自分の無知や弱点を晒すことは、学びを得る上で非常に重要なことです。
かつてソクラテスが言ったように、「自分が何を知らないか」ということを認識するのはどんな人にとっても大変困難なことでして、多くの場合他者との接触を通して「自分の無知」を認識する他ありません。
その意味で、「俺はこれについて何も知らない」ということを、我々はどんどんオープンにしていくべきなのです。
ということで恥を忍んで申し上げるのですが、しんざきは料理というものについて全く、さっぱり、完全無欠に知見がありません。
今までの40年程の人生、料理というスキルに殆ど触れずに生きてきてしまいました。
いや、決して、私が「男子厨房に立たず」などという時代錯誤な主義を持っているわけではないのです。
厨房には立ちます。
皿も洗えばシンク掃除もするし生ごみの始末も排水口の掃除もします。
そこについては主張させてください。
ただ、しんざき家では得意分野に基づく家事分担システムを構築しておりまして、しんざき奥様が料理好きであり、また料理の味にもこだわりがあるということもあり、大筋「料理は奥様、掃除は私」という大きな専門分野を設け、育児については二人共通タスク、それ以外の家事についてはこまごま分担しておりました。
で、しんざき奥様が体調が悪い時は、お惣菜を買ってきたりデリバリを頼んだりで切り抜けてきたのです。
とはいえ、結果として、私が「料理」という広大なスキル分野から、「専門領域」という言葉を言い訳にして丸々逃げてきたのだ、ということについては否定のしようがありません。
私がどれくらい料理スキル皆無だったかというと、まず火の使用が出来ません。
正確にいうと、こんろを用いて火を起こすことは出来るのですが、それを使って何らかの食物を熱したということがありませんでした。
つまり火というものを積極的に利用したことがありませんでした。
ヒト属が火を日常的に広範囲にわたって使われるようになったことを示す最古の遺跡は、およそ12万5千年前のものだそうです(Wikipedia調べ)。
それ以前からヒト属が火を使用していたという説も様々あるのですが、まあ最低でも10万年前には既に、人は火というものの利用に広範に馴染んでいたと考えても問題はないでしょう。
そこから考えると、私はヒトたるものの水準から遠く10万年は遅れているということになります。
なんということでしょう。
10万年て。
デーモン小暮閣下まだ産まれたばっかの頃やん。悪魔と伍する程の人類史的周回遅れです。どうすんだ。
ところで最近、コロナの影響で子どもたちの通学がなくなり、必然給食もなくなりました。
結果、私の専門分野である掃除の頻度は変わらないものの、一方炊事の頻度は激増しました。
これはタスクの偏りを意味してあまりよろしいことではありません。
一方、長男は最近子どもリーダーとしての成長著しく、妹たちに勉強を教えるばかりか、奥様に料理を習って妹の為に朝ご飯や昼ご飯をちょこちょこ作ってあげる、というレベルにまで達していました。
しかも決して「サンドイッチ」とか「おにぎり」といった手間の少なそうな料理ではなく、お味噌汁やらオムレツやら生姜焼きやら、ちゃんと手間がかかっていそうな料理を作れるのです、彼。とても偉い。
とはいえ、料理のレベルでは既に私が遠く長男に置いていかれていること疑いなく、父の権威が早晩大地に転落するどころか、そのままドリルのように地下に潜って遠くペルシダーを目指す未来は既に見えております。
ということで、一念発起して私も料理を始めてみました。
人類史的な飛躍の時です。私はまだほんの40才。
仮に平均寿命まで生きることになるとしたら、人生の幕を閉じるまでまだ40年くらいはあります。
40年も料理をすればさすがにそれなりのものにはなるでしょう。
人間、何を始めるにも遅すぎるということはない。
以下は、40になって初めて料理を始めた完全無欠の初学者が、一月程度で得た知見の一部です。
手順の粒度というものに打ちのめされた
例えば、「カレー 初心者 レシピ」という検索ワードでぐぐるとします。
様々なレシピが表示されます。
「初めてでも安心!カレーの作り方」といった文章が表示されます。
優し気な感じに安心してクリックします。
而して、そこには例えば最初の手順として、「野菜の皮をむいておきます。」「肉と野菜を一口大にきります。」といったものが書かれているわけです。
分かる。分かります。
普通の人からすれば、「野菜の皮を剥く」というのは極めて自明な、あるいは理解しやすい手順なのでしょう。
しかしこちらは初学者です。
例えば人参があったとして、「これはどこまでが排除するべき皮で、どこからが食べるべき実なのか?」ということが判断出来ないわけです。
玉ねぎってあれどこまでが皮なの?本体ないんやけど。
あるいは、「じゃがいもはレンジでチンをすると剥きやすくなる」という情報に触れて、レンジでチンをした後直接じゃがいもを触って手を火傷したりするわけです。
めっちゃ熱いやんアレ。
つまり、手順の粒度が大変に荒いというか、本来であれば簡単に脳内で補完出来るところ、その前提知識がない為にこの粒度の手順についていけないわけです。
用語についても割と壊滅的で、例えば「揚げる」というものは「炒める」と具体的にはどう違うのか、実際に「揚げる」為には何を準備してどうすればいいのか、というのが良く分からない。
ひどいもんです。
いや、皆さん笑うと思いますが、これ、多分どんな分野であっても、「全く触ったことがない初学者」ってきっとこんなもんだと思いますよ?
