私の会社では、即戦力を期待して経験者採用にこだわるのは随分前にやめており、今は新卒を含む未経験者も積極的に採用しています。
そういった実務未経験で応募される方のほとんどは、熱意を一番の武器として応募してきます。
私自身も、実務未経験でデザイナーになろうとした28歳時の転職活動では、いかに自分が本気でやる気があるかを必死で伝えようとしました。
これまで経験や実績がない以上、熱意で訴えるのは当然であり、その作戦自体は間違っていないと思います。
熱意は思考量に転換され、思考量は行動量に反映される
しかしその一方で、言葉だけで熱意を伝えようとする方も多く、それは熱意の伝え方として有効ではないな、と思ったりもします。
例えばデザイナー志望の実務未経験者が
「デザインの仕事に憧れていました」
「私が本当にやりたいのはこれだと思いました」
といくら言葉を尽くしても、職業訓練校の課題で作ったものしか作品がなかったら、残念ながら熱意は伝わってきません。
言葉だけならいくらでも熱意を演出できるからこそ、言葉だけで熱意に説得力を持たせるのは難しいのです。
その一方である日
「デザイナーになりたいけど今は作品がないので、作品を作って応募します」
というメッセージを見知らぬ学生からSNS上でもらいました。
約半年後、その学生から再び「作品が揃ったので面接を受けさせてもらえませんか」というメッセージを受け取りました。
添えられていたURLの中には、粗削りではあるものの、その学生なりに考えて作ったであろう10点以上の作品が並んでいました。
エントリーシートを見るまでも、面接をするまでもなく、その学生の熱意を十分に感じ取ることができました。
この例でも分かるように、熱意を伝えるというのはようするに行動量を示すということなのです。
熱意を数値で表すことはできませんが、熱意は思考量に転換され、思考量は行動量に反映されるものだと思います。
だから、実績も経験もなく、交渉の武器が熱意しかないのなら、言葉だけでなく、熱意が表面化した行動量を示すのが、もっとも効果的で分かりやすい方法だと思うわけです。
このような話をすると
「作品のようなものが作れない職業の場合どうすればいいのか」
という疑問を持つ方もいるでしょう。
例えば当社で募集している「マーケター」や「ディレクター」も、作品を用意しにくい職業であるように思えます。
しかし、求められているのは「行動量の多さを示すこと」なので、作品が作れないのなら、作品に代わる何かで行動量=熱意を示せばいいわけです。
例えばマーケターだったら
著名企業30社のマーケティング分析であるとか、
カスタマージャーニーを20個作るとか、
マーケティングの本を毎月4冊以上読んでブログに考察をアップするとか、
Twitterを運営してマーケターをフォローして毎月2回以上イベントに参加するとか。
もちろんそれだけで採用されるほど世の中は甘くはないでしょうが、少なくとも「マーケティングに興味があります」と言葉だけで伝えるより、熱意ははるかに伝わりやすいはずです。
このように、言葉だけの熱意では相手の心が動かないというケースは、就職・転職に限らず、仕事の中でもしばしば見かけます。
ある企業で新規事業のスタートが決まった時
「このチャンスを私のキャリアを変えるきっかけにしたいです。是非私にやらせてください」
と、あるエンジニアが真っ先に手を上げました。
ただ、そのエンジニアのスキルはあまり高くなかったため、新規事業の責任者は
「開発が始まるまでに必要なスキルを身に付けてほしい。それが十分なら任せたい」
と条件を付けました。
結局、そのエンジニアがその新規事業に関わることはありませんでした。
なぜなら、期限までにこれといった勉強をしてこなかったためです。
世の中はどちらかというと控えめな人が多く、だからこそ率先して手を挙げる人は、比較的チャンスを掴みやすい傾向があるように思います。
一方で、率先して手を挙げればチャンスがもらえる、言葉で熱意を伝えれば受け入れてもらえるという本質的ではないライフハックが、一部では通用しているようにも思います。
しかしながら、事業は遊びではありません。
仕事において、経験不足・実力不足の状態でチャンスを掴みたいなら、言葉ではなく行動量で熱意を示し
「未知数だが先行投資しよう」という相手の気持ちを促すしかないわけです。
熱意は相対評価
それともう一つ、「熱意は相対評価される」という特性も覚えておきたいところです。
熱意は
「本当に感銘を受けました」
「すごくやりがいを感じています」
「私の人生の中でこんなに興味を持ったことはありません」
といったように、基本的に一人称で語られます。
しかし、ビジネスの中で熱意が評価されるためには、独りよがりの一人称の熱意ではなく
「他人と比べてどの程度の熱意なのか?」
という点が重要になってきます。
デザイナーの転職活動の例でいえば、自分の中では一生懸命がんばって作品を作りましたということではなく、他のデザイナーと比べて作品数が多いのか・少ないのかで熱意が評価される、ということです。
もし世の中の未経験デザイナーが、作品を1つも作ってこないのが通例なら、1つ作ってきただけで熱意があると判断されるでしょう。
しかし、多くの未経験デザイナーが3つくらい作ってくるのが普通だとすると、1~2では熱意がない、3つで普通、4~5つでやや熱意がある、という判断になるのではないでしょうか。
このように、熱意を評価されたいのであれば、自分の中だけの、独りよがりの基準で行動量を示すだけではなく、評価者の中にある平均値を上回る行動量を示す、という視点が必要になってきます。
といいつつも、多くの場合において「評価者の中にある平均値」を知る手段はないでしょう。
就職活動や転職活動のように、評価者がその都度変わってしまうことも少なくありません。
では、平均値を知ることもできず、評価者も流動的な場合、どうやって目標とする行動量を決めればいいのでしょうか?
