大企業が、不景気でも赤字でもないときに、普通にリストラをするようになった。

こんなニュースを見ると「終身雇用は崩壊したんだな」と思いを強める一方、

「雇用は、本当に当てにならないなー」と思い直す。

 

実は、ピーター・ドラッカーはかなり前にこのことに気づいていた。

 

彼は「知識労働者の平均寿命が、雇用主よりも長くなっている」と言う。

今日、働く者、特に知識労働者の平均寿命は、今世紀の初めには想像しなかったほど伸びる一方、彼らの雇用主たる組織の平均寿命は着実に短くなっている。これからは、さらに短くなっていく。

正確にいうならば、雇用主たる組織、特に企業が繁栄できる期間は確実に短くなる。もともと、そのような期間が長かったことは一度もない。歴史的に見て、三〇年以上繁栄した企業はあまりない。もちろん、繁栄できなくなったからといって消滅するわけではない。

しかしほとんどの企業が、繁栄の後に低迷期を迎える。再起して、再び成長する企業は少ない。このように、働く者、特に知識労働者の平均寿命と労働寿命が急速に伸びる一方において、雇用主たる組織の平均寿命が短くなっている。

ドラッカーの指摘は本質をついている。

企業がリストラを進める理由は要するに、企業が長期間、マーケットで繁栄することができなくなってしまったためだ。

言い換えれば、企業が「人々の生活保障をする能力を失ってしまった」。

 

したがって、いまの「会社員」は必ず、真の意味で2つの事柄に対処しなければならない。

 

1つ目は、会社に頼らず、依存せず「付かず離れず」の、良い関係を築くこと。

そして、2つ目は、転職やフリーランス化、起業、副業も含めて、様々なキャリアチェンジの準備をしておくことだ。

 

とはいえ1つ目の、「会社と付かず離れず」ってどういうこと?

と思う方も多いだろう。

 

 

私が初めて、「会社とは付かず離れずだな」と確信したのは、

今から10年ちょっと前のことだ。

 

当時私はコンサルティング会社におり、大企業、中小企業を相手に、様々なコンサルティングを提供していた。

品質管理、人事、CSR、情報セキュリティ、プロジェクトマネジメント……

 

コンサルティングの仕事は厳しいが、クライアントを巻き込みながら、一緒に成果を追求するのは非常に楽しかった。

性格的にも向いていたのかもしれない。

会社も拡大を続け、「ずっと、コンサルタントとして活躍したい」と本気で考えていた。

 

ところがその「コンサルティング」の売上が急に落ちた。

理由はシンプルで、「それが流行らなくなった」からだった。

 

コンサルティングの内容は、普遍的なものもあるが「時事ネタ」も存在する。

要するに、コンサルティングのテーマには流行り廃れがある。例えば、

 

「戦略が重要だ」

「いまはERPだ」

「ナレッジマネジメントが重要だよ」

「成果主義を導入しよう」

 

といった具合だ。

そんな「時事ネタ」はコンサルティング会社側が焚きつけるときもあるし、クライアントのトップの強い要望によって始まるときもある。

 

ただ、いずれにせよ「コンサルティングのテーマ」というのは、常に賞味期限が存在していた。

私が居た会社も、もちろん例外ではなかった。

 

マーケットがなければ、コンサルタントもいらない。

だから、当時一緒に働いていたコンサルタントの多くは、市場の縮小とともに「自分のコンサルティングのテーマ」を変更しなければならなかった。

 

そして、その当時、多くの人のテーマの変更先は、コンサルティングではなく「教育研修」だった。

教育研修は、コンサルティングに比べて、遥かにマーケットが大きく、かつ変化が少なかったため、経営陣は「安定的なマーケット」だと判断した。

 

ところが。

「変化が重要」とクライアントに言っている割には、コンサルタントたちの中には、変化を頑強に拒む人たちが本当にたくさんいた。

 

「私は◯◯のテーマのコンサルティングしかやりたくない」

「教育研修はコンサルティングではない」

「話がちがう」

 

そんな人が結構居た。

そして、本当に多くの人が、会社を去った。

 

