5万件のリツイート、13万件の「いいね」を獲得した、以下のツイート。
育休を4ヶ月取得して感じたこと
・授乳以外は男性もできる
・子ども慣れしてないは甘え
・子育ては2人でやってちょうどいい
・名もなき家事多すぎ
・育児での凡ミスは死に直結
・24時間、緊張状態が続く
・会話できる大人は命綱
・職場の方が落ち着く
・仕事の方が楽
・仕事の方が楽
・仕事の方が楽— 梅田悟司/『名もなき家事に名前をつけた』9/17発売! (@3104_umeda) April 11, 2019
ジョージア「世界は誰かの仕事でできている」や、タウンワーク「バイトするならタウンワーク」などのコピーで有名な、元電通の梅田悟司氏のツイートだ。
私も含めて、多くの方の共感を呼んだのだろう。
思い当たることだらけで、子育て、及び家事に関しての卓越した言語化だと感じる。
さて、その梅田氏が先日上梓された『名もなき家事に名前をつけた』をいただいたので、拝見した。
思うところがあったので、私も言語化したい。
ご飯を作り、お掃除をすることの「英雄性」
これを読み、私はすぐに内田樹氏の、「ご飯を作り、お掃除をすることの英雄性」という論考を思い出した。
村上作品はどうして世界的なポピュラリティを獲得したのか、という問いに対して、「ご飯とお掃除」について書かれているからであろうとお答えする。
世界中、言語や信教や生活習慣がどれほど違っていても、人々は「ご飯を作り、掃除をする」ということにおいて変わらない。いずれも人間にとって本質的な営みである。
「ご飯を作る」というのは、原理的には「ありもの」を使って、そこから最大限の快楽を引き出すということである。(中略)
掃除については、これまでブログに何度も書いたが、これは「宇宙を浸食してくる銀河帝国軍」に対して、勝ち目のない抵抗戦を細々と局地的に展開している共和国軍のゲリラ戦のようなものである。
この戦いの帰趨は始めから決まっている。
部屋は必ず汚れる。本は机から崩れ落ち、窓にはよごれがこびりつき、床にはゴミが散乱する。局地的に秩序が回復することはあっても、それはほんの暫定的なものに過ぎない。
無秩序は必ず拡大し、最終的にはすべてが無秩序のうちに崩壊することは確実なのである。
けれども、それまでの間、私たちは局地的・一時的な秩序を手の届く範囲に打ち立てようとする。掃除をしているときに、私たちは宇宙的なエントロピーの拡大にただ一人抵抗している「秩序の守護者」なのである。
内田樹氏は、論考の中で
ご飯を作る人を、「「ありもの」で、ベストを尽くす人。」
掃除をする人を、「エンドレス、かつ絶望的な戦いに挑む、秩序の守護者。」
と表現し、「ご飯を作り、お掃除をすることの英雄性」という表現にまとめている。
私は、この表現は真に的を射ていると思う。
だが、残念ながら炊事・掃除・子育てなどの「英雄性」は、一般的にはなかなか認識されない。
いや、認識されないどころか
「誰でもできる仕事」
「しょせん家事」
「家のことはわからない」
「子供のことは任せた」
など、時に不当に貶められてしまうことすらある。
これはいわゆる、「お金を稼げて、わかりやすく称賛される仕事」をしている人には、なかなか理解されない感覚かもしれない。
実際、内田樹氏は、このように評している。
彼らはその日々の営みに十分な敬意を示されないことにいささかの苛立ちと悲しみを覚えている。
彼らは決して声高に不平を言うわけではないし、その仕事を突然ボイコットしたりすることもない。
「この地味な仕事は、誰かがやらなければならない」と知っているからだ。
だが、貶下されることを「悲しい」と思わない人は、ほとんど居ないのではないかと思う。
*
前職、コンサルティングの現場で、今でも覚えているやり取りが一つある。
クライアントはそれなりの老舗の会社であったが、近年競合にシェアを削られており、営業改革の必要性が叫ばれていた。
そこへ、「評価基準の見直し」が持ち上がった。
不明確であった評価基準を明確にし、求められる能力や、会社への貢献を具体的に数値化した。
そこまでは良かった。
多少の反対もありつつ、概ね皆が同意するところだった。
だが、揉めたことが一つあった。
「評価」に、「事務職の、営業職に対するアンケート結果」を含めるかどうかについて、意見が真っ二つに割れたのだ。
アンケートは主として「事務職への態度」に関するものだった。
事務職に暴言を吐いたり、ひどい仕事の投げ方をする営業がいる、とのことから持ち上がった話だ。
賛成派の意見は
「事務に、不当な負担を押し付け、暴言を吐いて雰囲気を悪くする営業がいる。そう言う人は、いくら成績が良くても、評価に値しないというべきだ。」
一方、否定派の意見は、
「そんなものは評価ではなく、注意で済ませるべきだ。日々現場は忙しく、余裕のないときもある。我々は数字を作っているのだ。」
というものだった。
もちろん、この種の論争に正解はない。
結局の所「組織のトップ」がどう考えるかが、反映される事項である。
そして、数回に渡る議論の末。
結論としては「アンケート結果を含める」と決まった。
つまり、「事務職」を丁寧に扱わない営業は、評価が下がる、ということになる。
その決定のときの経営者の話は、極めてまっとうだった。
「営業は、「自分の力だけ」で成果を生み出せているわけではない。お客様と仲間がいて初めて成果が出せる。それを全社に周知するという意味を込めて、アンケートを評価に含めると判断した。」
*
この後、会社の営業改革は順調に進んだ。
業績は劇的な改善があったわけではなかったが、離職率には明らかな改善があった。
それは、そうだろう。
実際、世の中には、無数の「大して褒められもしない、名もなき仕事」が無数にある。
日々の雑用、オフィスやトイレの掃除、クレーム電話の初期対応、PCのセットアップ、新人の文具の用意……
こういった仕事を大事にするかどうかで、「職場の働きやすさ」は天と地ほども違う。
それはあたかも、梅田氏が指摘する数多くの「名も無き家事」のようである。
・タオル掛けにかけてあるタオルを洗うかどうか迷い、匂いを嗅いで判断する家事
・手洗いにするか、洗濯機に放り込むか判断する家事
・絶対に自分がつけてない便器の黄ばみを落とす家事
職場でも、家庭でも、こうした「名も無き仕事」を誰かがやってくれているからこそ、快適に保たれているのだ。
*
世の中は、尊敬され、かっこよく金が稼げる仕事だけで構成されているわけではない。
いや、そんな仕事はむしろ少数だ。
街をゆく、ゴミ収集車。
大量の荷をさばく配送センター。
ぎっしり商品で埋まったコンビニの棚。
食堂の清潔な器。
黙々と「大して褒められもしない、名もなき仕事」をする人は、エラいのだ。
世の中はそうした「誰かの仕事で出来ている」のだから。
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