『ルポ 技能実習生』(澤田晃宏著・ちくま新書)を読みました。

 

「技能実習生」という制度に対しては、ネガティブなイメージを持っている人が多いのではないでしょうか。

僕も、「外国から連れてこられて人間扱いされず、狭い部屋に押し込められ、安い給料で奴隷のような過酷な労働を強要される人々」だと思いこんでいたのです。

 

もちろん、そういうひどい目にあって、あこがれていたはずの日本が嫌いになって帰国していく実習生もいるのです。

しかしながら、このインターネット時代、多くの実習生の肉声がSNSなどで公開されているなかで、そんな「奴隷労働」のために日本にやってくる人たちが、そんなにいるのだろうか?と著者は問いかけています。

 

言われてみれば、たしかにその通りではありますよね。

著者は、その答えを求めて、日本への技能実習生の最大の供給国であるベトナムを訪れ、実習生たちの「その後」も取材しています。

日本では、2007年頃から人手不足問題が出てきたのですが、2011年末には1万3789人だったベトナム人実習生は、2019年末の時点では、その10倍以上の21万8727人に達し、実習生全体の53%を占めるようになっているそうです。

 

著者は「序章」で、高卒で就職し、25歳で結婚して27歳で35年の住宅ローンを組み、2000万円を借り入れてさいたま市に20坪の家を建てた日本人男性と、日本で技能実習生として貯めたお金で、故郷に家を建てたベトナム人の若者を比較しています。

 

著者は、実習生だったベトナム人の若者が建てた家を訪れたときのことを、こう書いています。

筆者は、ベトナム東北部に位置するバクザン省ルックナム県のクォアンハイという小さな村にいた。ひと際目立つその家は、にわとりが我が物顔で歩く、ぬかるんだ道の先にあった。

ベトナムの地方で見る戸建て住宅は、靴置き場のようなものはなく、観音開きの玄関を開けるとすぐにダイニングルームが広がっている。訪れた時は、そこで、大阪の食品製造会社の技能実習生として働くグエン・ヴァン・ロイさん(24歳)が、家族と食事をしている最中だった。床に敷いた敷物の上に食事を並べ、それをみんなで囲んで座りながら食べる。ベトナムの地方で見られる一般的なスタイルだ。

ロイさんは三年間の技能実習を終え、一時帰国している最中だった。明日、ハノイに移動し、明後日、ノイバイ国際空港(ハノイ市)から日本に向かうという。ロイさんは言った。
「残業も多く、手取りは17万円あります。もう少し、稼ぎたいです」
生活費として3万円。残る14万円は毎月、仕送りしてきた。その間に、約300万円の自宅借金は完済した。ロイさんは再び日本にわたり、二年間の技能実習を続ける。最長三年間だった技能実習は、2017年11月から最長五年に拡大されている。

ロイさんのほかに食事を囲むのは、両親と、同じ技能実習生として日本で知り合った彼女だ。大阪で技能実習生をしていた二人は、電車内で声を掛け合い、地元が同じだったことから、急速に距離を縮めたという。

この場にはいなかったが、ロイさんの姉も技能実習生として名古屋の会社で車のドアフレームの検査をしている。さらには、その姉の旦那も元技能実習生だという。

そんな息子たちが働く日本からやってきた筆者は、当然、大歓迎だった。

茶碗には山盛りのごはん、そして、父親のタンさん(51歳)がボトルを掲げ、筆者に目配せをする。ビールではなく、コメ焼酎。ショットグラスに入れて乾杯し、それを一気に飲み干す。この繰り返し。
「こんな立派な家を建てて、かわいい彼女もつれてきて、お父さんは幸せ者ですね」

通訳を通して伝えると、にっこり笑って、またお酒をついできた。

 

(中略)

 

幸せな若いカップルの背中を目で追うと同時に、猛烈な感情が込みあがってくる。それが何かに気づくのに、それほど時間はかからなかった。

嫉妬だ。筆者は未婚の38歳。常々、親孝行したいとは思っているが、フリーの物書きという不安定な仕事を続けているせいだが、いつも自分の生活で精いっぱいだ。ろくに親の生活を助けることもできなければ、40歳を前にして孫の顔を見せることもできない。

ところが、この技能実習生はどうだ。弱冠24歳にして家を建て、素敵な彼女を連れて帰ってくる。完璧じゃないか。しかも、さいたまで見た35年ローンの家じゃない。三年で家が建つのだ。まだ働きたいって、今度は何を始めようって言うんだよ……。

お酒が入っていたせいもあり、感情が乱れた。食品製造業の技能実習と言っても、お弁当にお惣菜をつめたりするだけの簡単な仕事じゃないか。なんで、それで家が建ったり、奥さんを迎えられたりするんだ。

これを読んで、僕もひとりの日本で暮らす人間として、著者に感情移入せずにはいられませんでした。

技能実習生は、経済格差を利用されて、過酷な単純労働を安い給料でやらされている「かわいそうな人たち」というイメージは、「こちら側からみた、彼らの姿」でしかないのです。

 

