社会性 パリンと割れて 是非も無し

 

学校や会社でコミュニケーションをとる能力や、年齢相応の振る舞いをやってのけて社会的場面を上手にこなす能力といったものを、ひとまとめに「社会性」と呼ぶことがある。

場にふさわしい行動をとれる人は「社会性があり」、場にふさわしくない行動に終始してしまいがちな人は「社会性が乏しい」とされる。

 

社会性は、ときどきパリンと音を立てて割れることがある。

 

社会性がパリンと割れてしまうと、人は、ホームルームの時間に「うああああああああぁぁぁぁ……!!」と奇声をあげてしまったり、無断欠勤をして離島に旅立ったり、ショッピングモールの中心でクレーマーと化し店長を呼び出される羽目になったりする。

 

50代男性が水商売の女性に人生を持っていかれる瞬間も、学校教師が教え子に手を出してしまう瞬間も、たぶん、社会性がバキバキに割れてしまっているのだと思う。

 

社会性という、社会のなかで期待されるべき行動をやってのけるための能力が失われてしまうこと、普段はストップがかけられている行動が露出してしまう。

本人はぎりぎりのところまで社会性を保とうと努力しているから、周囲の人には、それが唐突なカタストロフィのようにみえてしまう。

 

社会性が割れた瞬間には、それこそ「乱心した」「突然キレた」といった言葉がよく似合う。

 

だが、風船が割れる寸前までは形をとどめているのと同じで、社会性が割れてしまう人も直前まではこらえていて、ちゃんと社会人をやれているものである。

本人の内側で緊張や不安やストレスが限界まで高まっていても、社会性が割れる瞬間まで、誰にも察知されないことも珍しくない。

 

社会性はSFに出て来る「エネルギーシールド」に似ている

社会性が完全に欠如している人というのは、実はほとんどいない。

たとえば統合失調症でかなり長いこと精神科病院に入院していて、障碍年金の診断書に「社会性に乏しい」という文言が何度も出て来る患者さんの場合でも、社会性の発露はそれなり認められる。

 

たとえば弁護士や保健所長といったステータスの高い人々と面会する時には、彼らもまた、いつもより言葉を選び、弁護士や保健所長と面会するのにふさわしい行動をやってのけようとする。テレビ局が取材で来ている時なども同様だ。

面会や取材に大きなストレスやアクシデントが伴わない限り、社会性が乏しいとされる患者さんの行動も、それなりちゃんとした社会性によって覆われる。

 

とはいえ、そのような患者さんの社会性はやはり脆くて割れやすい。

ちょっとしたトラブルやアクシデント、環境の変化などによって興奮や不安に塗り替えられてしまう。

彼らが身に纏っている社会性は、ほんの少しの刺激によってパリンと音を立てて割れてしまうし、トラブルやストレスを回避するすべも乏しく、ちょっとしたことでもダメージを受けやすい。

 

これとは正反対の人もいる。

誰と会う時もしっかりしていて、時宜にかなった行動に終始できて、ストレスやアクシデントに直面してもブレることのない、そのうえタフな人物だ。

いわゆる”理想的な紳士”とされるのはこのタイプで、危なげがない。

 

社会性が乏しい人・しっかりしている人の社会性を、ちょっとイラストで喩えてみよう。

社会性はパリンと割れてしまうものなので、ここでは、SF作品のエネルギーシールドやバリアーのようなものに喩えてみている。

 

イラストにあるように、社会性の乏しい人にもいちおう社会性は備わっている。

しかしそれは非常に薄く、一枚しかなく、剥げてしまっても回復が遅く、そのうえ”当たり判定”が大きなものだ。

 

ここでいう”当たり判定”とはストレスの当たり判定、つまりコミュニケーションや出来事のなかでストレスを感じやすく回避しにくいさまを言い表している。

 

たとえば自意識過剰で、他人のリアクションを自分に対する非難だと思い込んでしまいやすい人などは、”当たり判定”が特大サイズだと言えるだろう。

そういう人は、しょっちゅうストレスを感じてしまうので社会性がたちまち磨り減ってしまう。

 

対照的に、社会性の高い人は、非常に分厚く、二重三重の社会性シールドに覆われているから、ちょっとストレスやアクシデントがあったぐらいでは社会性が割れてしまうなんてことはない。

