このメディアの書き手の一人である高須賀さんから、メッセージを頂いた。
高須賀さんは、月200時間以上の超長時間労働を経験されたということだったが「結構がんばれていた」という。
ただしそれは「指示を出す側」という条件付きの場合だった。
それでも指示出し側だったのもあって、結構みんながんばれてましたね。逆に指示出される側のコメディカルは、勤務時間が僕らよりも少なくてもバンバン消えてってましたし。やっぱり裁量の有無は大きいなぁと
私も同様の記憶が数多くある。
例えば、私が新人の時に一番キツイと感じた仕事が、実は「上司・先輩のコンサルタントへの同行」だった。
「上司や先輩のコンサルタントへの同行なんて、任せてればいいからラクじゃない」
という方もいるが、とんでもない。あれは一番負荷が大きい仕事の1つだ。
仕事に慣れておらず、自分だけでは何一つできない状態で、先輩からの指示だけ飛んで来る。
・議事録つくってお客さんに投げといて
・お客さんに様式をわたしておいて
・日程調整しておいて
・説明会の案内を作っておいて
……
仕事がよくわからないながらも、飛んでくる指示をこなすことで一杯一杯となるあの状態。
さらに、お客さんに訪問したときは自分はひたすら「聴いているだけ」である。
ずっと黙っているのは非常に苦痛であるし、お客さんは全くコチラを向いてくれない。当たり前だ。金魚のフンのようにくっついてきている若造に、だれが話をしたい思うだろうか。
客先でも、先輩からも「下っ端」として扱われ、自分の裁量のないところで夜11時、12時まで拘束され、働くことを想像してほしい。
これが「精神を病んでいく」働き方の本質である。
それでもわたしはかなりマシだった。
会社には「独り立ち迄のルール」が定められており、何回か先輩と上司の同行を受ければ、あとは「一人でやりなさい」という明確なルールがあったからだ。
そのルールに定められた規定回数をすぎれば、責任は重くなるが、自分の好きなようにやれる、自分のペースでやれる、お客さんとまともに話すことができる。
そう思えばこそ、あの時期に超長時間労働に耐えることができたのだと思う。
逆に「お前なんか、まだまだ若造だ」
とか、「本当にだめなやつだ、一人前になるのはかなり先だな」
と言われながら同じような働き方を続けなければならなかったとしたら、そして会社を辞めることができない状態なら、かなりの割合で抑うつになったのだろうと推測する。
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人間は本能として「コントロールする能力」を失うと、生きる力を失う。
ハーバード大の社会心理学教授、ダニエル・ギルバートは次のように述べた。*1
人間はコントロールへの情熱を持ってこの世に生まれ、持ったままこの世から去っていく。
生まれてから去るまでの間にコントロールする能力を失うと、惨めな気分になり、途方に暮れ、絶望し、陰鬱になることがわかっている。死んでしまうことさえある。
そして、彼はそれを実証したこんな研究に触れている。
地域の老人ホームの入所者に観葉植物を配った。
・半数の入所者には自分で植物の手入れと水やりを管理するように伝える(コントロールする能力を与えられた側、高コントロール群)
・後の入所者には職員が植物を世話すると伝える(コントロール能力を奪われた側、低コントロール群)
6ヶ月後、後者では30%の入所者が死亡していたのに対して、前者では死亡はわずか15%だった。
さらに、追試研究によって、コントロール能力が老人ホーム入所者の福利にいかに重要であるかが確かめられたが、同時に予期せぬ不幸な結果も招いた。
学生を雇って、入所者を定期的に訪問させた。
・高コントロール群の入所者には、訪問してほしい日時を自分で決めさせた。
・低コントロール群の入所者には、日時を決める自由はなかった。
2ヶ月後、高コントロール群の入所者は低コントロール群の入所者より幸せで、健康で、活動的で、薬の服用量が少なかった。
ところがこの研究が終了し、学生の訪問が終わった数ヶ月後、高コントロール群の入居者の死亡が極端に増えた。
研究者たちは愕然とした。
原因はあきらかだった。高コントロール群の入居者は、研究が終わった瞬間、コントロール能力を取り上げられてしまったからだった。
コントロールを得ることは、健康や幸福にプラスに働くが、コントロールを無くすのは、はじめから持っていないよりも深刻な事態を招きうる。
電通で自殺した女性は、ある意味「何もかも自分でコントロールできる人生」を歩んできたはずだ。
容姿に恵まれ、学歴に恵まれ、そして就職も電通、人生は「ある程度コントロールできる状態」だっただろう。
だが、その「人生のコントロール能力」は一瞬にして奪われた。会社の中では、何もかもが予測不能で、自分の裁量はほとんどない。
彼女は深い絶望に襲われたのだろうと思う。
マネジャーは「指示を出される側の苦痛」を知らなければならない。
裁量のない仕事、それは時として、マネジャーが想像するよりも、遥かに大きな精神的苦痛なのだ。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】 ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。
(2025/6/2更新)
こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ——
「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。
【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
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