彼らが日本で働く先を選ぶ基準のひとつは「残業が多いこと」であることを著者は繰り返しています。

「残業が少ないこと」の書き間違えじゃなくて、本当に「残業が長くて、その分の手当がもらえること」を強く希望しているのです。

いまの日本の若い労働者の感覚とは、あまりにかけ離れていることに戸惑ってしまいます。

 

実習生たちは、ちゃんとしたところで働くことができれば、日本での数年間で200万円から300万円の仕送り(貯金)ができて、地元に家を建てたり、新しい事業を始める資金を得られたりするのです。

さらに、日本で働いていた縁で、ベトナムに進出してきた日本企業で働く、という道が開けることもあります。

 

もちろん、異国での出稼ぎ生活、長時間の単純労働は、けっしてラクでも面白くもないと思います。

しかしながら、「3年間がんばって働けば、その後の人生を変えることができる」という希望を実習生たちは持っているのです。

「刺激も専門性もない単純労働」だけれども、誰にでもできそうなその仕事を3年間続ける「だけ」で良いとも言えます。

 

日本人が同じ労働をしても、稼げるお金は「とりあえず食べていける」くらいにしかならず、貯金なんてできないし、周りの人に成功者としてうらやましがられることもありません。

この本を読みながら、僕の父親世代の高度成長期の日本人も、「社畜」なんて言われながらも、自分の労働がきちんと報われることに充実感を抱いてもいたのだろうな、と考えていました。

 

ただし、この経済格差を利用しての「技能実習生受け入れ」というのが、今後もずっと続いていくかどうか、というのは未知数なのです。

実習生が日本に来るためには、100万円くらいの費用がかかり、中間でマージンを搾取する人たちも暗躍しています。

 

人手不足は日本だけの問題ではなく、台湾や韓国などの他国でも外国人労働者を日本よりも好条件で積極的に受け入れつつあるのです。

ベトナムという国も、近年はめざましい経済成長を遂げており、日本との賃金の格差は「わざわざ出稼ぎに行くほどではない」くらいになっていくでしょう。

 

経済成長が停滞している日本は、近い将来、アジアの国々に出稼ぎに行く若者が増えていく可能性もあるのです。

IT産業など一部の業種では、すでに、優秀な人材の海外への流出もはじまっています。

雇う側も、人手不足のなかで、外国人労働者を求めているのです。

その一方で、外国人労働者の待遇向上に関しては、そんなに簡単にはいかない、というのが実情のようです。

 

著者の韓国での取材より。

韓国取材では最後に安山市内のプラスチック工場を訪ねた。同社は産業研修生時代から外国人を採用し続けている。同社の経営者は、匿名を条件に取材に応じた。経営者は外国人労働者の給与明細を筆者に示しながら、こう語気を荒げた。

「雇用許可制は100%間違っている。韓国人と同様の待遇にしなければならないとするが、言葉も話せず、仕事も一人前ではない労働者となぜ同等なのか」

給与明細に記された外国人も月額給料は300万ウォン(約27万円)近い。専用寮を準備し、食事も無償で提供しているという。

「製造業は三年でようやく一人前。それまでは投資。韓国人はそこから何十年と働き、会社に利益を出してくれる。外国人はこれまで雇用許可制で100名以上受け入れてきたが、4年10か月で帰国し、再び延長して働きたいと戻ってきた人はいない。最低賃金が急激に上がっており、これ以上外国人を雇用できない」

この経営者と同業種の会社は、外国人雇用を断念し、カンボジアに工場を出した。韓国では300万ウォン(約27万円)近い人件費がかかるが、カンボジアの場合、同じ作業でも人件費は月130ドル(約1万5000円)になるという。この経営者も外国人の採用を辞め、自社のベトナム工業を再稼働させる予定だという。

「自社の工場があるベトナムなら賃金は月額300~500ドル(約3万3000~5万5000円)程度だ。外国人を採用するのではなく、国外に出ることになる」

期間限定では労働力になり得ない。日本より約15年早く単純労働分野で働く外国人を受け入れた韓国では、新たな問題に直面しているようだった。日本でも転職が認められる特定技術の導入で、外国人労働者の待遇は上がるかもしれない。

待遇が上がるといっても、業種や企業の差が広がり、それが労働者の失踪の原因となる、ということも指摘されています。

彼らは、「とにかく短期間でまとまったお金を稼ぐ」ために出稼ぎに来ているので、賃金や残業時間の長さを重視しているのです。

 

技能実習制度の光と影、これまでは、その「影」の部分ばかりが強調されがちだったのに対して、「なぜ、それでも彼らは日本にやってくるのか?」についても説得力のある取材がされていて、読み応えのあるルポルタージュでした。

 

この本を読むと、日本人が「技能実習生」として外国で働くようになる日も、そんなに先のことではないな、と考えざるをえなくなるのです。

前述の韓国の「月給27万円、専用寮に食事も無償提供」なんて、うらやましく感じる日本人も大勢いるだろうし(ちなみに、日本での「期間工」の募集も、同じくらいの条件のようです)。

 

 

 

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【著者プロフィール】

著者:fujipon

読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。

ブログ:琥珀色の戯言 / いつか電池がきれるまで

Twitter:@fujipon2

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