「異常値」を目標として設定する
答えはシンプルで、そんな時は、誰が見ても圧倒的に平均値を超えているであろう「異常値」を目標として設定すればいいわけです。
例えば私が未経験でデザイナーを目指していたとき、通っていたスクールの先生が、「転職活動をするときは10個くらい作品があるといい」という言い方をしていました。
その場合の異常値はいくつになるでしょうか?
その時の私は30個と判断しました。
「10個くらいあればいい」という言い方だと、もし厳しく評価する会社に当たったら、「10個では少ない」と判断されるかもしれないと考えました。
でも30個も持っていけば、作品数が少ない=熱意がないと思われてしまう確率をかなり低くすることができるだろう、と思ったわけです。
未経験で実力不足でもあったので、だからといって私のその時の転職活動が順風満帆になったわけではありませんが、作品を提示できる機会があった時に、門前払いを受けたこともありませんでした。
私を不採用としたあるデザイン会社の社長さんからは「熱意は認めるけど、スキル的に厳しい」と言われたので、熱意だけは伝わったようでした。
「熱意を感じる」という言葉は、仕事の中で頻繁に飛び交っており、しかも熱意を重視して意思決定されることも珍しくありません。
しかし、熱意は気温や体温のように計測することができません。
「この文章には熱がこもっている」などと言われることもありますが、文章というのは文字の集積に過ぎず、文字はスクリーンに映し出された光の点や紙に塗られたインクの集まりで、それ自体に温度があるわけではないはずです。
では、何をもって人は熱意を認識しているのでしょうか?
その一番の基準になっているのが行動量であり、平均的な行動量を明らかに超えた異常な行動量が確認できると、「この人には熱意がある」と人は認識するのだと思います。
デザイナーの就職活動であれば、平均を明らかに上回る作品数を見せられると、面接官はその人に熱意を感じるでしょう。
新規事業への参加を希望する未熟なエンジニアであれば、事業責任者の想像を超える学習量をこなし、それを示せば、困難に立ち向かえるだけの十分な熱意があると伝わるでしょう。
文章であれば、異常なまでの文章量、異常なまでの体系化、異常なまでの網羅性、異常なまでの思考量、異常なまでの調査・分析量、異常なまでの作り込みを示せば、熱量の高い文章と読み手に思われるでしょう。
熱意を伝えるというのは、平均的に、卒なく、無難に、皆と同じに、とはまったく逆の姿勢が要求される行為です。
もし、自分の熱意がなかなか認められないと思う時は、言葉だけではなく行動量をきちんと示せているか、その行動量は平均値ではなく異常値といえるものか、ということを振り返ってみるといいのではないでしょうか。
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【プロフィール】
枌谷 力
株式会社ベイジ代表。
新卒でNTTデータに入社。4年の企画営業経験の後、デザイナーに転身。制作会社を2社を経て、2007年にフリーランスのデザイナーとして独立。2010年に株式会社ベイジ設立。経営全般に関わりながら、クライアント企業のBtoBマーケティングや採用戦略の整理・立案、UXリサーチ、コンテンツ企画、情報設計、UIデザイン、ライティング、自社のマーケティングや広報、SNS運用、ブログ執筆など、デザイナー、マーケター、ライターの顔を持つ経営者として活動している。
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(Photo by Alice Dietrich on Unsplash)