パソコン触ったことがない会社のおじさんに、「まずExcelを立ち上げてください」と言っても、相手はそもそもパソコンの電源の付け方が分からないし、その後のログインの方法も分からないわけです。
「分からない時の気持ち」というものは既に分かっている人間にとっては極めてくみ取りにくいものですので、この年になって「完全な初学者」の立ち位置に自分を置くことが出来るのは大変貴重な機会、マジで有益なことだったと思っています。
これで私には、誰かに何かを教える時、「相手が初学者なら、自分に料理を教えるつもりで教えろ」という重要な基準が出来たわけです。
以前安達さんが、「30代後半からは、意図的に「教えてもらう側」に回り続けないと、学びがどんどん下手になる。」という記事を書かれていましたが、これは全くその通りだと思うのと同時に、「学び続けないと、教えることも下手になる」なあと。
全く知らない側の気持ちを自ら思い出すことも重要だなあ、と。
そんな風に思ったわけです。
「複数の料理を同時に作る」という行為の物凄さを実感した
というか、世間の主婦の皆さんは、一体どうやっておかずを二品も三品も用意しているんでしょうか?
なんであんな複雑な工程を同時並行で進められるんですか?本気で謎。
いや、料理って基本マルチタスクの塊でして、シングルタスクを徹底しようとすると目玉焼き一つ作るのに1時間くらいかかってしまいかねないので、どうしてもある程度は平行作業が発生してしまうのですが、あれ本当に大混乱します。
バスカイアーです。
そもそも初学者の最大の弱点は「とにかく手が遅い」ということ、及び「リソースに余裕がない」ことなので、おかずを二品も三品も作るなんて到底出来っこないわけで、かといってそれでは夕飯が成立しません。
奥様に教えを請うたところ、「慣れてくると手が抜けるようになるから、それで空いたリソースを他に使うだけ」と言われたんですが、ちょっと待って下さい、それそんな簡単に言えることなんですか。
私コーディングしてる時にちょっとリソースを開けて書類仕事片付ける、とか滅茶苦茶苦手なんですけど。
世間の人は一体どうやってあんな凄まじいマルチタスクを平然とこなしているんですか?
結果、私自身は切れてる野菜やらブロッコリーやらで適当にサラダをでっちあげて誤魔化したりしたんですが、以前から料理が出来る人を崇敬してはいたものの、自分でやってみて更に「料理」というものの物凄さが実感出来、食べる時にもより真剣に感謝が出来るようになったということなのです。
しんざき奥様の料理めっちゃ美味しい。
あと、皆さん手を抜く時は手を抜いてくださいホントに。
夕飯カップ麺でもええやん。
なにはともあれ、必死の努力の甲斐あって多少は料理も作れるようになってきはしまして、
プラスチックしゃもじでフライパンの炒飯混ぜてたらしゃもじが溶けそうになったり、毎度毎度何かの冗談のようにフライパンがこげついたりはしつつ、一応食べれるものも作れて子どもたちに喜んでもらえたりしておりまして、料理を始めて良かったなーと思うわけです。
以下は最近作った夕飯の画像です。
奥様の休み時間を増やす為にも、今後とも精進したいと考える次第です。
今日書きたいことはそれくらいです。
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(2024/12/6更新)
【著者プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城
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