少し前、シロクマ先生が、こんなことを書いていた。
体力も気力もなくなった。
疲れて、いる。
原因の見当はついている。
だいたい新型コロナウイルス(COVID-19)騒動のせいだ。
この騒動によって私は消耗し、体力も気力も出なくなってしまっているのだと思う。
1ヶ月ほど前は「へー」としか思っていなかった。まさに他人事だった。
反省している。
しかし今は違う。
まさに私も同じ心境だ。
こうした心境に至るまでの、医療現場と、私のような一般人の「時差」が約1ヶ月だったということだろうか。
確かに最近、ちっとも幸せではないのである。
といっても、別に家族の誰も感染したわけではないし、私自身も病気になったわけではない。至って健康である。
スーパーの品切れは話題になっているが、飢えているわけではないし、子どもたちと過ごす時間も、むしろ増えたぐらいだ。
ではコロナウイルスの何が、私に影響を与えているのか。
それは「これからどうなるかわからない」という、漠然とした不安だ。
もっと粒度をあげて言えば、私は「人生のコントロールを剥奪されている」と感じているがゆえに、幸せではないのである。
前にも書いたが、「コントロールを剥奪される」と、人間は、不幸になる。
場合によっては、心身に異常をきたす可能性もある。
仕事において「裁量がない」時の精神的負担は、想像するよりも遥かに大きい。
人間は本能として「コントロールする能力」を失うと、生きる力を失う。
ハーバード大の社会心理学教授、ダニエル・ギルバートは次のように述べた。
人間はコントロールへの情熱を持ってこの世に生まれ、持ったままこの世から去っていく。
生まれてから去るまでの間にコントロールする能力を失うと、惨めな気分になり、途方に暮れ、絶望し、陰鬱になることがわかっている。死んでしまうことさえある。
実際、上で紹介したダニエル・ギルバートはこんな実験結果を著書の中で取り上げている。
・老人ホームで「観葉植物の世話」をさせるだけで、半年後の死亡率が倍も違う
・老人ホームへの「学生の訪問日」を決める権限をもつだけで、入居者の健康度が増した。ただし、学生の訪問が終わると、入居者の死亡が極端に増えた。
ここから得られる洞察は2つ。
「状況をコントロールできる」ことは、人間の幸福度や健康をアップさせる。
逆に「コントロールの剥奪」は、人間の幸福と健康を大きく損なう可能性がある。
である。
だから現在の世界、すなわち
・必要なものが買えない
・外に出られない
・思うように仕事ができない
・いつ終わるかわからない
と、すべてのコントロールを剥奪されている状態は
「人類全員がうつ病状態」を引き起こす可能性だってある。
*
そのような人間の性質を知ると、現在起きている「買い占め行為」もまた、人間の性質に深く根ざした行為であることがわかり
「バカ」と安易に批判できない。
なぜなら、愚行であっても「コントロールを取り返すために、なにかしたい」という人が大勢いるだろうからだ。
やっぱり都内のスーパーで食糧の買い占めが始まってるのか。そうなるよね。だって皆が慌てて求めているのは「食糧」じゃなくて「安心」だもの。
— ゆき (@CrimsonSepia) March 26, 2020
小池都知事の #外出自粛要請 を受け、会社近くのスーパーでも既に #買い占め が始まっていました…。
2ℓペットボトルの水、パスタ、レンチンご飯のパックは軒並み、売り切れ。
物流はストップしないから落ち着ついた行動をとアナウンスしなかった罪は重い。もはやパニックです pic.twitter.com/JwYq1HpOPL— 日刊ゲンダイ ニュース記者 (@gendai_news) March 25, 2020
政府の失策が非難されており、指摘のとおりだとも思うが、おそらく、買い占め行為は、どういう情報を流したとしても、起きるべくして起きる。
要するに、「なにかしていないと、不安で心身を消耗する」ので、自分に出来ることを探すのである。
それが結果的に「買い占め」という行為となって、現れている。
あるいは「マスクはウイルスに対して予防効果は期待できない」という話がある。
マスク不足、はや2カ月
相変わらず、皆さんマスクされてますね。
マイクロ飛沫とか3時間とか、色々言われてますけど、同様の感染経路であるインフルエンザでも、予防効果は示されていません。
風邪ひいてる人に譲った方が効果的です。 https://t.co/0RrYfnKXHl
— 久住英二(くすみえいじ) (@KusumiEiji) March 28, 2020
ただ、こうした情報を知っていたとしても、マスクをする人が多いのは
「それでも、なにか対策をしないより良いだろう」と考える人が多いからだろう。
まあ、「人に移さないため」と考える人もいるだろうが。
したがって「買い占め」行為は「在庫ありますよ」や「安心してください」という政府のアナウンスでは解消できない。
「この自体の収束のために、個人がなにか出来る(と思える)こと」を用意しないと、不安に負けて「行動してしまう」のである。
「今後どうなるかわからないので、じっとしててくれ」は、不安に絡み取られている人には、届かない。
パニックというのは、そういうものだ。
この現象は、ビジネスにおける「間違えるのはかまわないが、不確かなのはだめだ。」という態度とよく似ている。
例えば
「納期に間に合うんだろうな」
という上司の質問に
「やってみないとわかりません」
と回答すると
「バカヤロー、いつまでに終わらせるのかをまず決めろ」
と、怒られるのと同じだ。
実際、わからないものを無理やり決めても、間違うだけで結果は同じだ。
しかし「不確定よりは間違いのほうがマシ」という人間の心理は世界共通なのだ。
なぜならそれは、上司が「不確定」と向き合わなくてはならないからだ。
「どうなるかよくわからない」という状態で、時間を過ごすのは、精神的なタフさが必要で、万人に出来ることではない。
不確定を放置すれば、上司の胃に穴が空いてしまうのである。
だから個人的には、まさにいま
「手軽にコントロール感が得られる行為」
をきちんと探すことは、結構重要なことなのではないか、と思っている。
ちなみに、私が上の条件に当てはまることを探した結果、
・いつもの時間に起きて着替えること
・ゲームをする
・買ってあったラジコンを作る
・料理をする
・コーヒーを淹れる
だった。
特にゲームや工作は気晴らしとして良い。強いコントロール感が得られるし、外出しなくて良い。
……と思っていたら、サウジアラビアの観光局が「自宅の過ごし方」を動画で出していて、ほとんどかぶっていた。
うん、こういうので、いいんですよ。
多分。
المملكة بعيوننا #تستاهل_أكثر 🇸🇦♥️
لاجل ما نفقد وطنا وغالينا نخسر 🙏🏻 #كلنا_مسؤول #الزم_بيتك pic.twitter.com/suMkmWYZmb— وزارة السياحة #الزم_بيتك (@Saudi_MT) March 24, 2020
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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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