前職、まだ私が「オフィス」と「デスクトップパソコン」で仕事をしていたときのこと。

一つの大きな悩みのタネがあった。

 

それは、「集中しているときに話しかけてくる人」と「電話してくる人」だ。

私はとにかく、この2つが苦手だった。

理由はシンプルで、「作業を中断しなければならない」からだ。

 

「作業を中断するくらい」という方もいるかも知れないが、私にとってそれは重大な問題だった。

なにせ、作業を一度中断すると、また再度「没頭する」までにとても時間がかかるからだ。

 

実際、中断をはさみながら作業をするのと、中断なく仕事をするのとでは、賞味の時間だけをカウントしても、前者のほうが2倍から3倍、多く時間を要した。

 

これは決して大げさな話ではない。

マネジメントの祖であるピーター・ドラッカーも著書の中で「時間は、大きなまとまりにする必要がある。小さなまとまりでは、いかに合計が多くとも役に立たない。」と述べている。

仕事の多くは、たとえごくわずかの成果をあげるためであっても、まとまった時間を必要とする。こま切れでは、まったく意味がない。何もできず、やり直さなければならなくなる。

報告書の作成に六時間から八時間を要するとする。しかし一日に二回、一五分ずつを三週間充てても無駄である。得られるものは、いたずら書きにすぎない。

ドアにカギをかけ、電話線を抜き、まとめて数時間取り組んで初めて、下書きの手前のもの、つまりゼロ号案が得られる。

その後、ようやく、比較的短い時間の単位に分けて、章ごとあるいは節ごと、センテンスごとに書き直し、訂正し、編集して、筆を進めることができる。

そのため、私は集中して作業しているときは誰からも話しかけられたくなかったし、電話を受けたくもなかった。

 

特に、口頭で「要領を得ない話」につきあわされるのは凄まじく苦痛だったため

「メールで送ってもらえないですか。時間のある時に対応しますから」

と話しかけてきた人に返答したことも数多くある。

 

実際、今でも

「記録として残り」

「なにをすべきかが明確で」

「いつ、誰からの依頼か」

がはっきり残るように、今でも依頼者にはそうしてお願いをしている。

妻からの買い物の依頼も「LINEかメッセンジャーで」とお願いをしているくらいだ。

 

 

さて、仕事場であまりにも遠慮なく話しかけてくる人が多かったため、次第に私は「ヘッドホン」をして作業をするようになった。

要するに「話しかけないでくださいませ」というサインを出して、周りにわかるようにした。

これは当時の会社のトップが「ヘッドホン」をして仕事をしていたことが多かったから真似をしただけなのだが、私もそれに習った格好である。

 

だが、それでも「話しかけてくる人」が居た。

何という無遠慮な輩だろう、と思ったが、怒るわけにもいかない。

 

私はついに「空いている会議室」にノートPCを持ち込んで、誰にも邪魔されないように自分を隔離し、仕事をするようになった。

実際、こうして仕事をすることで能率は凄まじく上がった。

 

 

ところが、である。

 

しばしばクライアントなどから

「仕事の能率を高めるために、何かなさってますか?」

と聞かれたとき、無邪気に上のような話をすると、怪訝な顔をされたのだ。

 

まるで

「仕事のこと、何もわかってないでしょ、アンタ」

と言われかねない表情だった。

別の会社では絶句されたこともある。

 

たびたびそんな事があったので、仲の良いクライアントから

「ウチは、仕事中のヘッドホンは駄目なんですよ」

と言われた時、私は「なぜですか?」素朴に聞いてみた。

 

するとそのクライアントは

「けじめです」という。

「けじめ……というと?」

「プライベートと、仕事の線引がありますから。仕事中はヘッドホンは禁止です。」

 

正直に言えば、意味不明な回答だし、おかしいのではと思った。

が、これ以上追求して相手を困らせても仕方ないので、

「そうですね」

と適当に流した。

 

それ依頼、いろいろな「ヘッドホン禁止」の会社で、理由を聞いてみたところ、大まかに分けて

 

・いつ呼ばれても対応できるようにしておく

・電話に出られるようにしておく

・職場で音楽を聞くべきではない(風紀の問題)

 