もちろん、彼らの無念、わからなくはなかった。

「コンサルティングがやりたくて、会社に入ったのに、なんで研修なんかやらなきゃいけないんだ」

と。

 

だが、私は彼らを見て、強く思った。

「君の能力が役に立つマーケットは、もう無いんだよ……」

と。そして、

「ああ、コンサルタントの仕事も、結局マーケット次第なんだなあ」と。

 

もちろん私も、教育研修に従事することになった。

だが、辞めていく人々を非難する気持ちにもならなかったし、経営陣に対する恨みも一切ない。

 

なぜなら、彼らの責任ではないからだ。

真に責任の所在を追求するとすれば、それは「マーケット」としか言いようがない。

 

だがそれ以来、私は会社が約束することを、ほんとうの意味で何一つ信じなくなった。

「会社も、経営者も、何一つ約束することはできない。約束をしたとしても、それはマーケットが変われば反故にされる」と、思い知ったのだ。

そして、それが「付かず離れず」の本質だった。

 

思い描いていた仕事ができなくなった時、

「約束がちがう」と、会社や、経営者を責めるのはかんたんだ。

 

だが、それは完全に時間の無駄である。

なぜなら、マーケットには、誰も逆らえないからだ。

 

だから、キツい言い方だが「会社との約束」を信じる人、つまり、会社に依存しきってしまう人は、単なる愚か者だった。

 

 

愚か者になりたくなかった私は、次第に会社と距離を置くようになった。

要するに、会社の言う「いい話」は、全て話半分とした。

信じられるのは自分の人脈とスキル、そしてマーケットだけ、と社会人としての心がけを再定義した。

 

とすると、途端に世界が広がった。

 

「給料はフェア・マーケットバリューを鑑み、交渉して上げるもの」

「やりたい仕事をやれるかどうかは、会社や上司ではなくマーケットが決める」

「真に自分を評価しているのは上司ではなく、マーケット」

 

と考えることで、「会社は信用できない」という考え方から脱却し、「まあ、みんなよくやっているよな」と思えるようになった。

 

「会社との約束は信じないけど、会社が健闘していることは事実」

と考え出すと、「キャリア」への意識も大きく変わる。

 

つまり「キャリア」は、会社や上司が考えてくれるものではない。

方便として、「私はあなたのキャリアを大事に考えているし、こうあるべきだと思う」という上司はいるだろう。

 

だが、それは上司の単なる願望であって、約束ではないということを肝に命じなければらならない。

すると結局のところ、「キャリア」は、自分で考えるほかはない、という結論になる。

 

本当に、誰も、考えてくれないのだ。

だって、マーケットがどうなるかなんて、誰にもわからないから。

 

ロンドン・ビジネススクールの教授、リンダ・グラットンはベストセラー「ライフ・シフト」の中で、こう言っている。

本章では、向こう数十年間に、労働市場のあり方を大きく左右しそうな変化をいくつか紹介してきた。
しかし、章の冒頭近くで触れたチャーチルの言葉を思い出してほしい。ジェーンのキャリアの終盤には、本章の予測はほとんど役に立たないだろう。

問題は、なにが起きるかわからなければ、なにかに対して備えることは難しいということだ。ジャックと異なり、長い期間働くジェーンは、生涯を通じてより多くの変化を経験し、より多くの不確実性に直面する。

そこでジェーンに必要になるのは、もっと柔軟性をもって、将来に方向転換と再投資をおこなう覚悟をもっておくことだ。

ロンドンビジネススクールの教授が、詳細にシミュレーションしてもわからないことを、上司や会社がわかっているなどと思うのは、単なる過信である。

 

だから、今の我々が言えるのは、グラットンの言う通り、「方向転換と再投資を行う覚悟を持て」

ぐらいが、せいぜいだ。

 

私達は今、まさに「マーケット」で人生が決まる時代に生きている。

それが、資本主義の本質なのだ。

 

 

◯著者Twitterアカウント▶安達裕哉(人の能力について興味があります。企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働者と格差について発信。)

 

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(2020/4/8更新)

 

 

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