社会性にひびが入ったとしても回復も早く、そのうえ”当たり判定”が小さい。

 

どんな相手、どんな場面でも行動のアウトプットが安定しているから、周りの人もあてにすることができる。

 

回避率の高い人、タフな人、運の良い人、さまざま。

世間の多くの人は、社会性シールドがパリンと割れ、奇態や狂態があらわれたことをもって、「あの人は、社会性が乏しい」と判断する。

本当は、個々人の持つシールドにはかなりの強弱や性質の違いがあるのだけど、そうした違いを意識せず、割れたか割れないかだけを見ている人も多い。

 

見かけ上、社会性が割れていない人にもいろんなタイプがある。

 

たとえば社会性シールドが薄くて一枚しかないのだけど、トラブルやストレスを回避する技量が高くて、つまり、シールドの当たり判定が小さいおかげで社会適応を成立させている人がいる。

一発しかストレスを防げない脆弱なシールドでも、当たらなければどうということはない、というわけだ。

 

逆にいえば、このタイプの人は回避不可能なトラブルやストレスが直撃してしまうとあっけなく社会性が割れて。

そうなると、場にふさわしくない行動があらわれて周囲を驚かせることになる。

 

ものすごく社会性シールドが分厚い、あたかも宇宙戦艦のような頑丈さで社会適応を成立させている人もいる。

降りしきるトラブルやストレスにもびくともせず、どんな時でも社会性を保っているから周囲からは頼りにされやすい。

ただ、このタイプはトラブルやストレスを回避する器用さを持ち合わせていないから、とんでもない量のトラブルやストレスに曝されるままになってしまうことも稀によくある。

 

どんなに強力なシールドを装備した宇宙戦艦でも集中砲火を浴びれば轟沈するのと同じように、こういうタフな人も地獄の業火のようなストレスのど真ん中に居座り続ければ、やがて社会性がパリンと割れてしまって唐突にカタストロフを迎えることもある。

 

運に恵まれて社会性が保たれているとしか言いようがないタイプもいる。

平均的な環境では社会性がたちまち割れてしまって「あの人は社会性が乏しい」と言われかねないのに、ちょっと特殊な環境で特殊な扱いを受けているおかげで難を逃れている人だ。

羨ましい境遇のようにも思えるかもしれないが、何かのはずみでその環境や処遇を失ってしまえば、たちまち社会性が割れてしまって大変なことになってしまう。

 

仕切るのが上手い人はだいたい気づいている

こうした社会性の強みや弱みの違いによって、選びやすい人生も、長続きしやすい仕事も、付き合いやすい人間もおのずと変わってくるだろう。

 

特に若い人は、自分の社会性のシールドが周りの人に比べて分厚いのか脆弱なのか、当たり判定が小さいのか大きいのかをよく見比べ、強化できるところは強化を、諦めるしかないところはどうやってカバーすればいいのかを考えてみると良いと思う。

自分自身について何も知らず、何の対策も施さないまま生きるよりは、自分自身の特質を知っておいたほうが人生は生きやすくなる。

 

社会適応が苦手な人の場合も、苦手なりにどうすれば社会性が割れてしまわないか、工夫してみる余地はある。

 

また、職場の同僚や部下の社会性がどのように保たれているのかをみてとり、それを見越して付き合っていけば、コミュニケーションの失敗は避けやすくもなる。

たとえばトラブルやストレスを回避する技量が高い人物、たとえばタフな社会性シールドがウリの人物では、適材適所の宛先はかなり違う。

 

ここでは社会性をシールドに喩えて説明したが、もちろん他の喩えもできるだろう。

が、いずれにせよ、仕切るのが上手い人はほとんど全員、こうした個々人の社会性の成り立ちや背景を把握する能力が高い。

 

同僚や部下の社会性が音を立てて割れてようやく「この人は社会性が乏しいなぁ」などと言っているようでは、上手いとは言えない。

仕切るのが上手い人は、こういうことにだいたい気づいている。

 

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【プロフィール】

著者:熊代亨

精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。

通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)『認められたい』(ヴィレッジブックス)『「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?』(イースト・プレス)など。

twitter:@twit_shirokuma

ブログ:『シロクマの屑籠』

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