という考え方の会社が、ヘッドホンを禁止していることがわかった。

実際、「ヘッドホン」に対して否定的な人は思ったよりも多いようだ。

オフィスで仕事中にイヤホンで音楽を聴いている人は5人に1人!でも同僚の半数はソレを「不快」と思っている!?―国内調査

仕事中に同僚が「マイ音楽」をしていることについて、「不快」「止めて欲しい」と答えた人は約半数の48.8% 。つまり、2人に1人は「止めてくれ」と否定的に捉えていることがわかる。

その理由で最も多かったのは「ビジネスマナーとして良くないから」(64.6%)。常識的に考えたらNGと思う人が多いようだ。

Twitter上でも、「ウチの会社は禁止」といった声がある。

 

まあ、「ヘッドホン禁止」については、様々な意見もあろう。

私も他社の方針についてとやかく言うつもりはない。

 

しかし、正直なところ、私にとって見れば、「中断によって、仕事の能率を下げる」ことを問題視していないことが、逆に結構な驚きだった。

 

百歩譲って「考える必要のない仕事」をやっているのであれば、中断の影響も少ないだろう。

ただ、思考を要する仕事をしている人にとっては、個人的な体験からしても、明らかに中断はデメリットだ。

 

今でも、私は文章を書くときは、SNSの通知をすべて切り、メールを閉じ、電話も切断する。

そうしないと、文章がかけないのだ。

 

実際、ジョージタウン大のカル・ニューポートは、著書の中で「電話等による中断」はかなりの悪影響があるとの見解を示している。

イギリスのテレビ番組『オフィスビルの秘密の生活』のためにおこなわれた実験に携わった神経科学者は言う。

「仕事に夢中になっているとき、不意に電話が鳴ったら、集中していたことが台無しになる。たとえそのときには気づかなくても、脳はその影響を受ける」

インスタント・メッセージの台頭にも同じことが言える。カリフォルニア大学アーバイン校の情報科学教授、グロリア・マークは「注意力の断片化(attentionfragmentation)」の科学の専門家である。

マークと共著者たちがおこなった研究で、よく引き合いに出されるものだが、オフィスで働く知的労働者たちの観察から、たとえ短時間でも仕事を中断すると、かなりな割合で完了が遅れることがわかった。

 

また、「話しかけられないこと」や「オフィスでのプライバシー」も生産性にとって重要だ。

「オープンなオフィス」は、逆にコミュニケーションの量が減り、生産性が低下することがわかっている。

オフィスが「オープン」な設計だと、生産性が低下する──企業での実験の詳細と、そこから見えてきたこと

論文は、オープンプランのオフィスは本来の目的から見れば逆効果になると結論づけている。

はっきりとした理由はわかっていないが、バーンスタインとターバンは、従業員は職場では他者とのコミュニケーションを制限したいのではないかと示唆する。仕事をするうえで適切な環境をつくるには、「境界」が必要になるというのだ。

またプライヴァシーも重要な要素だ。論文では以下のように述べられている。

全体の観察が容易であり「透明性」の高いオフィスレイアウトでは、従業員同士の対面でのやりとりは減少する傾向にある。これは、プライヴァシーの確保という人間の基本的な欲求に加え、個人的な空間を設けることが生産性の向上に寄与するという前述のエヴィデンスとも一致する。

要は、他者とのコミュニケーションを制限したほうが、生産性にとっては良いことも多いのだ。

 

 

上のように合理的に考えれば、集中を要する仕事をしている時には「SNS」「電話」「会話」などをすべて、シャットアウトしたほうが、絶対に良い。

 

「社内のコミュニケーションが滞る」という意見もあろう。

だが、私はむしろ「きちんとまとめられた」「記録に残る」、メッセンジャーやチャットで依頼をかけてもらったほうが遥かに仕事はやりやすいし、アイデアが必要なときには、別途そのような場所を設ければよいだけだ。

 

あるいは「お客様からの電話はどうするんだ」という意見もいただくかも知れない。

だがそれこそ、付加価値のない仕事は外注すれば良い。webチャットで対応しても良いし、方法は様々だ。

貴重な能力を持つ「社員」という戦力を、そんなことに割く必要はまったくない。

 

「失礼だ」とか「会話が減るのでは」などという、不合理な思い込みを捨てて、生産性の高い方向に働き方をシフトする。

それほど難しいことではないと思うが、どうだろうか。

 

 

*本記事は、月1万円から「煩わしい仕事の中断をなくす」電話代行サービス【fondesk】のスポンサードによって制作されています。

 

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