわからないんだ」

「これを見れば一目瞭然じゃないか」

相手に対してこんな不満をもつときはたぶん、相手がこういった根本的な技術や知識をもちあわせていない場合だ。

 

技術も知識もなければ、どの数値が信用できるのか、それをどう受け取ればいいのか、その事実が現実的にどう意味をもつのか、さっぱりわからない。

話になるわけがない。

 

そうなると結局、「よくわかんないけどみんなが『良い』と思う方が正解」となってしまう。

「安全より安心」という言葉がその最たる例であり、冒頭で引用した「官僚が言う通りに記事を書く記者」と同じである。

自分で情報を精査して考えるより、大多数に流されたほうが楽だし、まわりと衝突することもない。

 

でもそれならせめて、

「自分は、自分が思っているほど客観的な根拠をもとに話しているわけではないこと」

「真実を見つけるために必要な知識や姿勢を学んできていないこと」

に自覚的でありたいとは思う。

 

「自分は事実をもとに理性的に考えられる」なんて勘違いしながら他人の言うことを鵜呑みにするなんて、だいぶ滑稽だから。

 

ファクトベースで考えるクセをつけ、自分なりに「真実を見る目」を養っていこう。

ファクトベースで考えられる優秀な人の主張には、主張内容だけでなくなぜそういう主張にいたったかという根拠や論理展開にも注目していこう。

 

最近はこんなことを思いながらやってます。

 

 

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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)

 

 

 

【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

ブログ:『雨宮の迷走ニュース』

Twitter:amamiya9901

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